埔里から茶旅する2016(15)天候に左右される茶作り

林さんのところで

茶工場に入ってみたが、ひっそりとしており、人影もなかった。茶葉が運び込まれる様子もなく、製茶機械が動くこともなかった。あれ、昨日は製茶していると言っていたのに、今日はどうしたんだろうか。事務所にも誰もいない。奥の方まで行くと林さんの奥さんがいて、声を掛けると林さんを呼んでくれ、眠そうな顔をした林さんが出てきた。朝方まで製茶作業をしていたらしい。これは悪いことをした。

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早速出来立ての茶を飲んでみた。いつもの年だと、この時期から東方美人の生産に入るようだが、今年は天候不順で、茶葉がままならない、という。飲んでみたお茶には香りがあったが、先年ほどのキレはなかった。林さんも大きく首を振る。疲れているように見えるのは、決して寝不足のせいだけではないことが見て取れる。茶農家とは本当に大変な仕事だと思う。自らの技術が必要だし、原料としての茶葉の善し悪し、天候、市況、どうしてこんな大変な仕事をしているのか、と尋ねたい気分だったが、林さんの顔を見ていると、聞いてはいけないような気分になる。

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ところで今日の製茶はどうなったのだろうか。実は今朝から茶摘みの予定で、摘み手の地元のおばさんたちにも依頼していたが、何と雨が降ったらしい。台北では雨はなかったと思うので、この辺の気候はかなり変化するのかもしれない。そういえば、その昔、このあたりでゴルフをする機会があったが、急に雨が降り、すぐに上がるということも記憶している。結局午前中の茶摘みは中止となり、午後様子を見て、摘むかどうか決めるらしい。それでも林さんは仮眠に入っていたようだ。天気に振り回される、これまた大変だ。

 

そこにお父さんが入ってきた。前回は最後の30分だけお話した。その時は『もう引退した。息子に任せた』と言っていたが、その後うわさを聞くと、このお父さんこそ、台湾の東方美人の作り手として有名な方だった。既に80歳を超えているが、非常に元気で、日本語も流ちょうに話す。今でも常連客のために、自らお茶を作っているらしい。台湾紅茶の歴史やこの地域の変遷など、大変楽しい話を聞く。日本の茶業の現状もよく把握されているが、『私にはよくわからないが』『私の考えでは』と必ず前振りをして話すのが、とても好ましい。

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お昼時になり、家族の食卓に自然に参加して、食べ始める。普段の食事は、ササッと食べてしまうらしい。それが農家と言うものだ。中には立って食べるのが習慣になっているところもあったが、ここでは皆が座っているだけよい。食べ終わったら、また事務所に戻り、ゆっくりとお茶を飲む。そこへ携帯が鳴る。茶摘みをするかどうかの最終判断を迫る電話だった。林さんは『Go』を出したようだ。これで茶葉が摘まれ、製茶も始まる。ということで、午後もここにいることになった。

 

ダラダラと話をしていると、お客さんが入ってきた。その男性は『近くで会議があったので寄った』という。確かに台北から車で来るのにはそれほどの時間はかからない。彼は日本にも何度も行っており、日本の茶畑にも行ってみたいという。そう、日本の茶畑、茶農家を訪ねたい、という希望は実かなり多い。台湾人や中国人だけではなく、欧米人もいる。茶業関係者は勿論、旅行者でも、日本の田舎を見たい、自然が見たいという向きに、茶園ツーリズムはとても良いと思うのだが。

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林さんはこれからの台湾茶業について、革新的な改革を進めようとしている人である。当然理解者を増やすことが必要であり、資金面も含めたサポーターも必要だ。そのような良き理解者が少しずつ増えているという。従来の台湾茶業の『高山で高品質の茶だけを作る』といった、偏った茶業では将来はない、と考えているようだ。それを改革するには日本の茶業機械を活用して、規模を大きくした農業を展開する必要があるという。さっき入ってきたお客さんも仕事は投資関係、良き理解者の一人らしい。

 

天気が急に悪くなる。茶園からも雨が降り出した、という悪い知らせが入ってきてしまった。雨に濡れた茶葉を使っても、残念ながら良い茶ができるとは思えない。かといって、ここで茶摘みを中断しても、製茶できる分量にも達していないので、摘んだ茶葉が無駄になってしまう。雨の中の作業は大変なのに、続けなければならない、という現実に、顔が曇ってしまう。結局夕方まで待ってみたが、ついに茶葉は届かず、今日製茶するかどうかも分らないので、帰ることにした。製茶作業などは全く見られなかったが、貴重な話は沢山聞けて良かった。

 

バス停まで車で送ってもらう。バスはいつ来るか分らない、と覚悟していたが、何とすぐにやってきて驚いた。来た道を帰るだけだから、緊張もなく寝入る。気が付くとすでに台北市内。地下鉄駅が見えたので、松山空港までは行かずに降りて、帰途に就く。台北もかなりの雨が降っていた。何となく腹が減ってしまい、駅近くの自助餐で早めの夕飯を取る。今や自助餐と言っても、おかずの種類が豊富で驚く。満腹で宿に帰り、シャワーを浴びて早々に寝る。

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