このコラムもいよいよ最終回になりました。これまで中国の料理がアジアでどのように変化し、食されてきたのかを書いてきましたが、書いている本人もどんどんのめり込んでしまい、旅の間、ずっと新しい素材を探し続けるという、これまでにない体験をさせて頂きました。感謝いたします。
さて、最後は豆腐です。大豆加工食品として、日本でも定番中の定番の食材であり、中国でもよく使われますね。実は豆腐(Doufu)は中国語と日本語で似通っていますが、日本が冷奴など生で食べることがあるのに対して、中国では麻婆豆腐に代表されるように、必ず熱を加えていることが特徴でしょうか。そういえば中国の豆腐は少し硬い物が多いようです。
因ちなみに中国では玉子豆腐のことをなぜか「日本豆腐」と言います。玉子豆腐は鶏卵とだし汁で作られており、大豆などを使用していないので豆腐ではありませんが、豆腐状に固められた物をそう呼ぶようです。中国の日本料理屋さんの定食には必ず茶碗蒸しが付いてくることから考えて、この呼び方になったのかな、と勝手に想像しています。
ついでに言えば杏仁豆腐、これも豆腐ではないのに、豆腐という名称が付いていますね。元々は中国で漢方薬として用いられていた杏仁、これを日本に来た中国人がデザート化した、つまり日本発祥なのでは、とこちらも勝手に想像しています。
20年前香港に駐在している時、よく行く広東料理屋さんで「杏仁豆腐の作り方を教えて」と言われたほど、日本人観光客が注文していましたが、当時の香港にはないデザートでした。因みに香港に住み始めた時、家内がスーパーで買ってきた豆腐を味みそ噌汁に入れたところ、甘くなってしまったことがありました。これが香港のデザート、豆花だと知ったのは後のことでした。
ミャンマー東北部、中国雲南省と国境を接するシャン州へ行くと、ローカル市場ではひよこ豆で作られた黄色い豆腐が売られていました。この豆腐を揚げて生しょうが姜ペーストを付けて食べると、何とも言えない美おい味しさで全て平らげました。ミャンマーでも豆腐は「トーフ」と言っています。
またシャンヌードルと呼ばれる麺があるのですが、このヌードルにはスープの代わりに軟らかい豆腐をかけて食べる、トーピヌエカオソイというものがあり、これがまた麺とよく合っていて、何杯でもお代わりできそうな味でした。
ベトナムのハノイ、市場で揚げた豆腐を食べてみると、香ばしい表面と軟らかい中身、絶妙の取り合わせでした。ここでも豆腐はドウと呼ばれていました。バンコクの華人が多く住む地域に中国大陸から来た豆腐職人が「豆腐を作る技術があればアジアのどこへ行ったって、食いっぱぐれはない」と言うのを聞き、なるほどなと思いました。中国料理の伝播と共に豆腐も伝わっているのです。
台湾などで屋台街を歩いていると強烈なにおいを発する臭チョウ豆腐と出会うこともあるでしょう。旅しているとあの臭豆腐が無性に食べたくなったりしますね。皆さんも是非アジアを旅して、各地の豆腐をご賞味ください。