シベリア鉄道で茶旅する2016(22)ピロシキ、カップ麺、夕日、そして鶏の丸焼き

 午前10時頃、突然車掌が入ってきた。昨夜の飲酒でも咎めに来たのかと思ったら、何とピロシキの車内販売だった。S氏が以前乗ったシベリア鉄道でも、車掌は副業として、色々な物を売る、というのがあったそうだ。彼女らの最大の儲けは、ビールなどのアルコール類だったというから、禁酒となった今、彼女らの収入は大きくダウンしたことだろう。私は未だ食欲がなく、この先も心配なので、ピロシキをパスした。

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外は快晴になってきた。吹雪の舞うシベリア、という雰囲気はみじんもなく、太陽の光が雪に反射して眩しい。天気が良いと気分も俄然よくなる。美味しいお茶が飲みたくなる。そこでスーパーで買っておいたミルキーウーロンを取り出した。あんなに沢山売っていたのだから、きっとおいしいに違いない、という私の期待は封を開けた段階で無残に打ち砕かれた。すごいバニラのにおいがするのだ。これは完全にフレーバーティであり、烏龍茶はどこへ行ったの、と思うほど、その影はなかった。一口飲んで止めてしまった。あと20袋以上あるのにどうするんだ?確かに日本円で1泊100円という値段をよく考えるべきだった。

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昼頃、どこかの駅に停まった。快晴なので油断して軽装でホームに降りたところ、強烈な寒さに見舞われた。風がとても強い。駅にあった温度掲示を見てびっくり、何と零下16度だった。そりゃ寒いわ。隣の白人は何と半袖でタバコを吸っている。どうなっているんだ。半ズボンのやつもいる。彼は皮膚の構造が我々とは違うのだ。何か食べ物でもないかと見たが、おばさんたちが売っていたのは毛皮。なるほど、でもここで買う人はいるのだろうか。さっさと列車に戻る。

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ところでシベリア鉄道のトイレは快適でよい。きれいだし、便器もしっかりしている。ただ時々紙が無くなることがある。入る前に気を付けておかなければならない。あと問題は、洗面所がないことだろう。歯をみがくのも、トイレの中になるので、混みあっていると、実際歯磨きは難しい。私もトイレを優先させたい。だから歯磨きは昼下がりにしていた。

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何となく列車内を散歩していると、10両以上離れた向こうの方に食堂車があった。ここまでたどり着くのには、相当の体力がいる。何しろ1両ずつ、重い扉を開けて進まなければならない。かなりのスピードで飛ばしている上、風も強くて、扉はどんどん重くなっている。しかも連結部分は非常に寒い。取っ手は凍り付いている。零下10度以下で走る列車だからこれも仕方ないが、それにしても凄い。

 

食堂車はきれいだったが、料理の値段は高かった。お客さんは一人もいない。それはそうだろうな。折角来たんだから、という感じもなく、一度退散することになる。また重い扉を開けて戻る。行きにも増して重く感じられる。ようやく部屋に辿り着くと、カップ麺を作って食べた。適度な運動をしたせいか、麺を美味しく食べられた。

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それから少し行くとかなり立派な駅に着いた。駅舎は新しそうに見えたが、プレートを見ると1895、という数字が見えた。この駅は1895年にできたのだろうか。シベリア鉄道は突然できたわけではない。一歩一歩地道な作業があって、最後1905年に開通したということだ。しかしここで鉄道建設に携わった人々とは一体どんな人なのだろうか??どんな苦労があったのだろうか、とても想像できない。

 

日がだんだん西に傾いてきた。白樺の間から強い日が差し込んでくる。また大きな川を渡っている。橋の隙間からも日が差している。そしてシベリアに落ちる夕日、見事なものだった。雪に映えて実に鮮やかな風景は絵になる。何とも雄大な景色を見ていると、少し腹が減ってくるのはなんとも不思議だった。

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日も落ちて、暗くなった頃、また大きな駅に着いた。S氏はタバコを吸い、私は体をちょっと動かし、深呼吸しただけだったが、Nさんがなかなか帰ってこない。また酒の調達かと思っていると、本当に列車が動き出す直前に何かを抱えて戻ってきた。紙の包みを開けると、何とそこから鶏の丸焼きが出てくるではないか。なんでもロシア人の後をついていくと、一軒の小屋で煙が上がっており、中で焼いていたのを買ってきたというのだ。これは凄いご馳走だ。気持ちが狩猟民族になる。

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Nさんに分けてもらい、貪るように鶏肉を食べた。本当にうまかった。これだよ、俺が食いたかったのは、という感じだった。今回鉄道の旅の最大のご馳走だった。3人で一羽を簡単に平らげてしまった。恐ろしいほどの満足感だった。これで当面、カップ麺でも食いつなげる、と思ってしまうほどの充実ぶりだった。

 

夜は更けていくが、一日中ベッドの上にいたような私にとってはあまり眠たくはない。ああ、また駅に停まったな、などと思っているうちにウトウトしてきて、寝入る。夜中にまた起き、トイレに行き、また寝るが、また揺れで起きる。そんな夜が続いた。モスクワまではまだまだ遠い。終点まで乗って行く我々には緊張感もない。

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