「NHKテレビで中国語」カテゴリーアーカイブ

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2015年3月号第12回『豆腐いろいろ』

このコラムもいよいよ最終回になりました。これまで中国の料理がアジアでどのように変化し、食されてきたのかを書いてきましたが、書いている本人もどんどんのめり込んでしまい、旅の間、ずっと新しい素材を探し続けるという、これまでにない体験をさせて頂きました。感謝いたします。

さて、最後は豆腐です。大豆加工食品として、日本でも定番中の定番の食材であり、中国でもよく使われますね。実は豆腐(Doufu)は中国語と日本語で似通っていますが、日本が冷奴など生で食べることがあるのに対して、中国では麻婆豆腐に代表されるように、必ず熱を加えていることが特徴でしょうか。そういえば中国の豆腐は少し硬い物が多いようです。

因ちなみに中国では玉子豆腐のことをなぜか「日本豆腐」と言います。玉子豆腐は鶏卵とだし汁で作られており、大豆などを使用していないので豆腐ではありませんが、豆腐状に固められた物をそう呼ぶようです。中国の日本料理屋さんの定食には必ず茶碗蒸しが付いてくることから考えて、この呼び方になったのかな、と勝手に想像しています。

ついでに言えば杏仁豆腐、これも豆腐ではないのに、豆腐という名称が付いていますね。元々は中国で漢方薬として用いられていた杏仁、これを日本に来た中国人がデザート化した、つまり日本発祥なのでは、とこちらも勝手に想像しています。

20年前香港に駐在している時、よく行く広東料理屋さんで「杏仁豆腐の作り方を教えて」と言われたほど、日本人観光客が注文していましたが、当時の香港にはないデザートでした。因みに香港に住み始めた時、家内がスーパーで買ってきた豆腐を味みそ噌汁に入れたところ、甘くなってしまったことがありました。これが香港のデザート、豆花だと知ったのは後のことでした。

ミャンマー東北部、中国雲南省と国境を接するシャン州へ行くと、ローカル市場ではひよこ豆で作られた黄色い豆腐が売られていました。この豆腐を揚げて生しょうが姜ペーストを付けて食べると、何とも言えない美おい味しさで全て平らげました。ミャンマーでも豆腐は「トーフ」と言っています。

またシャンヌードルと呼ばれる麺があるのですが、このヌードルにはスープの代わりに軟らかい豆腐をかけて食べる、トーピヌエカオソイというものがあり、これがまた麺とよく合っていて、何杯でもお代わりできそうな味でした。

ベトナムのハノイ、市場で揚げた豆腐を食べてみると、香ばしい表面と軟らかい中身、絶妙の取り合わせでした。ここでも豆腐はドウと呼ばれていました。バンコクの華人が多く住む地域に中国大陸から来た豆腐職人が「豆腐を作る技術があればアジアのどこへ行ったって、食いっぱぐれはない」と言うのを聞き、なるほどなと思いました。中国料理の伝播と共に豆腐も伝わっているのです。

台湾などで屋台街を歩いていると強烈なにおいを発する臭チョウ豆腐と出会うこともあるでしょう。旅しているとあの臭豆腐が無性に食べたくなったりしますね。皆さんも是非アジアを旅して、各地の豆腐をご賞味ください。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2015年2月号第11回『具を包むから包子』

「餃子と饅頭はどのように区別されているのでしょう」と聞かれたことがあります。これまでの経験でいうと、中国の饅頭は具が入っていない物を指すようです。具を入れて包むので包子というのだと理解していますが、例外も沢山ありそうですね。

餃子も包子の一種でしょうか? 中国には上海の小籠包や広東の叉焼包など美味しい包子が色いろ々いろとありますね。筆者は台湾へ行くと、台湾の有名な小籠包屋さんの豆沙包という餡子入りの包子を、デザートとして必ず注文しています。

中国内モンゴル自治区では「焼麦」という包子を見つけました。小麦粉で作ったごく薄い皮の中に、羊肉やみじん切りの野菜、調味料を加えたものを包んで蒸したもので、元代より伝わる巾着形できれいな形をしています。「焼き」と書きながら蒸すのが特徴で、面白いですね。因ちなみに北方では〈焼麦〉、南方では〈焼売〉というとのこと、あのシュウマイの原型のようです。

内モンゴルの北にあるモンゴル国では肉まんをボーズ(包子から派生)といい、こちらも千切りの羊肉がたっぷり入った包子です。新疆ウイグル自治区カシュガルの市場で食べた羊肉入り包子。蒸籠の中の包子の上にナンを載せて、その汁を少し吸い取ります。その後そのナンはシシカバブーの皿になり、我々の目の前に登場しましたが、このナンの味が忘れられません。ナンには塩気があり、羊肉の肉汁との融合が素晴らしいです。お茶の時間には老人が格好いい帽子を被り、茶をすする光景を見ました。お茶請けは焼き羊肉まん、肉汁が大量に出てきますので、熱々で食べると火やけど傷しそうです。

カザフスタンではマンティという名前で出てきました。マンティは饅頭から派生した呼び名だと思われますが、羊の肉が具として入っています。かなり時間をかけて蒸されたマンティはやはり羊肉の肉汁たっぷりで実に美味しかったです。

チベットでは肉まんをモモと言っています。一瞬果物を連想しましたが、インドの東北部、チベットにほど近いカリンポンで食べたモモは形も中身も完全な日本の肉まん。インドでは豚肉を食べることが非常に少ないので、この地で久々に食べた肉まんは日本人としては絶品でした。中国の清朝時代、この地域がチベットやモンゴルと近しい関係にあったことから、伝わったと考えられています。

ミャンマー、ヤンゴンの道端の喫茶店で、ミルクティーを注文すると偶たまたま々出てきた包子。やはり叉焼が入った肉まんであり、発音もバオジと、バオズと類似していました。ちょっと甘い叉焼包を食べながら、甘いミルクティーを飲むと美味しく感じられたのは、ヤンゴンの暑さのせいでしょうか。

アジア各地に広がった包子。若干の発音の違いなどはあるものの、多くは聞き取れる範囲内で、それほど変化していませんでした。同時に味についても、それほど大きな変化はなく、アジア全域に受け入れられた様子が分かります。やはり手軽で便利な食べ物、ということでしょうか。このような食べ物があるとアジアの旅も安心できますね。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2015年1月号第10回『暑い国で食べる美味しい鍋』

我々日本人も大好きな鍋料理。中国でも昔から、北方では涮羊肉(羊しゃぶしゃぶ)など美味しい鍋料理がありました。これが日本に伝わり、しゃぶしゃぶのルーツになったとの説もありますね。その他、最近では「鴛鴦火鍋」と呼ばれる、白湯と麻辣の2種類のスープを1つの鍋の中で仕切って入れ、2つの味を楽しむ火鍋が大流行しています。

庶民が家族で鍋を囲んで食べる、如何にも中国的でいいですね。肉に野菜、豆腐や春雨が入り、キノコ類も人気ですね。ただ火鍋は年々豪華になってきており、以前はシンプルな羊肉だったものが、最近は肥牛(鍋用の薄切り牛肉)に高級牛肉を使ったり、北方でも伊勢海老やホタテなどをふんだんに入れる、高級料理に変身しているところもありました。中国の経済パワーが垣間 見られますね。

涮羊肉に使う鍋をシンガポールやマレーシア辺りではスティームボートと呼び、それが名物料理になっています。エビやカニなど海鮮を中心にふんだんに具材を入れて、あっさりしたスープで煮込む豪快な料理ですが、これなどは中国から伝播したものと言えるでしょう。暑い国なのになぜか食べたくなる、不思議な鍋ですね。

一方、タイでも今や国民食とまで言われるタイスキがあります。「タイ風すき焼き」の略かと思いましたが、日本のすき焼きとは違いますね。いつ頃から食べられ始めたのかタイ人に聞いても良く分かりませんが、中国の鍋をヒントに華人が1950年代に「スキ」と言う名前で売り出したという話があるそうです。スキと言う名は当時海外で流行っていた日本のすき焼きからとったとか。まあ実際のタイスキは、日本で言えば寄せ鍋が近いかもしれません。

特にタレにニンニク、唐辛子などを入れるのが中国的でもあり、タイ的でもあります。シメに麺を入れるか、卵を落としておじやを作るか、というところが日本的で、この名が付いたのかもしれません。現在ではタイ全土にチェーン展開している店もあり、今やタイのどこでも手軽に食べられますね。

ラオスやタイ東北部の鍋としてユニークなのはムーカタでしょうか。こちらは「タイ風焼き肉」とも言われていますが、筆者はラオスの首都ビエンチャンで初めて食べました。食文化的にはタイ東北部とラオスは殆ほとんど一緒だということです。

ムーは豚肉、カタは浅い鍋という意味だとか。日本から入った、いや韓国が起源だ、などと言われているようですが、見ている限り中国の鍋から来たように思えるのですが、どうでしょうか。

そのムーカタですが、真ん中が盛り上がった鍋を使い、その盛り上がった部分で肉を焼きます。そして鍋の縁沿いにスープを入れ、焼き肉の肉汁と融合させ、そこへ野菜や海鮮類などを入れて煮込みます。焼き肉+鍋ということでしょう。このムーカタ料理店はバンコクにも何軒もあり、料金も手ごろなビュッフェ形式が多いようでした。家族や友人同士で鍋を囲み、様さまざま々な食材を好きなだけ取り、楽しそうに食べる、暑い東南アジアですが、なぜか鍋が似合うのです。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年12月号第9回『インドと中国の融合で 出来たカレー』

日本の国民食と言えばラーメンと並んでカレーライスでしょうか。しかしカレーは中国ではなく、インドの発祥だろう、このコーナーとして取り上げるのは適当ではないでしょう、という声が聞こえてきそうです。それでも敢あ えて今回、取り上げてみたいと思ったのは、個人的にカレーが大好きだということ以外に、以前中国人にも関係のあるカレーを食べた経験があったからです。

確かにカレーはインドに起源があり、インドに入っていったイギリス人が今のカレーライスのようにして食べたと言われています。18世紀以降、そのイギリスはインドの他、アジア全域に進出し、いくつかの国を植民地にするなど、その影響力を発揮しました。イギリスの影響下にあったマレーシアやシンガポールにはインド人と中国人の移住者もそれなりに多く、そこで食べ物の融合が起こったのではないかと筆者は勝手に想像しています。

マレーシアやシンガポールで現在出会うインドと中国の融合した料理と言えば、「フィッシュヘッドカレー」でしょうか。魚(鯛たいの一種)の頭を野菜と共にカレーの中で煮込んでおり、酸味のあるタマリンド(マメ科の常緑高木)の風味があります。インドカレーと中国人が使う魚の頭を混ぜて煮込む、如何にも豪快な料理です。魚の出だ汁しとカレー、ご飯にかけてもよし、パンをつけてもよしで満足できる一品です。

お隣タイにはグリーンカレーがあります。ただこれはカレーというより香辛料の利いた煮物のような物で、便宜上カレーと言っているに過ぎません。ただタイ華人の間ではフィッシュヘッドカレー同様にカレー粉を使ってエビやカニなど海鮮を混ぜて作るパッポンカリーという人気メニューがあります。バンコクの中華系のお店でよく出され、観光客も在住者もこれを目当てに来る、と言われるほど美味しい食べ物です。中華鍋に具材を入れて炒め、さっとカレー粉や唐辛子など入れて、実に簡単に作ってしまう、まさに中華なのです。

では本家の中国はどうかというと筆者の経験では中国国内ではカレーは食べられていませんでした。最近は日本式のカレーが進出し、多くの人が口にしていますが、インドから仏教は伝わったのになぜカレーは伝わらなかったのか、という疑問は残りますね。

ただ香港で昔「魔窟」と言われた九龍城の近くで、実に美味しい羊バラ肉カレーを食べたことがあります。清真料理(ムスリムの料理)を提供するレストランで出されている「咖哩羊腩」(羊肉のカレー煮込み)という物で、骨付きの羊肉の塊が豪快に入っており、香辛料が利いていて、絶品でした。この料理がどこから入ったのかは不明ですが、新疆ウイグルでは食べたことがないので、恐らくは海路インドか東南アジアから流れてきた物かと推測しています。

確かにカレーは中国料理ではありませんし、チーズなどと同様、食材として使われることもありませんが、アジアでの中国とインドの融合、これは見逃せません。皆さんも是非アジアへ行き、各地にあるカレーを探して味わってみてください。一味違った旅になること、請け合いです。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年11月号第8回『日本式ラーメンと アジアの麺料理』

友人の中国人から「日本人は何であんなにラーメンが好きなんだ」と聞かれたことがあります。そばやうどんもあるのになぜと、どうしても理解できないようでした。本当の理由は定かではありませんが、麺やスープの種類、日本各地のご当地ラーメンを見ても、拘こだわり好きな日本人には格好の題材だったのかもしれません。そして今ではアジアの主要都市に日本式ラーメン店が列をなしており、日本食の象徴のように見られています。

ラーメンは勿論中国の発祥。名前の由来はいくつもあるようですが、筆者は「拉麺」だと思っています。中国語の“拉”は「引っ張る」ですよね。現在中国国内で有名な拉麺といえば、蘭州拉麺。現地に行くと確かにマジックショーのように麺を伸ばしていたりします。この麺、とてもこしがあって美味しいです。因ちなみに蘭州では拉麺は朝食べるものだそうで、「飲んだ後にラーメン」と夜行っても食べられません。実はアジア各地でも麺は朝食、というところが意外に多いようです。

日本ではラーメンは元々中華そばなどと呼ばれて華僑が持ち込み、中華街などで食されていました。ただアジアへは日本発の「インスタントラーメン」という形で出て行きましたね。便利で安くて美味しい、今やアジアのどこへ行ってもカップ麺、袋麺ともにある種の主食と化しているほど発達しています。

韓国でプデチゲという鍋を食べていたら、最後にインスタント麺を入れていました。プデとは部隊という意味のようです。香港では日本のインスタント麺の名称がメニューに載っており、その上に具をトッピングして提供されています。

マレーシアの屋台で汁麺を頼んだらインスタント麺か生麺か選べ、と言われたこともありました。箸を使わないモンゴルではフォークで食べられるように麺が短くなっています。

食べ物の屋台が所狭しと並ぶタイのバンコク。こちらでも様さまざま々な麺が食されていますが、比較的ラーメンに近いのはバミーと呼ばれる小麦卵麺でしょうか。日本のラーメンのように叉焼などを入れるものもありますが、魚のすり身団だん子ご や野菜、鴨かも肉など、具のバラエティーが豊富で楽しめます。東南アジアではパクチー(香菜)が入ることもありますので苦手な方は気をつけてくださいね。

またスープの味付けもベースは鶏ガラなどで取りますが、日本と違い最後は自分の味にするため、調味料を混ぜます。意外とこれで失敗することもありますので要注意です。またタイではテイクアウトの文化が発達しているのですが、何とバミーなどの汁麺をビニール袋に入れて持ち帰り、家で椀わんにあけて食べることもよく行われています。ジュースもペットボトルが普及するまではビニール袋でしたから驚くことはないのでしょうが、うーん。

なお日本ではそばやラーメンを食べる際、音を立てて麺を吸い込みますが、アジアでは原則これは礼儀に反するようです。屋台などで周囲がガヤガヤしていたとしても、音は立てずに静かに楽しみましょう。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年10月号第7回『春巻きは春に巻くもの』

餃子(第6回)が出たら次は春巻きかな、今回は点心シリーズ第2弾としたいと思います。春巻きも非常にポピュラーな食べ物ですが、アジアへの広がりという意味では、餃子よりもむしろバリエーションがあるような気がしています。

春巻きは広東料理の1つであり、春の初め、豚肉と立春の頃に採れた野菜などを小麦粉の皮で巻いて揚げた物。名前から見ても春巻きは春を告げる食べ物だったと言えます。なお中国北部では春餅と呼ばれる食べ物がありますが、これは具を自ら取って巻き、そのまま食べる方式で、やはり旧暦2月頃に食べられていました。

日本人が飲茶でオーダーする定番は焼売、蒸し餃子、そして春巻きでしょうか。飲茶の本場香港でも春巻きは定番メニューですが、日本とは大きな違いがあります。日本では醬しょうゆ油をつけるのに対して、香港ではウスターソースをつけて食べるのが一般的なのです。最初は戸惑うでしょうが、これが意外に美味く、慣れると癖になります。

ソースと言えば、先日インドのムンバイで食べた春巻きにはケチャップが一緒に出てきて驚きました。インドの人々はまるでフライドポテトなどスナックを食べるような感覚で、ケチャップをつけて食べていましたが、これも立派な中華メニューでした。因ちなみにインドの春巻きは焼きそばの具(キャベツ、ニンジン、ピーマンなど)が詰まった感じで、ベジタリアンでも食べられ、しかもかなりの大きさでした。そういえば形は違いますが、サモサ(インド料理のひとつ)も春巻きの変形なのではないでしょうか。

アジアへの広がりとしてよく言われるものに、ベトナムの生なま春巻きがありますね。ところが正直にいうとベトナムを歩いていて生春巻きを見ることはあまりありませんでした。やはり揚げた春巻きが主流です。生春巻きはライスペーパーで巻くこともあり、現地でも春巻きではなく「夏巻き」と呼ばれて、別物扱いと聞きましたが、どうでしょうか。

ベトナムの春巻きは福建省あたりの潤餅と似ているという話もありました。潤餅は福建や台湾の屋台などでよく見られる食べ物。鉄板で小麦粉の生地を焼き、そこに具を巻くもので、台湾風春巻きなどとも呼ばれているそうです。潤餅は海を渡ってフィリピンやインドネシアにも流れていき、ルンピアと呼ばれるようになり、普及したという話もあります。また潮州系華人が多いタイでは潮州料理の「薄餅」がポッピアと呼ばれる蒸し春巻きとして広がり、屋台料理としてよく食べられています。東南アジアにはよくフィットした食べ物と言えるでしょう。

IMG_0016m

なお春巻きの変形として、中国では浙江省あたりの宴会の最後に、甘い餡子を包んで揚げたデザートが出てきた記憶があります。味の濃い料理の後に食べるとさっぱりとして、とても美味しく感じられました。

春巻き1つ取ってみても、なかなか奥が深いと感じませんか。アジアを旅する中で、1つの点心をテーマに各地を見ていくというのも面白いかもしれませんね。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年9月号第6回『バクテー(肉骨茶)』

今回は皆さんにはあまり馴染のない料理を紹介したいと思います。その名はバクテー(肉骨茶)といい、主にマレーシアとシンガポールで食べられている鍋料理です。「お茶」と聞くとすぐに反応してしまう筆者は、かなり以前にクアラルンプールのチャイナタウンで初めてこの名を目にして、朝から注文してみたのですが、何と「お茶は入っていない」というのでがっかりしたのを覚えています。おまけに味は漢方薬臭い、うーん、何だか残念な気分で、その後この食べ物に手を出すことはありませんでした。ところが先日シンガポールで知り合いに勧められ、久しぶりに口にしてみると意外なほど美おい味しかったので、取り上げることにしました。

「肉骨茶」を「バクテー」と読むのは、福建の言葉。福建では本当に様さまざま々な美味しいものが作られていますが、この料理も福建の土鍋料理から来たようです。マレーシアに移住してきた福建人が、削落としきれなかった豚肉が付いた骨を使い、大茴香や桂皮、胡椒などの漢方の生薬と醬油を入れて煮込んで作ったもので、主に貧しかった肉体労働者の食べ物だったということです。因ちなみに名前に茶が付くのは「スープの色が烏龍茶のように濃い褐色だから」と言われました。

シンガポールで人気のお店に行くと、ランチに行列が出来ており、テーブルは外まではみ出していました。お味の方はスープにニンニクが効いており、肉も骨に十分に付いていました。昔のイメージはいっぺんに吹き飛んでしまい、最後までスープをすするほどでした。地元の人から観光客まで、皆笑顔で食べていました。因みにこのお店、ランチの忙しいとき以外は、お茶を注文してゆっくり過ごすことも可能のようです。今や日本よりかなり高い地価の国シンガポール、バクテーの代金もどんどん上がっているようでした。

一方本家を自称するマレーシア。相変わらずチャイナタウンなどでは昔ながらのバクテーを試してみることも可能ですが、繁華街のブキッビンタンあたりにバクテーの美味い店が出来ているとのことで連れて行ってもらいました。オープンスペースに心地よい風が吹く夜、中国をはじめアジア各地からやってきた観光客、ビジネス客が中国語を使って、楽しそうに会話していました。

ここのバクテーは、シンガポールの物より濃厚な感じで、オリジナルに近いと思われますが、それでも漢方薬の臭みなどは消されており、食べやすくなっていました。ご飯を頼んで汁をかけて食べるのも美味しいですね。そして一番驚いたのは、最近流行り始めたというドライバクテー。これは汁なし、ということですが、肉に汁の味がよくしみ込んでおり、絶品でした。豚肉の好きな中国人の口に合うようにできています。ご飯のおかずとして美味しく頂きました。

因みにマレーシアは人口の60%以上がイスラム教徒で豚肉を食さないため、バクテーはあくまで華人のための料理でしたが、最近では海鮮、鶏肉などを使ったバクテーも出てきたようで、今後はアジアに広がっていく可能性も感じられまた。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年8月号第5回『あまり変化していない餃子』

日本に来た中国人が確実に驚くことの一つに「ラーメン・半炒飯・餃子セット」というものがあります。中国料理屋さんのランチメニューなどにあるものですが、中国ではほぼ間違いなく、この食べ方をする人はいません。なぜならこの3つは全て中国では主食に当たり、日本でいうなら、ご飯とパンと麺だけを一緒に食べるようなものだからです。中国では餃子はご飯(炊いたお米)と同じ扱いなので、ご飯にするか、餃子にするかの選択を迫られることがよくあります。

「それにしても日本人はどうしてあんなに焼き餃子が好きなんだ?」と中国人に聞かれることが何度もありますが、いまだに答えは見いだせていません。1980年代に筆者が上海に留学していた時、どうしても餃子が食べたくて、一流ホテルのレストランに行くと、餃子と言って出てくるのは水餃子ばかり。「焼き餃子」といくら言っても通じませんでした。「焼き餃子」は中国では「鍋貼」と言って、前日残った水餃子を翌日鍋に入れて油で焼いたもので、つまり日本人は残り物を再利用したものをわざわざ食べている、と思われたようでした。勿論今の日本の焼き餃子は再利用ではありませんが。

日本と中国の餃子の違いで大きいのは、具にニンニクを入れるか入れないかでしょう。中国ではニンニクの代わりにニラを入れているケースもありますが、必ずしも全てではありません。というより、中国の水餃子の具の種類は数十種類にも及び、どれを選んでよいか本当に迷います。また日本では注文は1皿単位ですが、中国では注文する時に「餃子半斤(250g)」などと重さで言うので慣れが必要です。

そもそも餃子を日本ではなぜ「ぎょうざ」というのでしょうか。留学中に訪れた山東省は餃子の故郷ですが、ここの方言で「ギャオズ」と聞き取れました。現在の中国東北地方には以前山東省から移住した人が多く、恐らくは旧満州でこれを聞いた日本人が戦後日本に持ち帰ったものと推察されます。

それでは、餃子は他のアジア諸国ではどのように食べられているのでしょうか。意外にも餃子は各国でそれほどの変化を見せていないようです。マレーシアでもインドでもさほどの違いは見られませんでした。

タイでは餃子のことを「キアオ」と呼び、スープ麺の中に入れて食べることが多いようですが、作り方はほぼ同じです。恐らくは中国から華人が持ち込んだものなのでしょう。そして何と焼き餃子のことを「ギョウザ」と呼ぶそうで、日本から入った外来語とも言われているとか。因ちなみに韓国でも「キョジャ」と言われていたと思います。

またタイでは揚げ餃子をスナックとして、甘いソースをかけて食べます。これは揚げ物文化が中心の東南アジアで発達した餃子の食べ方かもしれません。餃子はアジア及び世界に広がりましたが、おかずではなく主食であることから、その変化は意外に少ないということでしょうか。中国の影響がそのまま伝わっている餃子は、家族総出で作り、食べるものでもあり、非常にアジア的な食べ物と言えますね。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年7月号第4回『アジアの焼きそばを食べ比べ』

焼きそば、これもまたシンプルな食べ物ですね。筆者が一番好きなのは実は日本のソース焼きそばかもしれません。それは置いておいて、中国でも「炒麺」は非常にポピュラーな食べ物ですが、例えば日本の中国料理屋さんにある五目あんかけ焼きそばや油で揚げた麺の上にあんをかけるかた焼きそばなどは中国ではほとんど見られません。北京駐在中、日本から出張で来た人が「かた焼きそばが食べたい」と言いだし、困ったことをよく覚えています。

五目あんかけ焼きそばに近い麺は、福建省にはあったと思います。恐らくは炒飯同様、福建から台湾経由で日本に伝えられたのではないでしょうか。長崎の皿うどんなどもこの列に入るかもしれません。長崎と言えば、「長崎ちゃんぽん」の語源は、沖縄の「チャンプル」にも繋つながる「混ぜる」という意味があるとの説があります。

福建省から派生した焼きそば、と言えば、シンガポールやマレーシアでよく食べられているホッケン・ミーがありますね。ホッケンは福建のこと、ミーは麺ですね。福建麺、これはアジア各地で使われている言葉ですが、少しずつ内容は違っているようです。シンガポールのホッケン・ミーは黄麺と呼ばれる太い卵麺にエビやイカなど海鮮を入れて炒めます。シンプルで食べやすく、現地のフードコート「ホーカー」に行けば味わえますね。

因ちなみにエビの殻のだし汁で作るエビ麺というものを見たことがあります。普通は汁麺ですが、このだし汁とビーフンを炒めるとピリ辛の絶品料理になりました。何故エビの殻でだし汁を取ったのか聞くと、ある華人に「日本軍に占領されていた時代、エビそのものを食べることができなかったから」と言われ、返す言葉がありませんでした。

マレーシアへ行くと、黄色い太麺を使い、豚肉、キャベツなどを入れるため、日本の焼きそばに似ていますが、黒酢などを使うので、色合いが濃くなり、味も独特です。炒める途中に卵をポンと割って入れると味がマイルドになり、いいですね。

これとほぼ同じような焼きそばをインドでも見かけました。コルカタの路上で人だかりがしているところがあり行ってみると、何とチャウメンという名で売られていました。チャウメン=炒麺、そのままですよね。卵を入れると代金が2倍になりましたが、カレーに飽きた身には美味しかったですね。インド人にも人気の焼きそば、面白いです。

ついでに言うと、インドには「ハッカヌードル」という焼き麺があります。野菜たっぷりで、ベジタリアンの人々向けに動物性のだし汁を使わずに作るようです。ハッカは客家のことだと思われますが、なぜこの名前が付いたのか、いろいろと聞いてみましたが、誰も答えてはくれませんでした。

Exif_JPEG_PICTURE

この他、ビーフンを使って炒めるタイのパッタイ、目玉焼きをのせ、ケチャップや魚醬を使い甘辛く仕上げるインドネシアのミーゴレンなど、中国発祥の焼きそばはアジア各地に広がり、その手軽さゆえ、どこの人にも愛される、B級グルメの定番メニューとなっています。皆さんもアジア各地で食べ比べなどしてみては如いかが何でしょうか。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年6月号第3回『炒飯あれこれ』

日本人がもっともよく食べる中国料理と言えば、炒飯ではないでしょうか。日本の炒飯はきつね色に焼き、お椀わんをひっくり返したように盛られ、中には刻んだ焼き豚などが入っており、とても美味ですね。

筆者は20数年前の上海留学時代、この炒飯のルーツを訪ねて中国中を歩いたことがありますが、日本のような炒飯に出会ったのは福建省の泉州、廈門だけでした。その後台湾にも一部この炒飯があるのを発見し、勝手な結論として、日本の炒飯のルーツは福建省南部から台湾へ、そして台湾から日本に渡った華人がもたらしたと考えています。

ところが香港で「福建炒飯」と言えば、あの炒飯ではなく、なぜかあんかけ海鮮炒飯なのです。これがまた美味なのですが、これは福建にはありません。恐らくは福建から香港に渡った人々が香港の海鮮を使って炒飯を作ったので、福建の名が付いたのではないかと想像しますが、香港人も福建人もその由来を知らないようです。

海鮮炒飯と言えば、韓国の港町、仁川のチャイナタウンに行った時に食べた炒飯はユニークでした。どんぶりをひっくり返したような形に盛られた炒飯は、具がエビやイカなど豊富な海鮮で、シンプルに炒められているのですが、そこにコチュジャンを混ぜて食べるのです。初めはどうかなと思ったのですが、これがどうして、かなりイケルのです。仁川には中国山東省あたりから渡ってきた華人が多いのですが、実は古来中国4大料理の1つは山東の魯菜でした。中国料理と韓国料理の不思議な融合、山東人もビックリではないでしょうか。因ちなみにこの炒飯の付け合わせには、キムチとたくあんが添えられていましたので、日中韓の合作なのかもしれません。

そしてもう1つ忘れられない炒飯がインドにありました。インドは大国で国土も広いのですが、珍しいことに華人はあまりいません。これは歴史的に隣国としてさまざまな紛争があり、またインド人と中国人の文化背景・習慣がかなり異なり、中国人が生きづらい環境であるということでしょうか。このような理由からインドには本格的な中国料理店は非常に少ないのですが、街にはChinese Dishと書かれたレストランをいくつも見つけることができます。

インド中部の文化都市、プネーというところに行く機会があり、中国料理と書かれたとても古い由緒正しいレストランに入りました。そこで炒飯と野菜炒めを頼んだのですが、野菜炒めは深い皿に入っており、中はドロドロしていました。一瞬間違いかと思いましたが、インドの野菜炒めとはこのようなあんかけであり、何とそれを炒飯にかけて食べることを知りました。

インドと言えばカレーですが、インド人はルーのようになったものをご飯やチャパティ(練った小麦粉を鉄板で焼いた平たいパン)などにかけて食べる習慣が一般的であり、野菜炒めもそのように変化し、味が薄い炒飯にかけるようになったようです。

皆さんもアジアを旅する際は、現地料理ばかりではなく一度は中国料理店を訪れ、その土地の中華メシをぜひ味わってみてください。きっと新たな発見がありますよ。