ある日の埔里日記2017その3(1)休む間もなく雨の紅香へ

《ある日の埔里日記2017その3》

春茶を目指して台湾に戻って来た。だが茶畑への関心は少し薄れ、むしろその歴史に大いに惹かれていく自分がいた。ちょうど雑誌への連載が始まった。4月の中国2週間の旅などで体はボロボロだ。もう少しゆっくりとした生活をしてみよう、そのためにも埔里に籠り、歴史の勉強を強く意識し始めた。

 

4月23日(日)
台北からバスに乗れない?

最近台湾に行く時は成田から桃園が定番になっているが、今回は珍しく羽田から松山になった。それも午後便だからゆったりと空港に行けてよい。さすが日系航空会社だと乗客も日本人が多い。現在日本人の台湾観光ブーム。年間200万人もの人が台湾を訪れているらしい。

 

確かに他の国で日本人観光客を見かけることは少なくなっているが、台湾では特定の場所で多くの日本人に出会って驚くことがある。皆がガイドブックに沿って同じところに行き、同じようなものを食べているのはちょっと残念だが、それでも外へ出ないよりはずいぶんマシだと思う。自国に閉じこもって、作られたテレビ番組を見て世界が分かった気になるのは何とも恐ろしい。

 

フライトはスムーズで午後4時前には松山空港に着いた。ここのイミグレは桃園ほど混んでいないのですぐに荷物を取り、外へ出た。ルーティーンとなっている、両替とシムカードの購入が完了すれば、下におり、地下鉄に乗る。取り敢えず台北駅へ向かう。1度乗り換えるが30分程度で駅に着き、そのままバスターミナルを目指す。

 

今日は台北に泊まらず、埔里に行くことにしていた。確か5時のバスがあるはずであり、何とかそれには間に合うはずだった。昨年までと乗り場が異なり、大きなターミナル内に吸収されている。チケット売り場を探してちょっと迷うがそれでも時間内だ。だが窓口へ行くと無情にも『5時のバスは売り切れ』と言われてしまう。日曜日の夕方のせいかな。

 

何だか拍子抜けてしまい、6時以降のバスに乗る気が失せた。じゃあ、高鐵にしようと咄嗟に思い、荷物を引き摺って高鐵駅へ向かう。地下を通り切符売り場を探し当て、5時20分の列車を抑えた。ここの自販機、うっかり1000元札など入れてしまうと、お釣りは全て50元コインで返ってくるという洗礼を受けるので、慎重に小銭を探して投入する。

 

台中まではちょうど1時間。バスなら3時間以上乗っているので眠れるのだが、こちらは眠る時間もない。台中高鐵からバスに乗りまた1時間、8時前には宿泊先に着いていた。これならバスより早いのだ。但し料金はバスの方が半分以下。時間に余裕があればバスの方がよいが、今日のように満員だと乗れないリスクもある。

 

葉さんが待っていてくれ、鍵を受け取る。まだ1か月も経っていないのに何とも懐かしい。そこへ葉さんから『明日紅香へ行かないか』と誘いを受ける。実は今回なぜ急いで埔里に戻ったかというと、26日から急きょ中国へ行くため、25日の夜にはまた台北に戻らなければならないのだ。まずは埔里に荷物を置きに来ただけだった。

 

それでも紅香という場所は聞いたことはあったが、行ったことはなかったので、当日戻るという話を受け、行くことを決意した。ところが夜半は凄い雨が降っていた。朝6時出発と聞いたが、どう見ても茶摘みなどできる訳はないと思い、5時を過ぎても起きなかった。やはり疲れていたのだ。

 

4月24日(月)
雨の紅香へ

朝5時50分、スマホが鳴った。何と葉さんは下で待っているというではないか。まだ雨は止んではいない。慌てて服を着て、車に乗り込む。予報では雨は止むというのだが、そうは見えないほど強く降っている。朝ご飯のサンドイッチを買い込み、車は山道を行く。霧社、清境農場を越えていく。松崗あたりだろうか、車は急に横道を下り出す。雨が濁流のように道を流れていく。一体どこへ行くのだろうか。

 

1時間半ほど車に乗っていただろうか。茶畑が見え、茶工場が見えてきた。紅香には沢山の茶工場があるようだが、その内の一つに車は滑り込んでいく。何となく雨が弱くなっている。車を降りて驚いたのは、そこに雨合羽を被り、バイクに乗って来た多数の外国人労働者がいたからだ。何とその中にはご近所のベトナム人夫婦も含まれていた。

 

ベトナム人やインドネシア人は休む間もなく、茶畑に出て行き、茶摘みが始まった。私はここで茶を作っている張さんを紹介され、事務所で茶を飲み始める。更には裏に宿泊できる建物があり、そちらを見学する。いわゆる台湾の民宿、昨今流行りの自然の中で過すための施設のようだ。張さんはここ以外にもいくつかの有名な茶産地で時期になると茶作りをしているという。

 

1時間以上経つと、茶葉が運び込まれてきた。雨に濡れた茶場だが、即座に乾燥に回され、それから普段の工程に入る。と言っても萎凋が十分にできるのだろうか。『最近は天候不順だが、摘み手の確保が難しく、雨で摘むことは多い。それをどうやって製茶していくか、それも技術だよ』と説明される。

 

ベトナム人の摘み手、スピードは早いが、当然摘みは粗くなる。それもまた時間との闘い、彼らからすれば給与との闘いとなるのである程度仕方がない状況のようだ。それにしても自らのバイクで海抜1400mまで上がってきて、昼ごはんも持参。あまり休まず、ひたすら摘んで、終わればすぐに帰っていくたくましいベトナム人。これでかなりの稼ぎになるようだ。我々は奥で昼ご飯を頂く。

 

2時に茶摘みは終了。これから本格的な製茶が始まるのだが、葉さんも帰るというので、私も失礼した。今日のこの体験は、ある意味で現在の台湾茶業の状況をよく表していると思う。とてもよい勉強になった。

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