《雲南お茶散歩 2006》易武・孟海(3)

2月14日(火)
4.孟海
(1)孟海へ

翌朝はゆっくり起きる。流石に昨日は疲れていた。8時半過ぎに朝食を食べに行くと既にお客の姿は殆どなく、ビュッフェの料理も残り少ない。やはり南国の観光地は朝が早い。米線を貰って自分で味付けしてみたが、あまり上手く行かない。

9時半にホテルを出て昨日最初に行った翻胎廠のバスターミナルへ。昨日バスがここから出るのを確認してあったので、余裕を持って行くことが出来た。何と言っても知っているか知らないかは決定的な差である。特に田舎では。

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切符も簡単に買え、直ぐにバスに乗り込む。所謂ミニバスである。乗ってくる人々は少数民族が殆ど。タイ族などの他、色の黒い人達がいた。何族であろうか??バスはオンボロで郊外の広くて真っ直ぐの道に出てもスピードはイマイチ。

しかし景色は素晴らしい。天気が快晴であることもあるが、畑や川が実にクリアーに見える。まるでチベットにいるようだ。道も最近整えられたとのことで新しい。昔は孟海まで2-3時間掛かっていたそうだが、今はこのオンボロバスでも1時間掛からない。

段々畑が見え、そして山の斜面に茶畑が見えてきたなと思ったら、孟海のバスターミナルに到着してしまった。昨日の苦労を思えば嘘のようだ。ターミナルを新しくなったようで、立派な建物である。周りでは少数民族が物を売っている。そして三輪タクシーが客待ちをしていた。

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(2)鴻福茶廠
Fさんから茶廠を紹介されていた。しかしそれがどこにあるのか??さっぱり分からない。孟海の町がどこにあるのかも不明である。このバスターミナルは郊外に作られているものであろう。ようやくタクシーを見付ける。女性の運転手だ。茶廠の名前を告げても、知らない様子だ。これは困った。彼女は他の人々に聞いてくれている。

どうやら場所が分かったようだ。そして料金交渉だ。ここから8km離れているという。ガソリン代も上がっており、以前より料金は高くなっていると言って来る。聞いてみると30元と言うことだったので、兎に角行って見る。

今来た新しい道を景洪方面に戻る。10分ぐらい行くと道路脇に温泉があった。こんな所に温泉??確かに雲南省も火山帯である。偶には大地震もある。西の外れ、ミャンマーに近いところでは最近も地震被害があった。文化大革命中には数万人が亡くなった地震があったが、情報統制で一切公表されず、何と20年以上経ってその事実が世界に伝わるといったこともあった。

運転手に聞くと、個室に入ってお湯に浸かるらしい。外から見るとプールのようなものがあり、水着でも入れるのかもしれない。何となく台湾的。入って見たい衝動に駆られたが、今は目的地に着くことが大切と諦める。

温泉を抜けると昔ながらの並木道がある。こういった並木はミャンマーにもあり、私の最も好きな場所である。静かで落ち着きがある。道の向こうは畑が広がる。トラクターが行く。ちょっと前は馬だったはずだが??

並木道をいくらも行かないうちに呆気なく鴻福茶廠に着いた。運転手に待っていてもらい、中へ入る。もし目指す人が居なければ帰りに困るからである。何しろFさんが連絡してくれているとはいえ、Fさんの知り合いの紹介なのである。どうなっているか分からない。

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茶廠に入ると左手に人が住む小さな家があった。男性が居たので聞いてみると直ぐに取り次いでくれた。右側の建物が事務所であり、中で数人が茶を飲んでいたが、皆出て行ってしまい、工場長の黄さんだけが残る。

 

 黄さんはちょっと戸惑ったように落ち着きなく、部屋の中を歩き回り、お茶を探している。外国人などは恐らく来たことがないのであろう。取り敢えずここのお茶を飲ませてもらう。この茶廠は僅か2年前に出来たそうで、作っているプーアール茶も当然新しい。生茶を入れてもらうと新鮮な感じである。熟茶も作っているが、これだけ新しいと生茶がよい。生茶と熟茶の餅茶をサンプルとして頂く。お世話になった上に申し訳ないが、東京でお茶会に出そうと思ってもらってしまう。

部屋とはいっても開け放たれている。非常に気持ちが良い風が微かに吹く。以前広東省潮州の鳳凰山に登った時に立ち寄った家がこんな感じだったと思い出す。爽やか、落ち着ける、暖かい、などお茶を飲む条件が揃っている。やあ、ここに住みたい。伸びをしながら考える。

黄さんには日常のことなので、何で突然やって来た日本人がこんなにリラックスしているのか理解出来なかったに違いない。工場を案内しようと外へ出る。工場は結構大きくて、十数人の人が働いていた。作り方は昨日の易武と変わらない。設備は若干現代的だが、基本的には全て手作業。

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今年は新工場が隣に完成し、生産量も大幅に増えるらしい。丁度建設中の敷地を歩く黄さんは自信に溢れている。彼は聞いてみると何と福建省泉州市出身であった。お姉さんが昆明在住で彼女が投資した工場である。彼も役員として名を連ねている。奥さんと子供は泉州に置いてきており、単身赴任だという。プーアール茶はそんなに儲かる事業なのだろうか??彼はこの環境抜群の田舎が結構気に入っているというが、どうなのだろう??寂しくないのだろうか??住まいも工場の敷地内だという。

お茶の仕分けなどは少数民族の女性がお喋りしながらやっている。黄さんがどこかへ行ってしまった後、工場でお茶作りを眺めていたら、従業員から出て行けといわれる。この工場の門には確かに参観謝絶の表示があった。お茶作りも秘密が多いらしい。誤解は解けたが、見学を止めた。

 

(3)昼食
黄さんはどうやらお昼の指示をしていたらしい。工場の前のレストランに連れて行ってくれる。レストランといってもタイ族の民家といった雰囲気。入ると奥に部屋がある。低い竹のテーブルが目に入る。テーブルは2段になっており、端にはコップが置ける。

窓から外を見ると目の前には茶畑がある。この家の人が飲む分を作っている。池があり、景色が良い。長閑で緊張感が全くなくなる気だるさがある。遠くには橋が見える。あの橋の向こうに少数民族が住む村があるという。

部屋の中にはエイズ撲滅のポスターが張ってある。衛生教育などはなかなか浸透しないのであろう。普通のテーブルもあり、茶廠の従業員がスープとご飯を持ってくる。持込である。おかずだけ注文している。スープには鳥の頭が浮かんでいる。これを美味しそうと思えなければここではやっていけない。幸い??私は美味しいと思えるのである。実際このスープは絶品であった。何杯もお替りした。

おかずはサヤエンドウの炒め物、鶏肉の唐辛子炒めであった。全て実に美味しい。ご飯もお替りを重ねる。どう見ても食べ過ぎである。しかしこの幸福感は日本にはない。食べられるだけ食べる。

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このレストランの横には人民解放軍の学校がある。時々訓練をする声が聞こえる。この声がなければ本当に最高だったのだが。反対側にはタイ族の伝統的な家屋が見える。瓦屋根である。

(4)基諾へ
昼食後また事務所に戻る。本当は昼寝でもするのだろうが、お客が居るので申し訳ない。実はこっちがここで昼寝をさせてもらいたい。それ程気持ちが良いのである。相変わらず空は真っ青。

黄さんに昨日の易武の顛末を話すと突然『茶の老木を見たいか?』と聞かれ、何気なく見たいと言うと今から行こうと用意を始める。どこへ行くのか分からない。そういえばこの直ぐ近くに南糯山という山に樹齢800年といわれている茶樹があったが、最近枯れたと聞いていた。かなり興味が沸いてきた。

この南糯山、三国時代の225年に諸葛孔明が南征した際、この山に分け入り、茶の木を植えたと言い伝えられている。この山に住む少数民族、基諾族は諸葛孔明を『茶祖』として今も崇めていると言う。また眼病を罹った兵士に茶を煎じて飲ませた所、直ったという言い伝えもあるという。

そういう意味では孟海、いや南糯山は茶の聖地とも言うべき場所である。そもそも普?茶は西双版納一帯で取れた茶を普?という場所に集めたことから名が付いた。(普?では茶は取れないという)茶としては3000年の歴史があると言われているがどうであろうか?? 普?茶は明代以降栄え、1729年には皇帝に献上する献茶となる。1908年匪賊の横行で茶の輸送が難しくなるまで続く。

茶廠の車ホンダアコードに乗り出発。運転手付き。黄さんも経営者である。こんな快適な気候で、会社を経営し、静に暮らす。理想的に見えるがまだ30代前半の黄さんには少し退屈なのではないだろうか??勿論今はプーアール茶作りが面白いからそんなことも考えないのかもしれない。

車は景洪に向かって走り出す。確か南糯山は孟海と景洪の間にあるから、やはりと頷く。実は孟海より西に巴達山という山があり、そこにも老木がある。そちらに行くと下手すれば今日は戻れない。巴達山にも興味はあったが、夜の寒さに耐えられる服装ではなかったので安心する。しかし私は彼に目的地を聞こうとはしない。それが面白いのである。

しかしもう直ぐ景洪と言う所まで来ると流石に首を傾げる。私を送ってくれているだけなのだろうか??そしてとうとう景洪の町に入る。金版納飯店の前を通り過ぎる。おかしい??すると携帯で何やら連絡を取り合っている。何と若い女性が乗り込んできた。彼女は誰なのか??誰も紹介してくれない。そのまま出発。

車は進路を北に取る。孟海方面ではない。どこへ行くのか??高速道路をかなり飛ばしていく。車の中ではテレサテンのDVDがかかっている。懐かしい曲が何曲も流れる。景洪から乗ってきた若い女性は何とテレサテンを知らなかった。黄さんが説明する。黄さんは子供の頃福建省でよくテレサテンの歌を聞いていたという。私も19年前に福州から泉州までバスに乗った時に車内で彼女の歌を聞いた記憶がある。沿岸地区は進んでいたと思う。

そのDVDは日本製で日本公演が収められていた。日本語も出てくるので、話が日本に及ぶ。黄さんは日本について、かなり知識がある。山口百恵やおしんは当然であるが、相撲の朝青龍も知っている。高倉健が雲南で映画を撮ったことも話題になる。雲南の人々にとって日本は遥か遠い国であるが、福建の人間にとっては比較的近い国であることが分かる。

小1時間で基諾村に着く。基諾村はその名の通り基諾族が住む。基諾族は中国で公認されている55の少数民族で最後に公認された民族である。村役場の前に基諾族の男性が2人待っていた。そしてここで車を乗り換えた。普通車では山には入れないという。どんな山なのか??

最初は段々畑が広がっていた。それから坂がきつくなりだした。すれ違うダンプとの間隔がどんどん狭くなる。カーブから下を見ると茶畑が見えることもある。40分ほど過ぎた。相当上にあがった所で横道に入る。ここからは本当に険しかった。車は1台しか通れない。両脇は大木が遮る。中には樹齢数百年と思われる老木もある。枝が大きく張り出しており、上に小屋を作って寝られると思われるほど。

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20分ぐらい行くとちょっと開けた場所に出る。そこに茶畑があった。この畑は人の手が入っている。聞くと黄さん達が買い取ったものだという。車の運転手ともう一人は黄さん達が雇った使用人であるという。こんな場所で大丈夫なのだろうか??

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更に10分ほど奥に進む。すると突然開けた土地が見える。こんな山の中に何故??池もある。小屋があり、人が住んでいる。広場の真ん中には家を建てるための建材が大量に置かれている。黄さんは『ここに茶工場を建てて製茶するんだ』と事も無げに言う。しかしこんな山の中で生活することは出来るのか?小屋を見るとキャベツなどの野菜が置かれている。どこから取ってくるのか魚が干してある。竈が出来ていて調理も出来るようだ。原始的ではあろうが、この辺りの人々にとってはそれ程大変ではないのかもしれない。便利に慣れた我々には全く対応出来ないのだが。

基諾族の一人が手招きする。茶の老木を見に行こうという。彼は鎌を持つとさっさと林に分け入る。急いで後を追う。鎌で草をかき切りながら進む。道は僅かに跡がある。下りであるので、あまり急ぐと滑り落ちそうである。枝が大きく出ている木もあり、危険が迫る。

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5分ぐらい行くと、いきなり『これが茶の木だ』と言う。そんなに太くはない幹の木が数本見える。上を見ると確かに葉っぱは茶の葉である。ひょろひょろと伸びている。見上げると青い空。他に高い背丈の木が何本もその空を覆っている。本当に山深い場所にひっそりと立っている茶の木であった。写真も何枚も撮ったが、上手く撮れているものは殆どなかった。光の加減も難しいし、構図も撮り難い。こんな場合こそ、写真の上手い人であったらなあと思う。

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少し居て戻る。午後の日差しが徐々に戻ってくる。光が恋しい。開けた場所に戻ると何と反対側にも行けと言う。言われるままに附いて行くとまた急な下り。その先の山の斜面には茶畑が見えた。この茶葉はどうやって摘むのだろうか??しかし基諾族の人々には難しくないのかもしれない。それで黄さん達も投資するのだろうから。いや、しかしプーアール茶だろう??そこまでしていいことがあるのだろうか??黄さんに聞いても何となく曖昧。うーん。お茶は本当に不思議である。

もと来た道を帰る。途中ですれ違った車の運転手が何か言っていた。すると直ぐ先のちょっと広い所で車が停まる。ここで対向車を待つと言う。この道は黄さん達がある程度整備した言わば自分の道である。無理はしない。しかし5分待っても誰もやって来ない??

ようやく10分してゆっくりと農作業車がやって来た。何とも長閑な状況である。その間、皆タバコを吸い、伸びをし、取り留めの無い事を話す。日本なら皆イライラして大変であろう。どうなっているんだ、と理由を問い質すだろう。ここにはそんなものはない。ただ待つのである。対向車の運転手が何か言っている。こちら側も笑っている。もう1台来るらしい。東京の線路の遮断機のように動けない。でもイライラはしない。

帰りは途中の休息??を除けば速かった。慣れたせいもあるが、下りは速いのだろうか??しかしこの旅は凄かった。予想を全くしていなかっただけに衝撃はかなりのものがあった。黄さんには大いに感謝しなければならない。ここに来ることは普通出来ない。旅の醍醐味を味わった。

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