タイ茶を訪ねる茶旅2015(2)バンコック シンハビールが作るお茶

シンハのお茶

この敷地内にはシンハビールグループの統合オフィスがある。その中に今回訪問するお茶専門の子会社も入っていたが、タイで長年大きなビールシェアを握るシンハの中で、その存在は決して大きなものではない。お茶事業は新参者、という感じのこじんまりしたオフィスに案内された。まあ日本で言えばサントリーがアルコール部門と共にお茶部門を有しているのだから、別におかしな話ではない。

 

Mさんの上司だという男性が入ってきたが、最近異動になったばかりで、茶部門のことには詳しくないらしい。更に若い男性がやって来て、流暢な英語で話し始めた。彼は親会社シンハの企画担当で、このお茶プロジェクトの企画を担っているらしい。10年前に茶部門を立ち上げ、子会社として設立したこと、チェンライに大規模な茶園を作り、台湾から茶樹を持ち込み、機械を買い、技術を入れて、烏龍茶作りを始めたことなど、一通りの説明がなされた。

 

当初は烏龍茶を台湾に輸出することを考えたが、その後台湾側の事情も変わり、輸出はほぼ無い状況。現在も烏龍茶は作っているが、主に欧米向けにバラなどのフレーバーをつけて輸出している。代わりにタイ国内の需要が少しずつ高まり、緑茶製造も始まった。そして昨年、静岡のお茶会社と合弁で、煎茶、抹茶製造にも着手した。今タイは抹茶ブーム。抹茶ラテなどの飲料の他、ケーキなどお菓子に抹茶パウダーを使う需要が急激に伸びているという。

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抹茶という名称は確かにそこかしこで使われている。バンコックのスターバックスに入っても、タイの若者はコーヒーなど飲まずに、抹茶ラテかグリーンティラテ(しかも甘いアイスティー)を飲んでいる。グリコのポッキーなどの菓子も、軒並み抹茶味を売り物にしている。いつからタイ人はそんなに抹茶が好きになったんだ、と聞きたくなるほどだ。そこに最近の日本旅行ブーム。日本食の認知度も上がり、本物の日本茶を飲む機会も増えているから、日本の会社の技術を使い、日本の煎茶を作ることにも意味があるのかもしれない。

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実際に試飲してみようということで、お茶が準備されたが、私に出されたのは、烏龍茶ではなく、その煎茶だった。企画担当者は『どうだ、これは日本の本物の煎茶と同じ味か?』と何度もしつこく聞いてくる。彼は製造担当ではないので、作られた商品の価値などを確認したいと思っており、日本人に飲ませて、その感想を聞くのが良いと判断したようだ。若いがその優秀さが感じられる。

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実際飲んでみると、おやっと思う。『うま味』というものはなく、『渋味』というものも少ない。一言で言えば、何となく味もそっけもないお茶だった。Mさんが『私の淹れ方がまずかったんだ』と言い、入れ直してくれたが、変わらなかった。これは水のせいではないか、とも思ったが、話を聞いていると、どうやら、タイ人の嗜好から生まれたものであるようだ。

 

一般的にタイ人は『うま味』がそれほど好きではない。以前タイの紅茶好きの女性に、高級玉露を飲ませたことがあったが、『これは飲めない』と拒否されたことが思い出される。茶わん蒸しなどは大好きだから、料理に混ざっているのはOKなはずなのだが、何とも不思議だ。

 

『渋味』については、英語で何というのだろうか、と悩んでいると、相手が『ビターか?』と聞いてきた。ビターは『苦味』であろうか、ちょっと違うな。どう説明すればよいか迷ってしまった。英語でお茶を説明する機会が最近無かったこともあり、すっかりさび付いてしまい、苦戦する。

 

結局のところ、日本煎茶の需要は、抹茶ほどは無いようで、また日本茶の世界で言われている、その特徴である『うま味』をタイ人はそれほど必要とはしていないということだ。ただ日本というブランド、健康志向という感覚、などから、グリーンティーではなく、煎茶というイメージも出てきているらしい。ただ担当者の力の入れようも、煎茶よりも明らかに抹茶であり、しかも飲むより食べる、であるところが面白いが、何となくちょっと悲しい。

 

2時間ほど話しを聞いて、外へ出る。企画担当者は颯爽と次の会議に向かっていった。シンハはタイの一流企業、その身のこなしはタイ人らしからぬものがあった。香港あたりでミーティングしていた感じだ。Mさんがタクシーを呼ぼうかと言ってくれたのを断り、歩いて帰ることにした。ただ敷地内は完全に撮影禁止であり、カメラでも取り出そうものなら、警備員が素早く目を光らせていた。そういえば、ミーティングの最後に記念写真を撮りたい、と申し出たが、それすら断られた。セキュリティーは相当に厳しいようだ。さすが一流!

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何とか本社を写真に収めたいと思いを巡らしたところ、この近くにフェリー乗り場があることに気づいた。この敷地の横はチャオプラヤ川だから、フェリーから写真を撮ることは可能だった。ただ近いと思っていた乗り場は歩いていくと意外と遠かった。本社入り口を出てぐるっと回ったのだが、それほどにこの本社敷地が広いこと、そしてシンハが大企業であることを思い知らされた。

 

 

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