シベリア鉄道で茶旅する(30)帰国準備する

 駅に着くとS氏は窓口で何か聞いている。何と『ここから先に行く列車はあるか』と確認していたのだ。貨物しかない、というのが答えのようだ。もう当然終わったと思っていた私にはかなりショックな質問だった。確かに線路は続いているように見えたから、聞いてみるのは当たり前のことだった。机上でいくら調べても、現場はそうなっていない、というのはよくあることなのだ。しかし『北半球の一番南の駅から一番北の駅に行く』という企画は、あまりにも壮大だった。

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駅舎内を見学する。天井を眺めるとドーム型になっている。小さな駅だと思っていたが、意外と広く、切符売り場は奥にあった。インフォメーションもあったが、英語は通じなかった。もう兎に角列車に乗ることだけはご免被りたい。駅舎の2階から陸橋が架かっており、雪の中、犬が寝そべっていた。私も犬になりたかった。雪の上に寝ころんで大声で何か叫びたい気分だった。体はまだ揺れている感じがする。

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駅を出て、駅前にあるショッピングセンター?に入る。昨晩切り裂いてしまったバッグの代わりを調達しないと、荷物を入れる物がないのである。だが昼前のこの時間、バッグを売る店は未だ閉まっていた。仕方なく、街を少し散策して時間をつぶして、戻ってくることになる。しかしどこへ行けばよいのか分らない。はるか向こうの丘に何か像が見えるが、そこまで行く気力はない。S氏は基本的に観光をしないので、タクシーに乗って行くこともない。

 

港町らしく税関が見えた。それからだらだら街を歩く。ゴミ収集車が走ってきたが、何とゴミ箱を自動で吊り上げて、ごみを車に運んでいる。人力では雪が多い時には難しいのだろう。馬に乗った女性が通り過ぎる。恐らくは乗馬クラブの活動だろうが、気持ち的には今でも馬で移動している人がいた方が北の街らしいと思う。子供が仔馬に乗っているのが、何とも微笑ましい。雪はかなり積もっており、車が雪で埋もれているところが多い。

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ショッピングセンターに戻ると、店は開いていた。おばさんがいた。どんなバッグを買うかは問題だった。今後も使えるそれなりのものを買うのか、東京まで荷物を持って帰ればよい、という安物を買うのか。取り敢えずチラッと商品を眺めてみたが、残念ながら今後も使おうと思えるものはなく、1回限りの使用を前提に安物を選ぶ。おばさんにディスカウントを要求したが、当然のように断られた。まあ、引っ張れば運べるものが確保できたので、良しとしよう。

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腹が減ったので昼ご飯を食べることにする。ショッピングセンターの1階にカフェがあるというので、そこへ向かったが、途中で気になる店があり、私だけ立ち止まる。それはお茶屋だった。しかも入ってみると、プーアル茶を売っているではないか。なんでこんなところにプーアル?かなり小さい塊、または1粒ごとに包まれた茶が箱に入ってギフトのようにパッケージされている。なんでもいいからお茶を買って来い、という人がいるので、適当に3つほど買ってみる。ロシア語は読めないので中身は分らない。あとでロシア語のできる人に見てもらったところ、何と『コーヒープーアル』と書かれていた。ほのかにコーヒーの味がした。

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S氏は既にカフェのカウンターで注文を始めていた。横にはロシアのおじさんが昼からビールを注文している。向こうに座っているおじさんはどうやらウオッカを飲んでいる。ロシアにはやはりアル中気味の人が多いように思う。列車の中でもそんな感じのおじさんが何人かいた。S氏もビールを飲んでいるとここでは雰囲気が出る。私はサラダとスープ、そして鶏肉を食べる。

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体が暖かくなり、外へ出た。何だか眠たくなり、宿へ戻った。もう今日は外出したいとは思わず、北の果てに来たというのに、部屋でごろごろしていた。そして明日のフライトをネットで予約し、更にはモスクワからの東京までのフライトを検索する。モスクワで1泊して、赤の広場へ行き、それで帰ろうと思ったが、フライトは日によってかなり料金が違っていた。3日後であればエアチャイナの北京経由が格安なのを発見してこれで帰ることに決めた。同じ日に帰るS氏は全く異なるイスタンブール経由のトルコ航空、Nさんは中央アジアへ行きたいというので、キルギスへ向かう便となった。

 

夕方はスーパーへ行き、食料を調達した。今晩食べる分だけを買う、カップ麺は要らないということにさえ、喜びがあった。旅の残り物を処理しつつ、晩餐となった。列車に持ち込んだパンがかなり余っていた。S氏は『今日はオーロラ、見られるかな』と言いながら、窓の外を見ながら、ビールを飲んでいる。何だかエンディングとしては悪くない。これが出張なら、反省会か、お疲れさん会だろうが、旅を振り返り、慰め合うなどということも全くない。

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