ある日の台北日記2019その3(2)坪林と天母で

10月11日(金)
連休に坪林へ

実は私は極めて間の悪い時に台湾に来てしまっていた。双十節の祝日の認識はあったが、実質的に木曜日から日曜日まで休みだとは思っていなかったのだ。だから台湾の知り合いに声を掛けてもここ数日は忙しい、と言われ、色よい返事はなかった。一昨日会ったTさんも連休を持て余しているというので、今日は一緒に坪林に行ってみることにした。

 

昼の12時のバスに乗るため、新店駅で待ち合わせた。だがTさんは地下鉄に乗る人ではなく交通カードすら所持したことがないという。そしてタクシーで坪林へ行こうと、運転手に声を掛けたが、ひと声『1000元で行く奴いるかな?』と言われて、バスの方に向かうことになる。バスなら一人30元なのだから。

 

連休中ながら、昼のバスは満員にはならず、無事乗車できた。朝ならハイキングに行く年配者などが多いのだが、むしろ連休で家族と過ごしているのかもしれない。連休なので、道が混んでいるのかと思ったが、途中の宜蘭方面の高速以外はそれほどでもなく、1時間かからずに坪林に着く。

 

初めてのTさんを案内して、老街を歩く。連休とは思えぬ人の少なさ。坪林はやはり観光地ではなく、むしろ隠れ家的でよいともいえる。それから改装されてから初めて茶葉博物館へ入る。展示が充実したとの話もあり、期待して行ったのだが、予想と違って一般人向けの基礎的な展示が多くなりがっかり。包種茶の里なのに、その歴史はカットされており、代わりに一般的な世界の茶の歴史の展示がなされており、学ぶ者にとっては誠に物足りない。80元の入場料がむなしい。

 

いつもの祥泰茶荘に行くと、お父さんがお茶を淹れてくれた。長男の馮君は台北から戻ってくる途中らしく、バスに乗っているという。やはり連休なので車は確実に渋滞する。バスは早いということは我々も体験済みだった。ここで台湾花茶の歴史について基礎知識を得る。私の理解では初期の花茶は包種茶に花を燻製したものだったように思う。

 

Tさんと通りをフラフラした。今や坪林に来ても祥泰茶荘にしか行かなくなっており、街歩きなど久しぶりだ。茶荘の数はそれほど変わっていないように見えるが、茶荘の傍ら、レストランや土産物屋などを開いている店が多くなっているのが気になる。やはりお茶だけで食べていくには限界があるのだろうか。しかし連休なのに観光客の姿はまばらだ。最近できたという旅遊センター、新しくてきれいだが、どれだけ活用されているのだろう。

 

Tさんはバスで台北に帰って行き、私は祥泰茶荘に戻る。馮君が台北から戻って来て、ここから本格的なお茶の歴史談義が始まる。花茶については『台北の全祥茶荘に行けば分かるよ』と言われ、紹介してもらった。とにかく何も分からない時には、ひたすら人と話をすることだ。そうすれば自ずと道は開かれる。他のお客が来たのを潮に、バスで台北に戻った。

 

10月13日(日)
天母へ

連休最終日、実に久しぶりに天母に行く。実は多くの知り合いから『一度辛さんの新しい店を訪ねるとよい』とアドバイスされていたので、行ってみることにしたのだ。そこは宿泊先からバス一本でかなり近くまで行けるので、意外と便利な場所にあった。朝早めに出て、バス停近くで朝ごはんを食べる。さすが住宅街、朝ご飯を食べるところは沢山ある。

 

辛さんのお店、東京彩健茶荘は、住宅街にひっそりとした、実にデザイン性があるお店だった。茶荘や茶館という表現よりはサロンというのがふさわしいだろうか。ちょうどお店にはこのデザインをした台中在住日本人も家族で来ており、賑やかだった。子供たちにも心地よい空間なのだろう。

 

辛さんとは初対面ながら、色々と話が弾んだ。台南人だが日本生まれで、ずっと日本で暮らし、最近台北に移住してきたと言う経歴も面白い。お母様は有名な料理研究家。知り合いのTさんが初代を務めたロータリークラブの会長も引き受けている。非常に多彩で広い交友関係を持っている人だった。このお店も、良質な高山茶などを扱っているが、お茶の専門というより、サロンとして使われるのが好ましいと考えているようで、今後人が集う場所になっていくだろう。

 

お店に入ってきた女性を紹介された。何と大学時代、台湾語の授業を3回だけ受けた時の先生、王育徳氏(日本に亡命した台湾民主化運動家)のお嬢さんだと聞いて驚いた。先方も『父の学生さんですか』と言い、ご存命のお母さまに見せると言って、一緒に写真に収まってしまったが、とても王先生の学生と呼ばれる資格がないのが恥ずかしい。それでもこんな出会いがサラッと実現してしまう、まさにサロンだろう。

 

 

一度帰り、夕方また出掛ける。Tさんに広東料理をご馳走になる。さすが連休最後の日、お客で満員だった。最近は香港あたりか移住してくるシェフも増えたのか、台湾における広東料理の質が進化しているように感じられる。それは果たして香港にとって良いことなのかどうかは分からないが、食べる方としては有難い話だ。

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