NHKテレビで中国語コラム『香港現地レポート』2012年5月号第2回『香港の公用語は』

第2回『香港の公用語は』

1997年に返還された香港を今や日本人は「中国の一部」とのみ認識するようになっていますが、国は一つでも制度は別々という「一国二制度」が採用されている事実を忘れていませんか。でも二制度とは具体的にどんなことでしょうか。言語の面から見てみましょう。

この制度を規定する法律は香港特別行政区基本法ですが、その第9条に「香港特別行政区の行政機関、立法機関、司法機関は、中国語のほか、英語も使用することができる。英語も公式言語である」とあります。わざわざ英語に言及しているのは、返還以前の公用語である英語を残し、変化を最小限に抑えるという意味でしょうが、「中国語」は漢字で「中文」とのみ書かれています。この「中文」の意味合いは、香港においてはすこし複雑です。

実は香港政府が推奨し、現場で実際に行われる言語教育は「両文三語」と呼ばれています。「両文」とは書き言葉としての中国語と英語、「三語」は話し言葉としての広東語、「普通話」、英語となります。ここでは、中国語(中文)は書き言葉、「普通話」は話し言葉として区別しています。なお話し言葉の第一言語は広東語です。現在では幼稚園でも第二言語として、英語と「普通話」を教える時間が設けられているようです。

もちろん一般の香港人は街中で普通に広東語を話しています。ただ中には大陸から渡って来て以来、出身地域の言葉しか話さないお年寄りなどもいます。香港で最も有名な道教寺院の一つである黄大仙廟にある占いの店に行くと、使用言語として広東語や「普通話」を意味する表示に交じって、潮州語、客家語、そして広東省の一地域である台山語や海豊語なども書いてあってめんくらいますが、自らに関わる重大なことは母語で聞きたい、という気持ちは十分に分かります。もちろん日本語もありますよ。

企業でも、返還前は英語ができるスタッフが優遇される傾向がありましたが、最近では「普通話」ができなければ大陸への出張や対応などで不便をきたすため、こっそり語学学校に通う幹部社員などもいるようです。返還前には英語で会話していたスタッフに、「今日から『普通話』で話してくれ」と言われて、驚いた記憶があります。

当初は広東語の発音で「普通話」の語彙を使うような「香港風の普通話」が多く聞かれましたが、最近は教育のせいか、非常に標準的な「普通話」を話す香港人が増えているという印象があります。一方懸念されるのは、英語力の低下。やはり香港人の主言語は広東語であって、その他の言語は、その時の状況、とりわけ仕事内容や経済に左右されるようです。英国植民地時代を生き抜いた、香港人のしたたかさを見る思いです。

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