シベリア鉄道で茶旅する2016(21)シベリア鉄道63時間の旅へ

 長旅の準備

レザノフ像から遠くないところに、スーパーを発見した。かなり大きなスーパーで品ぞろえが非常に多い。美味しそうなパンを買い、総菜コーナーでサーモンのマリネまで買った。勿論カップ麺は3つほど入れ、更にはカップのマッシュポテトという、初めての商品にも挑戦してみた。正直フルーツが欲しかったが、バナナは乏しく、梨などもとても高い。プチトマトだけをかごに入れた。これなら切らなくても良いから。

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確かにすべてを輸入に頼っているようで、シベリアの冬には野菜や果物は欠乏しているらしい。代わりにS氏に勧められて、アップルジュースを買い込む。ロシアで美味しい飲み物はアップルジュース、という印象があるのだそうだ。だが前回のキャプタでは安物のジュースを買ってしまい、失敗した。今回はちゃんとしたジュースを買ってみた。そしてお茶のティバッグ、悩んだ末に『ミルキーウーロン』という変わり種を購入した。それぐらいしか楽しみはないのだ。

 

駅へ戻る途中、Nさんは酒のつまみとして、道端でサラミやソーセージを買い込んでいた。これが予想以上にうまいらしい。相当の塊で買っている。酒も慎重に選んでいる。それしか楽しみがないというのは、悲劇なのか、それとも喜劇なのか。雪は更に融け、道は一部洪水のように水が流れ始めていた。

 

宿へ戻り、交代でシャワーを浴びる。この宿の最大の利点は、12時間単位で部屋代を精算することかもしれない。我々は2日前の午前8時にチェックインしたので、最後は夜8時までにチェックアウトするように支払っていた。これは本当に助かった。これから3泊、シャワーを浴びられないことを考えると、極めて重要なことだった。もう一つがネットだった。これも4日ほど繋がらないことを前提に、連絡を入れたり、旅行記をブログにアップしたりした。何となく準備が整った頃、S氏は率先して部屋を出て行った。私は名残惜しくて、最後までドアを閉められなかった。

 

部屋から出て下に降りるとそこに駅があるのは楽だった。待合室は乗客で一杯になっている。この時間、列車の発着は何本もあった。電光掲示板はすべてロシア語だったが、よく見てみると、ここ始発も多い。本線ではなく、北の方の街へ行く列車も通勤電車のようにあるらしい。ロカールタイムで午後5時台、ちょうど退勤時間だった。

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63時間の旅へ

地下から通路を通ってホームへ行くのだが、我々の乗る列車はなかなか来なかった。切符を見せると駅員が首を振るのでそれが分る。地下で30分ぐらい立っていただろうか、まあ63時間座っていることを考えれば、これぐらい立っていた方が良い、などと考えてしまう。ようやくホームへ向かうことが許されたが、我々の乗る車両がどこに着くのかはさっぱり分らない。もうこれにも慣れたので真ん中あたりに陣取る。

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列車がゆっくりと入ってきて、人々が降りてくる。入れ替わりに車掌に切符を見せて乗り込むのだが、我々の車両はだいぶん離れていた。ただここは大きな駅でかなりの時間停まっているので、心配はなかった。やはりコンパートメントを我々3人で独占した。これは本当に楽だった。もしこれが一人旅だったら、色々と心配事が多くてシンドイことだろう。今回は3人旅というのが最大のメリットのように思えた。

 

列車が動き出すと、もうやることはなかった。早々にだらだらと横になり、思い思いに過ごす。後でS氏が言っていた。『シベリア鉄道に乗りたい、あこがれだ、という人がいるが、止めた方がよい。あれは人間がどこまで怠惰になれるかを試しているようなものだから』、まさにその通りだった。これだけ時間があれば、本もたくさん読める、原稿だって書ける、写真も一杯撮れる、などと考えがちだが、実際には何もする気力が起こらないものなのだ。これはもうどうしようもない。何もしないで、何とか時間が過ぎるのを待つ。もしやすると、牢屋の囚人もそうなのかもしれない、などと考えてしまう。

 

日が暮れる前にはやることもなく、夕飯を食べ始めた。だがなぜか私は食欲が出なかった。何だか気分も悪くなり、折角買ったサーモンのマリネを2人に食べてもらった。ほんの2口ほど食べたそれは本当にうまかったが、それ以上口は入らなかったので、相当に具合が悪くなる可能性があり、早々に寝ることにした。S氏たちがその後酒盛りしていたかも知らぬほど、熟睡してしまった。これはどうしたことだろうか。

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3月16-17日(水、木)

翌朝は早くから目覚めていた。特に風邪を引いたとか、熱があるとかいうこともない。ただ体に力が入らなかった。腹の具合も特に問題ないのだが、食欲はなかった。これは気持ちの問題かもしれない。この生活があと2日も続くかと思うと、それだけで落ち込んでしまった。窓の外は雪景色、シベリア鉄道に乗ると必ず頭に響く曲、トロイカが流れ出す。『雪の白樺並木 夕日が映える』、今は朝日だが、窓は水滴が付き、写真もうまく撮れない。

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