奈良、吉野、熊野、堺茶旅2020(4)熊野の釜炒り茶

お昼時になったので、近所の食堂の場所を聞き、そこへ向かった。田舎では平日開いている食堂は少ないのだという。少し行くと、なんだかとても立派な蕎麦屋さんがあったので驚いた。意外なほどお客さんがいて、車の停車にも困るほどだった。中に入ると、大きなお座敷や縁側もある。蕎麦などを注文したのだが『ゆっくりお待ちくださいね』と言われ、外のいい景色を眺めたり、部屋の飾りや庭を見たり、話をしたりして過ごす。

何と注文した物が出てきたのは1時間半後だったので、さすがに驚いた。事情を聞いてみるとご主人が一人でやっており、いつも平日はお客さんも少ないのだが、今日だけなぜか突然客が来てしまい、全く手が回らない状態だったという。お客の方も、他に食べられるところがないので、皆がここに集まり、帰る人もいなかったらしい。確かに商売というものは予測不能で難しいが、ちょっともったいない気もした。

店で出ると既に午後3時になっていた。30分ぐらい走って、お寺に着いた。ここは南朝後醍醐天皇ゆかりの金峯山寺だという。ここ吉野は後醍醐天皇や大塔宮が足利尊氏らと争う際の南朝方の拠点であり、その歴史的な物は沢山あるのだろう。この寺だけでも、色々と説明書きがある。だが何といっても本堂の古びた太い柱に非常な迫力が感じられる。中に入ると研究者のグループが何か調べており、その横をすり抜けて見学する。

本当は吉野の歴史、ものすごく興味があるのだが、もしそれを巡ろうと思えば、自分で車を運転して、かなりの時間を掛けなければならず、それは今の私には無理なのだと現地に来てよくわかる。メインはお茶なのだが、歴史に絞った旅をしたい、という気持ちはこういう場所へ来ると高まるが、如何ともし難い。

ここで大阪へ帰るMさんと別れ、我々3人はYさん運転の車で、本日の宿泊地を目指すことになる。途中恐ろしげなつり橋が見える。私は高所恐怖症で何よりつり橋が苦手だ。十津川村谷瀬の吊り橋、と書かれている。長さ300m、高さは54mもある。二人は写真を撮るため、スタスタと橋を渡っていくが、私は最初の2歩でギブアップし、不格好な写真を撮られる。

午後6時半、十津川温泉に着いた。旅館に宿泊するのは久しぶりだ。GoToトラベルで賑わっているかと思っていたが、今晩この宿に泊まっていたのは、我々以外に一人だけだった。『GoToは大手旅行社を救済するためのもので、小規模の宿には恩恵はあまりない』とご主人はいう。我々は確かにかなりの割引を受けて泊まり、美味しいご飯を頂くことができたのだが、これはどういうことだろう。

先ずはゆっくりと温泉に浸かり、疲れを癒す。それから地元で採れた山菜などをふんだんに使ったキノコ鍋、漬物などを堪能した。最近はなかった贅沢を感じる。こちらの若いご主人が山で採ってきたものも多いという。山の幸、ありがたい。だがこういう宿に継続性があるのかどうか、ちょっと心配になってしまう。

10月14日(水)熊野で

朝からお風呂に入り、出てくると朝ご飯。なんともいいね。しかもこの宿が選ばれた理由が『茶粥』が食べられることだった。昔はどこでも食べていたというが、忙しい現代人の生活から茶粥はどんどん遠いものとなり、今ではごく一部のお年寄りが食べているだけだという。川魚やウマい漬物と一緒に食べると実に美味しい。満足な朝のひと時。

出発時間になっても二人はどこかへ行ってしまい、待たされる。私もちょっと散歩してみたが、温泉宿が数軒あり、その向こうに川が流れていた。二人は朝からこの辺の情報収集に余念がなく、その中には茶に関する物もあり、午後ここに戻ることにして、先ずは熊野へ向かう。

30分ぐらいで熊野本宮大社付近に着いた。今日お訪ねするUさんの住所を訪ねてみたが、残念ながら不在だった。電話してみると、茶畑にいるというので、川沿いで待ち合わせて、迎えに来てもらう。Uさんの車に乗せてもらうと、狭い橋も坂道もスイスイ進むからすごい。

Uさんは今年88歳というが何ともお元気だ。ご夫妻はもう50年以上、ここで釜炒り茶を作り続けている。昔は蒸しの緑茶も作っていたが、今は天日干し釜炒り茶の需要があり、多く作っているのだとか。以前は生活していたという家(今は作業場)があり、その横には温室のような建物がある。そこで茶葉を干しているのだろう。その横には随所に自ら手を入れたという揉捻機や釜もある。

少し上にある茶畑にも案内してもらった。Uさんは杖をついてはいたが、歩くスピードは私より速い。熊野の山がよく見える、元気な茶畑を目にして喜んでいるのはYさんとUさん。二人ともお茶作りを実際にしている人なので、話も具体的になり、皆が生き生きと話している。こういう交流は予想外だが楽しい。この二人、来年はここに手伝いに来るかという勢いだ。

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