シベリア鉄道で茶旅する2016(26)エルミタージュを駆け抜ける

S氏を寒い戸外で待たせているので、殆ど話は聞けなかったが、ここでこの店に出会うとは何たる偶然。最後にこの辺にお茶屋はないかと尋ねたところ、1軒の店を紹介してくれたので、そこへ行ってみることにした。その店もエルミタージュに行く途中にあるというので都合がよかった。それにして町並みはヨーロッパ、それも重厚な印象だった。川の水は半分凍っており、まだ寒さは厳しかった。

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その店は大通りから少し入ったところにあったが、入るなり、漢方薬のにおいがした。中には大益のプーアル茶を中心に、かなりのお茶が並んでいた。S氏は全く興味がないという感じで、すぐに外へ出て、タバコを吸っていた。私は質問したいことが沢山あったが、可愛らしい店員は全く英語も中国語も分らず、ただ微笑むだけだった。ほんの少しだけ湖南省のせん茶もあり、万里茶路の終着点を垣間見ることとなる。だが現代において、誰がこれらの茶を買うのだろうか。基本的には紅茶を飲むのだろうに。この店のオーナーは中国人なのだろうか。様々な疑問が頭を過るが推測の域を出ない。

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S氏はデパートかスーパーにクスミティーが売っていないか確かめたかったようだが、どう見ても今のロシアには売っていそうにない。クスミティーは確か1860年代にこの地で誕生したが、ロシア革命で本店がパリに移り、その後創業家は株も手放してしまっている。ロシア人はどれほどクスミティーについて、知っているのかさえ疑問だ。いわゆる貴族というものがこの国には未だにいるのだろうか。

 

仕方なく店を出て、横の両替所で両替した。入り口を入ると半地下になっており、警備員がいて、両替はその奥で行われており、何となく怖い感じだった。レートは悪くなかったので、100ドルを替えた。これで私のルーブル調達はほぼ終わった。あとは大通りをまっすぐ歩いていくだけ、エルミタージュはすぐそこに迫っていた。

 

エルミタージュへ

ついにここまでやってきた。北京から130時間を掛けて、ここまで来たのはこのためだった。S氏はクスミティーを持って、広場で記念写真を撮っている。エルミタージュ宮殿では、往時エカテリーナ2世が、お茶会を開き、万里茶路を通じて運ばれた高価な紅茶を飲んでいたことだろう。それを少しでも感じられれば、今回はそれで満足だ。S氏も本を書くにあたり、この美術館のティールームで紅茶を飲むのは絵になるだろうと考えていた。

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美術館に入るには、長蛇の列だ、と聞いたことがあったが、今は3月、すぐに中には入れて、切符もすぐに買えた。写真代込みで600㍔。次に地下のクロークへ行き、上着とバッグを預けて、荷物検査を越えてようやく入場となる。何しろ広い。まずはティールームを探すとすぐ近くにあったので、紅茶を注文してみた。何とティバッグに、スチロールのコップ、なんともがっかりだった。ここまで来てこれかよ、やはりロシアの茶文化はその程度か、などと心の中で叫ぶが、何とも仕方がない。開いている席に座り、うな垂れながら味わうこともなく飲み干す。

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ここで一旦解散し、各自見たいものを見ることにした。だが集合時間まであと40分、この広い館内で一体何を見るというのだ。私としては、絵画などを見るよりも、ここでは宮殿としてのエルミタージュを見て、エカテリーナに思いを馳せる方が、万里茶路的には良いであろうと腹をくくった。まず2階に上がる階段が凄い。まるで映画に出てくるようだ。ヨルダン階段と呼ばれ、エルミタージュに来る人ならだれでもここを登り、誰もがここで写真を撮る。それほどに美しく、天国への階段、という雰囲気だった。ここは冬の宮殿で、外交の中心でもあり、各国大使が登ったとも言われている。

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2階に上がると宮殿広間などがある。小玉座の間は、ペテルブルクに都を移したピョートル大帝の間とも呼ばれているが、作られたのは19世紀後半とか。その奥には大広間があり、ここで華やかな外交、パーティーが繰り広げられたことだろう。元々エルミタージュはエカテリーナ2世が集めた美術品を納めていた場所。彼女がここでどんなお茶を飲んだのかは実に興味深いがその資料をまだ目にしてはいない。万里茶路に関する手掛かりは、ここでもほぼ何も得られなかった。大黒屋光太夫がエカテリーナに会ったのも、ここではなく、夏宮だと言われているが、我々にはそこまで行く時間もない。

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あとは道に迷いながら適当に見た。3階には東洋美術も収められており、その収容能力の高さを物語るが、見学者はほぼいない。2階に戻って、ダヴィンチやカラヴァッジオを見ようと思ったが見つからず、代わりに目の前にルーベンスの『大地と水の結合』という絵が現れた。エルグレゴもやってくる。印象派など全く行きつかない。途中で断念して集合場所に戻ってみると、既に2人が待っており、早々に退散となった。そう滞在時間、わずか45分のエルミタージュとなった。

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