中壢台中茶旅2023(2)持木家のパートナー、廖家を訪ねる

もう何度も乗ったルートを巡っていく。表面的には特に変化は感じられない。途中から登りになり、約1時間で目的地に着いた。乗客のほとんどは終点まで乗るので、降りたのは私だけ。何とも開放的な気分となり、古い家並みが残る街を歩き出す。今回の目的はただ一つ。いつもFBにメッセージをくれる林老師に会うことだった。

歩いて数分で懐かしい玉春茶房に着いた。隣は息子の店で、まずはそちらに行ったが、ちょうどお客が来ており、早々に退散する。林老師は最近大病されたと聞いて、伺ったわけだが、予想外にお元気そうだった。ただやはり以前のように動くことは出来ないと言いながら、お茶を淹れてくれた。

懐かしい歴史話などを聞いていると、奥さんが『お昼ご飯、食べていくでしょう。買ってくるんじゃなくて、作るから美味しいよ』と声を掛けてくれた。こちらのご飯が美味しいのは12年前、初めて伺った時に味わって知っていた。だが今日は残念ながら時間がない。いや、時間が無いというよりバスの時間と合わなかった。全く後ろ髪を引かれる思いで、立ち去る。

逆に少し時間が余ったので、一停留所分歩いて下ることにした。ここもかつて何度も通った道で懐かしい。ずるずると農会のところまで歩いて来ると結構暑かったので、農会内の売店で涼む。そしてバスの時刻にバス停に戻ると、ちゃんとバスはやってきた。私ともう一人高校生ぐらいの女の子がバスに乗り込む。

やはり予想通り、バスがかなり混んでいたが、何とか席を確保した。鹿谷付近には地元枠として3席確保されている。ただおじさんの何人かは大量の荷物を席において、他人が座れないようにしていた。この辺のモラルの低さは残念としか言いようがない。この点については、誰も口出ししない。いや、さすがに乗れない人が出てきたら、荷物をどけるだろうと信じたい。

台中で劇的に出会う

1時間後に高鐵台中駅に戻り、午後会う予定の陳さんに連絡すると、お迎えまでほんの少しの時間があった。昼ご飯は食べていなかったので、丸亀製麺でうどんでも、と思ったが、残念ながら既にその姿はなく、後には一風堂ラーメンが見える。その横には大戸屋があったが、私は以前も使っていた、まいどおおきに食堂へ向かう。

中に入ると風景はそれほど変わっていなかったが、値段はかなり上がっていた。まあこれが普通なのかもしれない。もし時間的に余裕があれば、鹿谷のお母さんのご飯が食べたかった、無理しても食べるべきだったと激しく後悔する。それでもそれが私の定めと諦めて、ハンバーグに食らいつく。

陳さんと合流して、市内へ向かう。何度も来ている台中だが、実は市内の地理は全く分からない。いつの間にかモノレールが通っている。そんな辺りの駐車場に車を停めて、目指す家に向かった。廖さんの家は立派だった。招き入れられ、挨拶を交わすが、何となくぎこちない。陳さんがうまく説明してくれなければ、会話が進まなかったかもしれない。

この廖さんのお爺さんが、戦前日月潭で紅茶を作っていた持木家の台湾人パートナーだったのだ。廖さん自身は日本人に決して良い印象を持っていないことは何となくわかる。ただ『持木の名前は、爺さんからも父さんからも何度も聞いている』と言って、廖家の話をしてくれた。

そのうち廖さんも元銀行員だと分かり、少し打ち解けてくる。やはり戦前の有力者だったお爺さんの一族には関係者が多く、そのすべてを聞くのはとても無理だった。最後の方になり廖さんが『なんでもっと早く来なかったんだ』と言い出した。実は2階には病気療養中のお父様がいたのだが、具合が悪いので会うのは難しいと言われていた。

しかし廖さんは突然『2階に行こう』と言い出し、我々を連れて階段を上った。そこにはテレビを見ている老人がいた。『日本語で話しかけてくれ』と言われて、『持木さんを覚えていますか?』と大きな声で聴いてみると、目は動くのだが、残念ながら言葉は発せられなかった。それから記念写真を撮り、お暇した。

廖さんは『日本語なら反応すると思ったのだが』といい、『持木の子孫ならいつでも歓迎する。一緒に爺さんの墓参りに行こう』と言ってくれた。この時廖さんはこれが最後のチャンスだと分かっていたようだ。そのわずか1週間後、廖さんのお父様、廖阿霖の息子は97歳で生涯を閉じたと聞く。もしコロナが無くて2‐3年前に来ていたら、日本語で様々な話が聞けただろうと思うと、何とも残念、いや言葉が無かった。

陳さんに高鐵台中駅まで送ってもらい、台北に戻った。車中、頭では常に廖家の存在を考えていた。そして歴史を追うとはどういうことなのか、をじっと考えている。考えれば考えるほど、腹だけが減る。手近なすき家で夕飯を取る。まあ、この低価格路線、悪くはないのだが、今日の気分ではなかったようだ。

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