ある日の埔里日記2017その4(8)眉原で下山操子さんと会う

9月22日(金)
東邦紅茶から魚池へ

今朝は宿にKさんを迎えに行き、いつもの店で朝食を食べた。それから歩いて東邦紅茶に向かう。郭さんは紅茶作りに忙しかったが、その中を相手してくれた。古い工場の2階を見て、それからちょうど揉捻機が動いている新しい1階の方へ移る。更には事務所で簡単に紅茶を頂く。Kさんのように品茶に興味がある人には、ちょっと形が違う歴史アプローチだった。

 

そこへIさんが迎えに来てくれ、私は一旦Kさんと別れ、イベント打ち合わせのため、18度Cへ向かう。今日は実施的な実行委員長も決まって、各地区の珈琲班の人々が参加しており、このイベントがかなりの速度で動いてきたことが分かる。初めはどうなることかと思ったが、18度Cオーナーの度量もあり、何だか出来そうな気がしてきた。

 

その後宿に戻り、再びKさんと会って、昼ご飯は黒肉飯を食べる。これから魚池へ行こうとしていたが、1時のバスに乗りそこないそうになり、慌ててターミナルへ。何とか乗れたのでホッとしていたが、老茶廠で下車して連絡してみると、会う予定の李さんは何と埔里に来ており、入れ違いになってしまった。李さんとKさんはFB上の知り合いで、今回初めて会うので私も同席することになったのだ。

 

仕方なく、老茶廠をゆっくり見学する。平日はお客さんもおらず、茶作りも止まっていたので、特に見る物もない。Kさんの最近の動向を聞きながら李さんを待ち、彼の迎えで家へ。ちょっとお茶を飲んですぐに茶畑を見学。ちょうど茶摘みが行われていた。そのまま李さんの知り合いの女性のところへ回る。彼女のところでも紅茶を作っているが、女性らしくかなり可愛らしいパッケージを作り、売り出しているようだ。

 

李さんの車で魚池まで送ってもらう。夜は豚足でも食べに行こうということになり、有名店だという店まで歩いて行ってみた。結構遠かった。店にはお客は誰もおらず、店の対応もイマイチ。まあ、わざわざ食べに来る必要はなかったなと思う。埔里には残念ながら名物と呼ばれるものがない。

 

9月24日(日)
眉原で下村さんに会う

今日はIさんからお誘いがあり、車で中原へ向かった。この付近はセデック族が移住した場所であり、Iさんの奥さんの実家、お母さんもここに住んでいる。まずはお母さんの家に寄る。中原には思ったより家がある。この手前には、あの霧社事件の後、生き残ったセデック族が移住させられた川中島という村もあった。今は清流部落という。このあたりは本当に環境がよい。

 

それから車は更に進み、眉原という部落に入った。その本道から少し降りた場所に、民宿を開いている人がいた。下山誠さん、本日お訪ねする下山操子さんの弟さんだった。誠さんは、随分前にこの土地を買い、草花や野菜を植えている。とても素敵な庭を持っていた。奥さんは現地の人だ。

 

そこへ操子さんが入って来た。日本の敗戦直前、埔里で生まれた。お爺さんは警察官で、タイアル族の頭目の娘と政略結婚した。原住民融和政策の一環であり、彼女のお父さん、下山一さんらが生まれた。ただお爺さんは日本へ帰国してしまい、お婆さんの願いで一家はマレッパというお婆さんの故郷に残った。あの霧社事件とは直接関係はないという。

 

操子さんが生まれてすぐに日本が降伏、下山一家も日本に帰還するはずだったが、お婆さんはどうしても日本行きを拒み、一家は山の中に残った。その結果、お婆さんが亡くなった後もここに置き去りにされ、またまた父一氏はスパイなどの容疑を掛けられ、度々拘留される。そして帰還船に乗ることが出来ず、ついに台湾国民として生きることになった。敗戦国民として一般台湾人、そして外省人から厳しい対応を受けるなど、日本人と台湾との関係をもう一度考えさせられる話が一杯だった。

 

その壮絶な生きざまを淡々と話されると逆にすごみがある。それは私が28年前に会った霧社事件の生き残り、高山初子さんの話を聞いた時と同じ印象を受けた。本当に厳しい、過酷な状況に置かれた人の本音の話というのはそういうものではないだろうか。操子さんの著書『故国はるか 台湾霧社に残された日本人』を読んで、勉強したいと思った。

 

そして操子さんの家にもお邪魔した。『私は2回に死にかけた。その時天から救われた』と言い、家の横には大きなイエス像が建てられていた。庭はとても広く、草花が沢山植わっていた。家の中にも写真が貼られており、引き続き下山家の話を聞いた。操子さんは逆境にもめげず、努力を重ねて、学校の先生を定年まで勤められた。実は今日一緒に来た人の中にも教え子がいた。先生らしい言葉遣い、そして昔の日本のおばさんのような心遣い、その歴史と相まって不思議な時間を過ごした。

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