ある日の台北日記2018その3(9)暖かい鍋、そして日本語で

11月13日(火)
寒いので鍋

11月の台北はこんなに寒かっただろうか、という日が続いていた。まさかそんなに寒いとは思わず、服も半数以上は半そでだし、ズボンも薄手の物しか持ってきていなかった。まあ2-3日の辛抱かと待ってみたが、一時的に気温が上がっても、体感温度としてはそれほど暖かく感じない。それって、歳をとったからなのだろうか。どうしたらよいのかよく分からない。

 

とにかく食べ物も暖かい物がよいし、飲み物も冷たい物は避けてきた。昼ご飯などは、暖かそうな大根スープの店に入ってしまう。またこの大根の暖かさが沁みるんだな。ついでに内臓系や脂身の肉を頼み、魯肉飯をかっ込むと、かなり寒さは改善される。小雨が降ったり、風が強いと本当に台北は寒い。適度に暖かい埔里が恋しくなる。

 

旧知のSさんとご飯を食べに行くことになり、いつもは『何でもいいです、好きなところを選んでください』というのだが、今日に限っては、『寒いので鍋が食べたい』と言ってしまう。するとSさんから様々な鍋屋の紹介文が送られてきて驚く。羊鍋、麻辛鍋から日本の寄せ鍋など、今や台北にはあらゆる鍋料理が揃っているように見えた。

 

ただ2人で食べるには量的な問題もあり、最終的に日式鍋物屋が選ばれる。行ったことがないので、中山近くのその店に興味津々で入ってみた。かなりきれいな店内で、2人用の席は向かい合うのではなく並びで仕切られている。これでSさんとデート状態になる。隣を見ると何と一人用席までちゃんと仕切られているが、何となくこれは味気ないのでは、と思えてしまう。

 

セットメニューが数種類あり、肉や魚を選べばよいので簡単。基本的には一人鍋なのでお互い好きな物を頼む。すぐに野菜や練り物などがやってきて、タレは自分で作るスタイルだからシンプルだ。寒い日に簡単に一人でも暖まれるというコンセプトだろうか。料金もさほど高くないので、フラッと入り易い。

 

その後はSさんがよく行くというカフェに場所を移して、話し続ける。このカフェ、地下にあり、意外と広い。カップルなどがお茶飲みながら話し込んでいる。そう、台北には様々なカフェが怒涛のように増えてきているが、お客さんは何を基準にカフェを選ぶのだろうか。料金ではなさそうだが、ここのカフェラテはかなり安いので、入り易いのかもしれない。帰りにいまだに中に入ったことがない誠品生活の建物を眺める。もう三越の次代は終わりなのだろうか。

 

11月14日(水)
中国大陸の思い出を聞く

本日も黄さんにお世話になり、王添灯氏関連のヒアリングを続ける。指定された場所は二二八紀念館。最初にここを訪れ、黄さんと出会い、そこから多くのことが広がっていき、今日がある。既に思い出の場所と言ってもよいかもしれない。今日は比較的暖かく、公園を散歩している人も多い。紀念館の前では、社会科見学の学生が記念写真を撮っている。このような歴史は必ず子供たちに教えて行かなければならない。

 

今回お会いするのは、王添灯氏の弟、進益氏の息子さん。進益氏は日本に留学後、文山茶行の新市場開拓の任を担い、大連・天津の支店を任された人。光復後台湾に戻り、茶商公会に長年勤め、その発展に尽力したと聞いている。104歳まで生きられ、90歳を過ぎても公会にバイクでやってきたという長寿、健康な方だったようだ。

 

その息子さんは台湾で生まれたがゼロ歳で大連に渡り、13歳の終戦まで大連で過している。85歳の今でも、日本語は極めて流ちょうで、黄さんたちも話が聞きたかっただろうが、私が日本人だということで、ほぼすべての話を日本語で披露してくれた。大連の小学校、住んでいた場所、その頃の様子を非常に明確に覚えているのが凄い。

 

更には終戦で天津に移り住んだが、そこの住所、付近の建物など、目印がどんどん出てきて面白い。私は子供頃に住んだ場所をこんなにはっきりと言えるだろうか。とにかくお話しを聞いているうちに、天津・大連に行って見たいという気持ちになって来て、ついには行くことにしてしまった。勿論王さんたちが住んだ場所や店舗は、今やある訳もないのだが、それでも『満州や華北に住んだ台湾人』というテーマは実に新鮮で、そして謎も深い。

 

黄さんたちは、貴重な話を収録しようとビデオ撮影までセットしていたが、内容が日本語になってしまい、大変申し訳なかった。ただ王さんが『あんた日本人だろう、僕は台湾人だ。北京語で話はおかしいよね』と言ったことが、心に刺さっている。もし私が台湾語を話していれば、問題はなかったのだろうが、大連で満州語を十分に学び、北京語が流ちょうに話せるはずの王さんが、日本語を選んだのは私のためばかりではないようだ。

 

最後に王さんは『今日稀勢の里が負けたらどうなるんだ、大変だよ』と日本の大相撲を欠かさず見ていると言って帰っていった。何だかとても久しぶりにこのような台湾世代に会ったのが嬉しい。

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