NHKテレビで中国語コラム『香港現地レポート』2012年4月号第1回『健康は香港に在り』

第1回『健康は香港に在り』

今年は香港が返還されてからちょうど15年。その間、香港は経済・社会・文化・教育など各方面で大きく変わっています。筆者は返還前5年間、返還後4年間を駐在員として香港で過ごし、今年久しぶりに香港に戻ってきました。今回より、現地・香港から「変わった香港 変わらない香港」の現状をリポートしていきたいと思います。

「食は香港に在り」、というわけで香港といえばまず思い浮かぶのは「食」。しかし残念なことに返還前に通っていた安くておいしいレストランの多くは、この15年で消えてしまいました。1997年のあの返還前の移民騒動、その直後のアジア通貨危機、そして2003年のSARS騒ぎ。香港が経験したこれらの試練の過程で、庶民派優良レストランは経済的に立ち行かなくなり、淘汰されていきました。チェーン展開されるファストフード系のお店が街中に溢れ、便利で安心感はあるのですが、昔ながらの味が懐かしく思い出されます。

ではこの15年で香港の伝統的な食事は消えてしまったのかといえば、そんなことはありません。筆者が最も香港的だと考える料理はずばりスープ。広東料理のフルコースには必ずスープが2品入るほど、この地域ではスープを重視しています。ただし今回はフカヒレのような高級食材を使ったものではなく、「例湯」(レイトン)、英語でデイリースープと呼ばれるスープのお話です。このスープはメニューになくても、今でも大抵のレストランにあるでしょう。

その日の気候と食材によって、シェフがダイコン、ニンジン、レンコンなどの野菜を大きめに切り、豚肉などと合わせて鍋に放り込み、数時間もぐつぐつ煮込む例湯は、「老火(例)湯」などとメニューに書かれている、実に滋味の溢れるおいしいスープです。漢方の生薬なども入れられており、いかにも体に良さそうです。

お年寄りを中心にした家庭では、今でも昔ながらのこのスープを毎日飲んでいるといいます。実際香港の友人と話すと「昨日はのどが痛く、風邪をひきそうだったので、母さんに頼んで風邪に効く例湯を作ってもらった」などという話をよく耳にします。例湯は香港の人々の健康に大いに寄与しています。

実は香港は意外にも世界有数の長寿地域。厚生労働省の統計によれば、2009年日本の平均寿命は男性79.6歳、 女性86.4歳。対する香港は男性79.8歳、女性86.1歳。男性の平均寿命は日本などを抜き、今や世界一なのです。更に香港では、日本のように高齢の患者に胃瘻などの措置を取ることは少ないと言われ、お年寄りが統計以上に健康だとも考えられます。

香港のお年寄りに長寿の秘訣を聞くと答えは「みんなで楽しく、よく食べ、よく話す」。彼らの行動を見ていますと、とにかくよく食べます。現在は経済的に大いに発展した香港ですが、中国大陸から移住してきた当時の過酷な環境に対応する一つの手段だったのでしょうか。香港人が食を大切にする理由が分かる気がします。お年寄りの横で一緒に食事をすると、何だかこちらも元気になった気分になります。

Exif_JPEG_PICTURE

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です