雲南から江蘇、湖北の茶旅2017(5)滇紅展覧館で

展覧館に使われている建物もかなり古い。その前には冯绍裘の像が建っている。冯绍裘が湖南省安化茶廠の工場長であったことは昨年12月の湖南茶旅で知っていた。そして1938年に安化からはるばるこの山奥までやってきて、紅茶の製造法を伝授し、滇紅の父と讃えられている人物であることもそこに書かれていた。だがその道のりは険しく、大理までは道があったものの、そこからは山道を歩いて、または馬で半月も掛けてここに辿り着いたらしい。当時の鳳慶は完全に外からは閉ざされた秘境だったのだ。

 

展覧館に入ると想像以上に沢山の展示物があった。鳳慶には昔から茶樹はあったが、本格的には清末の順寧知事、満州族の琦璘が、孟庫から100万本の茶樹を持ち込み、植えたのが始まりと記されている。その後中茶公司より派遣された冯绍裘はその優れた土壌、抜群の環境で育った大葉種の茶葉を見付けて、紅茶作りに適していると判断し、1939年に順寧実験茶廠を作り、香港経由で輸出されたとある。

 

雲南の紅茶作りは国策で始まった。元々清代よりプーアル茶では有名であった雲南で、なぜこの時期に、政府は紅茶を作ろうとしたのか。それは1937年に日中戦争が勃発し、日本軍が武漢など内陸部へも侵攻し、貴重な外貨獲得物資である茶が危機的状況にあったためだと推察される。これまで行ったいくつかの紅茶産地とはその成り立ちが少し異なっている。

 

新中国建国後の1954年に国営工場、鳳慶茶廠となり、そこで作られた紅茶は滇紅と呼ばれるようになる。当時の友好国ソ連からも注目され、専門家が相次で視察に訪れ、1957年にはロンドン市場で高い評価を受け、国際的な銘柄と認知される。文化大革命中も生産を止めることなく、輸出されていたと聞いた。紅茶は中国人が飲むものではなく、あくまで外貨を稼ぐ手段。80年代に入り、CTC方式が採用され、その産量を増していく。

 

この国営工場も時代の波で、民営化し、近年の紅茶ブームで、中国人が好む紅茶も作られはじめ、今や中国紅茶の代表銘柄にまでなっている。茶樹発祥の地、雲南らしい、古茶樹の茶葉を使った紅茶、雲南に多い、紅茶作りに適している大葉種の茶葉、そして我々に馴染みのある小葉種をミックスした中国紅などという紅茶が好まれていると聞く。ただ輸出用の茶葉については、コスト高などで、伸び悩んでいるという話もある。

 

展覧館以外の建物も、昔の工場の跡など、歴史的な価値のある建物がいくつか残っていた。そこを一回りしてから外へ出て、また昨日の山へ向かった。実は鳳寧茶業にはお世話になったが、肝心の老板、張さんは昆明に行っており、今日の午後戻るというので挨拶に向かったのだ。ちょうど着くと昼ごはんの時間であり、また皆で料理を食べた。

 

張さんが戻るまで、空いている部屋で昼寝をさせてもらう。何とも気持ちの良い午睡となる。それも終わると、今度は付近の散策。昨日よりさらに足を延ばしてみると、山沿いにはお墓もあるし、民家もあった。茶工場は、元は小学校だったらしい。以前はこの辺の子供が通っていたが、生徒数の減少で廃校となり、張さんがそこを借り受け、茶工場に使っている。張さんの子供も教育のため、昆明で暮らしているという。自らの母校が無くなり、子供を遠くへ送らなければならない、だがそこの方がよい教育が得られる可能性がある。複雑である。

 

暇な皆さんが集まって茶を飲みながら、情報交換をしている。やはり焦点は、如何に茶を売るかにある。地域的な特性もあるが、今や茶葉はだぶついている。そんな簡単に右から左に売れることはないようだ。そんな環境の中で、ここのお茶がよいと思い、それを扱う。張さんが全国の茶業博覧会に出展し、そこで知り合い、ファンになった人々のネットワークである。

 

夕方4時ごろ、ようやく張さんが戻って来た。朝昆明を出て、6-7時間かけて車を運転してきたという。35歳、非常に若い。お客たちが一斉に彼の周りに集まってきて、様々な話が始まる。私が聞きたいことを聞く機会はなかなか訪れなかった。それほどの人気、やはりファンを作ることがビジネスの近道なのだろう。

 

そのまま夕飯を食べに行き、腹一杯になっても、張さんはお客の相手をしながら、仕事の指示を出している。かなり忙しそうだった。夕暮れも迫り、ちょうど街に行くという車があったので、それに乗って失礼することにした。次回はもっとゆっくりこの地に滞在し、張さんの活動も見てみたい。

 

車はピックアップで決して新しくない。運転しているおじさんは暗い下り道をかなりのスピードで飛ばしていく。相当に慣れた運転だ。『昔はこれでどこまで行ったよ』と笑う。ここにちゃんとした道ができるまでは、本当に大変だったともいう。あっという間に街まで降りた。バスターミナルで降ろしてもらい、後は歩いて帰った。宿までどれくらいかかるのか、確認したのだが、荷物を持って歩く距離ではなかった。夜はかなり涼しいので、ちょうどよい散歩となる。

 

4.昆明2
4月5日(水)
昆明へ戻る

今朝は早めに起きたが、特にやることもない。9時のバスチケットを買っていたので、8時半前にチェックアウトして、タクシーを呼んでもらい乗り込む。5分で着いてしまう。10元。まあ、そんなものだろう。そんなに大きくないのでバスもすぐに分かり、乗り込む。いつの間にか他の乗客も乗り込んできて、出発。何となく名残惜しい。

 

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