ある日の埔里日記2018その3(6)改良場に残る資料と真の茶業

5月3日(木)
桃園へ

嵐のお茶合宿の疲れも癒えぬ中、何の因果かまたもお茶の歴史調査に出ていく私。今回は茶業改良場の本場、楊梅に出掛ける。いつものように台中高鐵でトミーと待ち合わせて北上する。毎回申し訳ないと思いながらも、今や彼の助けなしでは私の調べは前に進めないのだ。

 

実は改良場、魚池には何度も行っているが、楊梅に行くのは、何と7年ぶり2回目。7年前は黄正敏さんに徐英祥先生を紹介して頂き、徐先生に会いに台鉄で埔心駅まで行った。先生とはうまく連絡が取れておらず、黄さんが書いてくれた手書きの地図を頼りに先生の家を訪ねたことは、忘れられない。

 

客家様式の家を案内してもらい、更には足が悪いにも拘らず、車を運転して私を改良場に連れて行ってくれ、全ての案内をしてくれたのは徐先生の人柄だろう。そして『歴史を知るには魚池の試験場へ行きなさい』と言って、わざわざそちらへ電話を掛けて、手配までしてくれた(その時魚池で電話を受けたのが、今の黄正宗場長というご縁)。今の私の歴史調べがあるのは、徐先生のお陰であり、これから何度も伺って話を聞こうと決めていたのだが、何とその僅か3か月後に、先生はこの世から旅立たれた。まさに一期一会。

 

 

車は変化の殆どない改良場の敷地に入った。ここでトミーの知り合いの陳さんと落ち合い、まずはお茶を頂く。試験場なのだから、試験中の茶は沢山あるだろう。陳さんは博士であり、当然色々と詳しい。ただ忙しいだろうからと、すぐに話は切り上げて、我々は図書室に向かう。

 

今回の目的はずばり図書室の見学。見学というか、何か役立つ資料はないかと探しに来たわけだ。一般開放はしていないが、知り合いがいれば、入るのは特に問題はない。だが中に入って奥の方へ行くと、驚くことばかり。何と100年以上前の試験資料や報告書などの原本がそのまま置かれている。これを見ただけで、触れただけでももう歴史だろう。

 

そんな中で、今回締め切りを迎える緑茶に絞って資料を探す。見たい物は沢山あるが、そんなことをしていては日が暮れてしまうだろう。特に先日行った三叉河関連の資料は貴重であり、多少残っていた。台湾で緑茶が作られなかった理由を書き留めた貴重な文章も出てきた。何とも有り難い。

 

 

昼ごはんは車で街に出て麺を食べた。そしてまた図書室に戻ったが、やはり資料が多過ぎて手が付けられず、今回は必要なものをコピーして退散した。日本時代の試験場を引き継いだとはいえ、100年以上前の資料を、ちゃんと保管されている(失われたものも多いらしいが)のは凄い。紙がボロボロにならないのはなぜだろうか。

 

続いて龍潭へ向かう。車でそう遠くはない。福源茶業を訪ねる。ここは日本統治時代初期に茶業をはじめ、現在の黄さんは4代目だという。工場は思いの他広く、何でも作っているよ、と言う感じだった。目を惹いたのは、何と珠茶(ガンパウダー)を今も作っていたことだろう。光復後最初に輸出したのは北アフリカ向けのガンパウダーだったはずだ。今では島内で使用されているらしい。

 

 

2階に上がると、実に広い倉庫の空間。黄さんによれば、最盛期にはこの天井一杯茶葉が積み上げられ、トラックが横付けされると、2階の扉を開けてそこから茶葉の袋を落として輸送してというからすごい。従業員も不眠不休、捌いても捌いても注文がやってきて、本当に寝る暇がなかったらしい。ある意味でこれが真の『茶業』の姿ではなかろうか。『極上の茶』を作るのではなく、コスパの良い茶を大量に作り、大量に輸出する、消費者に提供するのが、仕事だと言っているように見えた。

 

因みに龍潭も客家系が多く、こちらも客家だった。客家のお茶として近年脚光を浴びている酸柑茶を購入する。私はこのようなお茶を飲むことはないが、これは6月に佐賀で行うセミナー用、世界でも珍しいお茶の一つにした。柚の皮に茶葉を詰めて作る、その形状の面白さと健康効果?が注目らしい。

 

続いて、大埔茶業に行く。大埔というのは別の場所らしいが、この茶屋はそこから引っ越してきたので、元の名前が付いているという。こちらも問屋と言う感じで、小売りがメインではない。ここも若者が跡継ぎとしており、三峡龍井茶を復元しようと試作品を作っていたのが面白い。三峡と言えば、今では碧螺春だが、光復後一時期は龍井茶が作られており、外省人が飲んでいたという。これもまた小さな歴史だ。

 

もう日も暮れた。急いで台中高鐵駅まで戻ってきたが1時間半以上かかった。夕飯を食べようというので駅にあるロイヤルホストに入る。この店に入るのも何十年ぶりだろうか。私が台北にいた1990年頃、知り合いが日本本社と掛け合い、始めた店だった。今ではどのくらい展開しているのだろうか。久しぶりにステーキを食べる。お代は茶スターがご馳走してくれた。有り難い。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です