モンゴル草原を行く2013(7)UB 日本語を勉強しても

8月21日(水)

5.ウランバートル2

ダルハンからナラハへ

朝、ダルハンを出発。郊外に出ると先日訪問した製鉄所を示す不思議なモニュメントが見える。何となくユーモラス。あの工場長さんを思い出す。それからひたすらUBに向かって進む。


 

途中休憩した場所には、何かが祭られていた。広い広い草原の中に、ポツンとある石。これは何を意味するのだろうか。昔は道路などなかったはずだから、何かの目印にもなっているように見える。羊が群れを成して過ぎ去っていく。ああ、モンゴル草原だ。

 

そしてUBに到着したが、大渋滞。ここでランチを食べるはずが、そのまま午後の訪問先であるナラハ区へ進む。あまりの渋滞に後続車を見失い、ガソリンスタンドで待つ。ナラハはUBの南約30㎞。UB市内を1時間以上かけて突き抜けるとまた草原だ。花が咲いている。可憐だ。腹が減った。4年前もナラハから戻るとき、昼飯がなかったことを突然思い出す。そろそろモンゴルに飽きてきたのかも知れない。

 

ナラハ区庁

ナラハの街は4年前と変わっていないように見えた。昔の炭鉱の街、ソ連崩壊後経済的に行き詰まり、現在再開発の計画のあるところ、という印象だったが、再開発はどうしたのだろうか。

 

区庁に入ると、少しも変っていない。再開発計画の模型もそのまま置かれている。大きな部屋に何人もの区の幹部がやってきた。最近の事情を聴くのになぜこんなに人が来るのだろうか。代表者が『区長はUBに行っており、今ナラハに向かっている。皆さんの質問に応えるべく、関係者を集めた』と。

 

女性幹部が区の労働事情を説明し始めた。既に公式の炭鉱は閉鎖されているが、未だに勝手に個人で掘っている人々がいる。危険なので取り締まりたいが、彼らに職がないので困っている。実はこの区は長い炭鉱の歴史もあり、モンゴルで障害者が一番多い。それでも炭鉱労働者の子孫は炭鉱を離れないが、それ以外の若者はUBへ行ってしまい、帰っては来ない。

 

現在区を市に変更するという計画がある。ただここには発電所がなく、電力問題があり、独立できないでいる。発電所建設は悲願だが、環境問題で財政問題がある。政府に支援が期待できるかどうか。

 

明らかに4年前の再開発計画とは異なっていた。以前は韓国系企業が開発を請け負うという話だったが。その計画について尋ねると、皆が一斉に話し出す。『今日は労働者問題の話ではなかったのか』『わざわざ夏休み中を参加したのに、なんでそんな話をするの』何だか様子がおかしい。そして代表者が唐突に『会議はこれで打ち切る』と宣言し、退場した。

 

聞く所に寄れば、韓国系企業は2009年3月の段階でほぼ撤退(夜逃げ同然?)しており、それはこの区にとって大きな打撃だった。昔の嫌な話を蒸し返されるのは気分が悪いし、中には責任を問われている人もいるのではないか、とのことであった。発展には様々な要素が絡んでくる。なかなか発展できない街、その一端を垣間見た。

中国料理屋

予定が中途半端に終わったので、また昼飯兼夕飯を食べに行く。UBに戻る途中、N教授は目ざとく中国料理屋を見つけていた。そこに入る。普通海外でも中国料理屋といえば、派手な感じの看板を掲げ、それらしい雰囲気を出すものだが、ここモンゴルには漢字の看板は存在しない。モンゴル人の対中感情に極度に配慮しているらしい。

 

建物の中へ入ると、実に立派なレストランで、漢字で『龍府』と書かれていた。メニューを見ると、中国国内にある内容とほぼ同じで本格的な中国料理屋さんだ。これなら中国語も通じるかと思い、ウエートレスに話しかけると、恥ずかしそうに手を振る。青島ビールを飲み、『乾鍋菜花』『爆炒腰花』『水煮肉』など、味も中国と同じで、美味しく頂いた。隣では中国人が数人で宴会、白酒をあおっている。

 

オーダーした物と違うものが出てきた。それも3回も。1つ目はあっさりと皿を下げたが、2つ目の間違いでは彼女は困ったように止まってしまった。我々はそのオーダー違いの皿を受け取った。彼女はとても喜ばしそうな顔をした。聞けばレストランで働き始めて1週間、中国料理など食べたこともなく、間違ってしまうこともあるらしい。だが何度も間違えると首になる恐れがあり、ビクビクしている。中国系レストランで働いてくれるモンゴル人は多くはないはずだから、それでもここで働くにはそれなりの理由があるのだろう。

 

そして本当に腹一杯になり、渋滞の市内を以前泊まっていたホテルに再びチェックインした。シャワーでも浴びようかと思ったが、全くお湯が出ない。フロントへ行くと何と『明日の午後8時までお湯は出ません』と言われる。それなりのホテルなのにどうしてと聞くと、『この付近一帯全て出ません。UBのお湯の供給は中央システムが担っており、冬に備えて夏の間にメンテナンスするんです』と答えられて驚く。

 

冬の寒いモンゴルでは統合暖房が敷かれているのだろう。それを使ってお湯を供給している、何とも社会主義国家のようだ。だがこの話をその後モンゴル人にすると『我が家は既に20日間お湯が出ていない』などと平気な顔で言われてしまう。我々のホテル、結局翌日はダメだったが、2日後の午前中には何の連絡もなく復旧していた。感謝せねば。

8月22日(木)

日本語だけでは金にならない

翌日はN教授の大学が以前より交流のあるモンゴルの大学へ行った。モンゴル人学生は海外留学に行く者が非常に多く、この大学でもロシア、中国など海外の60の大学と協定を結んで、留学生を送り出していた。日本でも数校と提携を始めていた。ただ震災後、それまで留学していたモンゴル人が国に戻ってしまうなど、少し後遺症があるようだった。

 

今回驚いたのは、海外の大学と折衝する担当者が、どう見ても日本人にしか見えないモンゴル女性だったこと。その日本語もほぼ完ぺきであり、化粧の仕方まで日本人だった。聞けば、日本に留学、その後日本の大学で働いていたらしい。15年ぶりに戻ってきたという。更に彼女は高校時代、内モンゴルに留学しており、中国語も普通の話せ、英語もできるらしい。このような有為な人材は祖国モンゴルの成長とともに帰国し、尽力し始めている。

 

この大学は教育者を養成する学校だったが、『教育はお金にならないので教師志望が減少している』という。政府も教員給与アップを図り対応している。日本語を勉強する人は多いのだが、その就職問題がある。『日本語を学ぶ人は全員教師になるしかない』との言葉は重い。現在多言語教育も行われ、また日本語学科以外の人が日本へ留学するなど、日本語オンリーからの脱却も図られている。


 

この大学で学ぶ学生が選ぶ外国語の1位は中国語、次の英語、ロシア語と続く。中国嫌いのモンゴルだが、経済的、就職に有利という意味では断然中国が選ばれている。学部長にお会いしたら、中国語の先生だった。『私が中国に留学した90年代、中国語はマイナー語学だった。私も仕方なく留学に行った』とのこと。

 

その日の夜のテレビで『日本の高専に留学生を1000人送る』と教育大臣が発言していて驚いた。この大臣も日本留学組であり、『日本の高専はレベルの高い技術が学べる』として、日本を技術者養成の場としたい意向だった。3月の安倍総理モンゴル単独訪問以降、日本との関係は非常にスムーズになっている。その後訪れた日本大使館でも『総理訪問後、モンゴル側の対日姿勢は非常に良くなっている』とのことだった。総理は一体何を話したのだろうか。興味深い所である。

日本留学経験者の本音

もうお昼近くなってしまったが、我々を待ってくれている人たちがいた。過去に日本に留学して、今はUBに戻ってきている元留学生たち。現在就活中の人、日本関係の仕事をしている人など。とても面白話を聞くことが出来た。

 

先ずは日本の印象。『とても安全』『時間の管理がしっかりしている』『日本人のチームワークは素晴らしい、モンゴル人は一人ずつしか行動できない』という肯定的な面も出たが、『留学するコストが高すぎる』『日本人学生の勉強の対する意識が低すぎる』と言った先生たちが頭を抱える問題点も指摘された。これを話した人は理科系で修士まで進んだが、『日本人学生のレベルはあまりに低くて競争相手がいなかった』と嘆いていた。

 

『モンゴルに戻ってから日本人と交流する機会がない』のでもっとモンゴルに日本人留学生を派遣してほしい、との要望もあった。確かにモンゴルを目指す留学生は多くはない。日本企業もあまり進出していない。日本人の視野がどんどん狭くなっていていることを指摘された。『我々は本当に日本に好印象を持っているし、モンゴル人は一般的に日本が好きなのでとても残念』とは本音であろう。

 

そして話は就職の方へ向かう。『日本語では就職できない』は前述の通りだが、特に理工系は『専門用語を全て日本語で学んでしまったので技術があっても欧米系の会社では役に立たない。モンゴル人の同僚とすら話が出来ない』といった何とも残念な話も出た。また『日本企業に就職しても直ぐには役職が上がらない。人口の少ないモンゴルなら海外留学生はもっと尊重されている』といい、『自分で起業するしか道はない』と日本での就職を諦めた話も披露された。

 

『将来は日本人とチームを組んでビジネスをやってみたい』という積極的な意見も出てきた。モンゴル人との積極性と日本人のチームワークをうまく融合して事業を成功させようという考えだ。『モンゴルは中国とロシアに挟まれている。日本との友好が非常に大切だ』と言った国の将来を対局から見る発言もあった。やはりそれ何の意識をもって留学すれば物の見方も大きく変わるのだろう。日本の学生にも期待したい。

 

 



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