ある日の埔里日記2017その6(13)クリスマスの日に

12月25日(月)
老舗上海料理屋

今朝はゆっくりしていた。10時過ぎに朝昼兼用の食事をするためTさんと待ち合わせの場所に向かった。そこは中山堂の裏。中山堂、もう20年以上前に来た記憶があるが、当時の様子は殆ど覚えていない。ここは1936年、台北公会堂として建てられ、日本軍の降伏調印式も行われたところ。光復後は台北中山堂として活用され、今も演劇などが行われているらしい。時間があれば中に入ってみたかったところだ。

 

今日は午後坪林に行くので、Tさんに無理を言って11時からのランチとした。場所は隆記菜館、1953年の開業以来、上海料理の味を守っている老舗だという。私が上海に留学したのは32年前、何となく昔の雰囲気がある。前菜系は店の前で見ることができるが、店に入って選ぶ。

 

出てきた料理は味の濃い、昔上海で食べたような雰囲気のある物で、すぐにご飯が欲しくなる。突然30年も前の味を思い出し、これにはちょっと驚く。紅焼、というのだろうか。豚角煮など、勿論今でもあるのだが、ここのモノは何とも懐かしい。白米ではなく、菜飯という独特のご飯が出てきた。台湾には時々こういう店がある。既に本家では味が変わってしまっているのに、台湾に昔の味が残っているケースだ。

 

数年前に台北の広東料理屋で食べた炒飯などがまさにそれだった。ある意味でブラジル移民の人々に古い日本精神や日本語が残っているようなものではないだろうか。台湾の料理は、実は全中国から来ている。それは国民党とともにやってきたわけで、この店もそういった経緯から出来、そして味を残しているのだと思う。

 

昼前からお客がどんどんやってきて、1階しかない店舗はすぐに満員になってしまった。ある程度年配のお客が多いのは、やはり馴染みの味を求めてくるのだろう。元々上海出身のいわゆる外省人も、もう90代となり、今はその子孫の時代に入っている。こういうお店がこの付近には数軒あるようだが、今後も続いていくだろうか。続いて欲しいものである。

 

坪林へ
Tさんと別れて、新店へ向かった。今日も坪林へ行くのだが、いつも同じルートではつまらないので、今日は大坪林駅で降りて、ここから羅東行のバスに乗ることにした。このバスは新店発に比べて料金がかなり高い?ので、敬遠していたのだ。ただ今日は新店でのバスの時間が分かっていたので、早く着くこちらにしてみた。

 

このバスは待合室もあり、バス自体も豪華で料金が高いのも頷ける。平日の昼間ということもあり、30分ちょっとで坪林に着いてしまった。予定していた時刻よりずいぶん早く着いたものだ。バス停が学校の前だったこともあり、取り敢えず時間潰しに老街を散歩する。数年前に一度歩いたことがあったが、この時期、観光客は皆無だった。あまり歴史も感じられない。

 

祥泰茶荘に行ってみると、馮君がいたので、ラッキーと思ったが、やはり先客があった。若い夫妻、紹介されてみると、何と何と、台北大稲埕のあの新芳春茶行、今は博物館になっている茶商だが、そこの設計を担当しているというのだ。更にはその奥さんは、あの博物館で私に歴史を教えてくれた陳さんの娘だというではないか。やはりお茶の世界は狭い!

 

馮君は彼らと食事に行ってしまい、私は次男君とお茶を飲んでいた。お父さんもお母さんも『なんだ、また来たのか』という感じで、特にお客扱いされないのが何となく嬉しい。ダラダラしていると馮君が帰ってきて、『2階の倉庫見る?』と聞いてきたので、一緒に2階に上がる。

 

そこには古い布袋が沢山置かれていた。中には米軍が使った小麦袋を流用したものなどもあり、ここにあるお茶の年代は相当古い、しかも量が多い。これが老舗の茶荘だ、ということだろう。ここにどんなお茶が潜んでいるのか、それは当人達でもすべては把握できないという。

 

今回ここに来た目的は、10月下旬にここで作ったお茶を受け取ることだった。あの1泊2日で作られたお茶が一体どんな仕上がりになったのか。飲んでみると、意外や香りがあり、味もまあまあだった。これなら一応人にも飲ませられるなと思い、日本に持ち帰ることになる。

 

帰る前に馮君が連れて行ってくれるというので、車に乗り込んだ。実は先日彼から、『坪林にあった日本時代の茶廠跡』という写真が送られてきたのだ。その現場を訪ねてみる。そこは街からそれほど離れてはいなかった。建物の外壁だけが僅かに残っており、完全な廃墟となっていたが、非常に大きな建物で驚いた。天井も高いので、包種茶というより紅茶でも作ったのかと思ってしまう。現時点で坪林に大規模茶廠があったという歴史には辿り着いていない。機会が有れば、探っていこう。

 

葉さんの家に帰ってみると、トミーがやって来た。ちょうど台北にいるので皆でご飯を食べることになったのだが、今日はクリスマス、外は騒がしいので、食べ物を託送してもらい、家で食べることになったのだ。食後は何と品茶会。先日訪ねた港口茶などを飲み比べた。葉さんのご両親もちょうど来ており、一緒に飲む。さすがに著名茶業家、茶業歴60年以上のお二人からは、結構厳しい評価が飛んできて驚いた。でもこんなお茶会、何とも楽しい。

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