ある日の台北日記2018その1(5)茶商の末裔3

5月28日(月)
茶商の末裔3

土日は基本的にゆっくり休むつもりだった。埔里では観光客にバスを占拠されるとの理由があったが、台北では特に理由はなかった。ただ図書館に行けば勉強できるので、フラフラっと、行ってしまう。行ってしまえば、調べたいことはいくらでもあるので、結局6時間もの間、図書館のPCと睨めっこを続けた。それほど寒いとは思っていなかったが、気が付けば体がかじかんでおり、何となく疲れてしまった。それでも週明けの準備も始める。茶商公会から紹介された茶商の末裔に連絡を取る。ある末裔は上海におり、微信でやり取りをした。

 

そんな中、あの日本統治時代初期には既に台湾一の富豪とも言われた李春生の子孫にも連絡が付いた。今日は彼のいる東呉大学を訪問することになっていた。この大学の名前は何度も聞いていたが、どこにあるのかさえ知らなかった。MRTに乗り士林駅で降りる。そこから指示されたバスに乗ると、大学近くまで行けた。

 

大学はそれほど広くはないが、かなり落ち着いた場所にあった。実は本日会う人とは電話で話してはいたが、彼がどんな人で、ここで何をしているのかは全く確認せずにやってきてしまっていた。迎えに来てくれたその人は若い。何とここの学生、この秋から大学院に進むという若者だった。

 

だが彼は只者ではない。あの台湾烏龍茶の父とも呼ばれる大富豪、李春生の末裔で6代目だった。更には李春生の研究で論文を書いており、研究の道に進んでいる人でもあった。研究室で話を聞くと、李春生にとって茶業はごく一部であり、その事業の幅広さ、そして思想家、哲学者、キリスト教徒としての李にスポットが当たっていることが分かる。

 

正直私が知りたい茶業についての資料は多くない、と李君は言う。1860年代にイギリス商人、ジョン・ドッドと始めた茶の輸出、その後台湾茶のかなりを仕切るようになり、財を成したはずだが、なぜその資料はないのだろうか。大稲埕の開発や鉄道敷設などもっと大きなビジネスが沢山あったからだろうか。この点は今のところ、どこを見てもはっきり書かれたものはない。不思議だ。

 

李君によれば、今年は李春生生誕180周年であり、先般その末裔が一堂に会して、周年行事が教会で執り行われたという。そこに集まった末裔は約180名(欠席者も同数はいるとか)。その多くがキリスト教徒で、世界中に散らばっているらしい。李君はそこで春生の略歴を紹介したというから、既に子孫にとっても春生は歴史上の人物となっている。

 

折角士林に来たので、帰りのバスを途中で降りて、蒋介石と宋美齢が住んだという士林官邸にも行ってみた。南国風の木々が生い茂り、多くの花が咲く広大な庭園(周囲の開発が制限されていたので自然環境が素晴らしい)の中を歩いて行ったが、何と今日は月曜日で、官邸は閉鎖されていた、残念。

 

それから駅まで歩いていき、更に駅の反対側を線路沿いに歩く。ついでと言っては何だが、郭元益の博物館にも行ってみることにしたのだ。ここはあの埔里の東邦紅茶の郭家と縁戚関係にあるという。確かに創業者、郭少三氏の叔父、郭邦光は士林の茶業公会を立ち上げた人だった。士林の郭家は名家であり、郭少三の妹が台湾の5大財閥、基隆の顔家に嫁ぎ、そこが一青妙・窈姉妹のルーツになっていることは前に書いた。

 

博物館は郭元益ビルの中にあったが、見学者はおらず、鍵を開けてもらって中に入った。別の階ではお菓子の製造体験会などが開かれ、ここはお茶屋ではなく、お菓子屋なのだと改めて意識する。そして展示物の中にもお茶や東邦紅茶に関連するものは見いだせず、残念な思いで去る。

 

その後大稲埕に行く。今日は先日お会いした王添灯氏の末裔、黄さんの紹介で、添灯の兄、水柳氏の娘さんに引き合わせてもらった。添灯は戦前の茶商、そして二二八事件で有名になった(今回はこの事件の生々しい話も聞く)が、戦後の台湾茶業界では兄の水柳と弟の進益の両氏が活躍していたのだ。水柳は茶商工会の理事長、弟は総幹事を長く勤めている。

 

お会いした場所は茶商工会のすぐ近くにある立派なオフィス兼住宅ビル。茶業は1982年の茶業管理条例廃止により輸出に終止符が打たれて辞めてしまったというが、不動産業などで財を為している感じだった。最近は昔の茶を復活させようと、六合香茶と言うブランドで茶作りを再開しているという。

 

そして夜、またMRTに乗り、芝山駅へ向かった。香港時代からの知り合いであるH夫妻と久しぶりに会うことになっていたのだ。場所は数年前に一度訪れたことのあるお茶屋さん。そこでは食事ができ、美味しい夕飯をご馳走になった。生まれたばかりの頃から会っているお嬢ちゃんもどんどん大きくなり、英語など話している姿は頼もしい。Hさんもこれから新たなステージに入るようで、楽しみだ。

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