ナムサン茶旅2016(12)山中で事故に遭ったが

Tさんは『取り敢えず、街まで戻りましょう』と言って、車を運転し始めたが、少しスピードを出すと、また煙が上がる。これを続けていると、必ずや動かなくなる、という合図に見えたが、こんな山の中、走ってくる車もない。どうするか?悩みながらもゆっくりと車を動かし、もう少し頑張ってみると、ティボーへ降りる道と、街へ向かう道の交差路に出た。ここは少し広くなっていたので、まずはここに車を停めて、誰か来るのを待つことにした。

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果たして車は来るのだろうか。その時、思いついたのが電話で助けを呼ぶことだった(こんな山の中にいるとそんな普通の発想すらなくなってしまっていた)。Tさんが携帯を取り出してみてみると、なんとここには信号があった。後で聞いた話ではこの付近で携帯電話が使えるのはまさにこのスポットだけだった。何かに導かれていたのではないか、と今では思う。

 

そして先ほどの茶工場のマネージャーの名刺もある。電話を掛けると、マネージャーが出て、それは大変だと、すぐに街の車修理の人に連絡を取ってくれるという。これで助かった、何とか切り抜けられる。その後バイクが何台か通ったが、皆どうしたんだという顔をするだけで通り過ぎって行ったが、こちらにも余裕が生まれていたので、気にならなかった。

 

待つ時間というのは退屈である。ナムサンについて思い出してみると、そもそもこの名前を初めて聞いたのは、TTMからだったと思う。彼女が子供の頃、軍人であった父親が配給でもらってきた中に、ナムサンの紅茶があったというのだ。そして当時貴重なコンデンスミルクももらい、これを混ぜると美味かったともいう。更にカップはなく、コンデンスミルクの空き缶を使っていたという話は、妙に心に引っ掛かっていた。ミャンマーは長い間、経済が低迷しており、TTMだけでなく一般ミャンマー人は色々と苦労して生きたことだろう。

 

そんなことを考えていると、ついに修理屋さんが車でやってきた。壊れた車の下にちょっと入り、点検していたが、すぐに首を横に振った。仕方なく。彼の乗ってきた車でTさんの車を曳いて街まで行くことになる。だが山道をコントロールの利かない車を曳いていくには相当のパワーがいる。修理屋の車には残念ながら、そのパワーはなく、車はヨロヨロと蛇行しながら、アップダウンを喘いでいく。Tさんは自分の車に乗り、ハンドルを懸命に動かしていたが、相当の大変なことになっていた。一難去ってまた一難。人生のように難しい。

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そこにトラックがやってきた。追い抜いていくものと思っていると、後ろで停まり、修理屋に声を掛けていた。2人で話したのち、なんとそのトラックが壊れた車を引っ張ることになった。さすが小さな街、知り合いなのだろう。トラックが曳き始めると、かなり安定して、スピードも出てきた。何ともありがたい光景だった。それでもかなりの時間が掛かったが、何とか街外れの修理工場まで運び込んだ。ホント、トラック運ちゃんにはお礼の言葉もない。

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車はここに置かれ、修理屋が破損状況を把握後、修理可能かどうか、を連絡することになった。見た感じではすぐに直るとは思えない。Tさんは覚悟を決め、後日ここに車を取りに来ることに決めた。すでに日はかなり傾いている。正直これからどうするのだろうか。今晩は、ここに泊まることになるのだろうか。先ほどの心地よさそうなゲストハウスの部屋が頭に浮かび、このような緊急事態なら、特別許可で1晩ぐらい泊めてくれるだろうと高をくくり始めた。修理屋も『取り敢えず、ゲストハウスに行け』と車で送ってくれたのでその期待はさらに高まった。

 

ところがゲストハウスでは、マネージャーがマンダレーにいたオーナーと連絡を取ったものの、我々が泊まることは難しい、との見解を示してきた。この辺が微妙な時期、というのを反映していたのかもしれない。ではどうするか?再び修理屋の車に乗り、別の場所に連れていかれる。そこではすでに酒盛りが始まっていたが、その中から若者が探し出され、修理屋が話し始めた。彼はこの街とティボーを繋ぐ、ミニバスの運転手だった。バスは朝ナムサンを出て一往復、すでに仕事は終わっていた。もう日が暮れようというこの時間に、わざわざ山を下りたい者などいる訳がない。だが、結局かわいそうに彼が我々を送ることになる。

 

彼に8000kの運賃を支払った。我々には全く選択の余地がない。高いと思ったが、言われるままにするしか方法がなかった。運ちゃんはもう一人助手を探してきて、日が暮れようというまさにその時、勢いよく出発した。我々二人は助手席に詰め込まれ、助手は後ろの座席に乗った。後で考えると、夜は風が冷たいので、助手席の方がよいという配慮だったらしい。

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九死に一生を得る

車は暗い下り坂をかなりのスピードで降り始めた。さすがに普段から慣れた道を運転しているということだろうが、それにしても恐ろしい。もし景色が見えたら、もっと恐怖が増したかもしれない。特に前方を走るトラックを追い抜いていく時には、崖から落ちはしないか、かなりハラハラした。運ちゃんも早く帰りたい一心だったのかもしれない。明日の朝も早いのだから。

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