ある日の埔里日記2017その2(2)沙坑茶会

再び東邦紅茶へ

午後は2月の初めに訪問して驚いた東邦紅茶を再度訪ねた。今回の原稿の主役となる会社なので、疑問点を確認しに行く。当然既に茶作りは始まっており、忙しい時期なのだが、郭さんは快く応じてくれた。いや、むしろ前回は茶葉がなかったので、臨場感がなかったが、今回は話にも迫力が増し、勿論いい写真も撮れた。

 

2階に上がるとすでに茶葉が萎凋槽に入れられていた。いい感じで萎びている葉もある。紅茶作り、という感じがよく出ていた。あのナイロンの萎凋棚の出番がないのがとても残念だ。今回は紅玉とシャンの2種類の茶葉が摘まれていた。この工場には自らの茶畑から来る葉、そして他所の茶畑から来る葉があるようだ。ちょうど茶作りは始まったばかり、これから長丁場になりそうだ。

 

事務所で、作り立ての茶を頂きながら、確認事項を1つずつ整理していく。今朝の黄先生の質問には『おばさん(長女)はアメリカに嫁いで60年になるが、今も元気だ』という。あとで黄先生にお伝えしなければなるまい。この郭家は実にグローバルな家だ。お爺さんは日本で教育を受け、その娘2人はアメリカ暮らし。当然日本にも親戚はいるはずだが、連絡は取られていないようだ。

 

ここまで話を聞いていくと、やはりどうしても茶畑が見てみたくなる。来週なら連れて行ってあげる、と言われたので、あの80年前に少三氏がタイとビルマの国境で発見したシャン種の木を見に行く約束をして、工場を後にした。それにしてもこの会社、歴史が実に面白い。

 

一度部屋に戻って先ほどの内容を整理してから、夕飯に出た。そろそろ同じような物ばかりになってしまうので、目新しい物を探す。すると、香港式の文字が見えた。鴨と叉焼と鶏の3点セット、私の大好物だ。スープは自分でとり、80元でたらふく食べられた。これは良い所を見つけたと喜んだが、何とその3日後には閉店し、店舗は貸出物件になってしまった。

 

実は旧正月を過ぎて戻ってきてみると、他にも閉店した店がいくつかあった。あのお気に入りにメロンアンパンの店も、4月には閉店すると、既に告知されている。どうやら家賃更新が正月明けにあり、2-3年で店が変わっていくらしい。あまり儲からなければ、またしんどければ辞めてしまう、いかにも台湾らしいスピード感だ。

 

3月18日(土)
沙坑茶会

今朝は早起きした。今日は新竹で開催される沙坑茶会に出席することになっている。この会は黄正敏さんの弟の許正清さんが会長、そして主催者の会。台湾中からお茶関係者が集まってくるというので、そのお仲間に入れてもらった。場所は車でないといけないので、バスで高鉄台中駅まで行き、そこで湯さんに拾ってもらい、同行した。

 

6時半に埔里を出て、7時20分に高鉄駅に着く。湯さんもちょうどやってきて、うまく合流出来た。そこから高速道路を走り、土曜日のため新竹付近の渋滞もなく、何と9時前には会場である、許さんの茶工場に到着してしまった。この工場のことは、6年前に黄さんから聞いていたが、よもや訪れる機会があるとは思っていなかった。

 

既に会場の設営はされていたが、規模は予想をはるかに上回るものだった。70-80人が参加する。そして何より、日本的なコーナーが設けられており、静岡から3名の方がゲストで来ていた。もう一人ロンドン在住のインド人、紅茶商人も来ていた。驚くほど国際的な会だった。

 

10時の開始と共に、日本の手もみが披露される。こちらの茶葉(肉厚で硬い)を使っての手もみはかなり大変そうだった。台湾人、特に茶農家の皆さんは興味津々で次々にAさんの指導の下、手もみに挑戦していた。言葉は通じなくても、身振り手振りで伝わるものだ。それからAさんから手もみについて紹介のスピーチがあった。インド人からインド茶事情の解説もあった。日本語や英語での通訳も行われた。

 

何よりも、多くの茶業関係者、それも幅広い人々が集っているのに驚いた。顔見知りの茶農家もいた。有名な台北の茶商もいた。豊原のジョニーも家族で来ていた。まさにお茶ファミリー集結といった感じだ。なかでも今回初めて会った葉先生は、台湾茶の歴史をもう一度見直す活動をしており、大変参考になった。『文山包種茶も凍頂烏龍茶も巷で言われているのは本当の歴史だろうか』といい、その論拠となる文献を拾い集め、世に問うている。

 

勿論これまでの歴史を信じてきた人、特にその歴史で売って来た茶商や地元民からの反発はかなり強く、悩みも多いようだ。そして彼が取り出した1枚の文献、それは日本統治時代に日本語で書かれたものであるが、彼は日本語世代ではないため、それを完全に理解するには至らないという。『台湾茶の歴史を精査するには日本語が必要である』として、今後協力関係を築いていく予定となる。これは何とも喜ばしいことである。

 

昼ごはんの弁当を食べると、許さんのお父さんが挨拶した。96歳でまだ元気だ。その後数十種類も並んだ茶葉のテースティングが始まる。台湾の冬茶、日本茶、インド茶が並んでおり、専門家らしく、皆真剣に議論している。日本の茶席では女性二人がお茶を点て、振る舞っている。こんな幅の広いお茶会、日本にあるだろうか。もしあれば好評を博することは間違いない。最後に客家独特にデザートが出てお開きとなる。何とも収穫の多い一日だった。

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