埔里から茶旅する2016(10)新総統就任式を見る

 午後の予定はキャンセル

そういえば午後会う予定のおじさんは山を下りてきただろうか。何も連絡がないので、電話を入れてみた。すると向こうから物凄い怒鳴り声が聞こえてくる。『百回も電話したのになぜ出ないんだ!』と怒っている。電話など受けた覚えはないとのだが、ふと思い出したのは、私のスマホはなぜか台湾のシムカードを入れると電話機能が使えなくなっており、先日彼に電話した時は緊急にYさんが台湾で借りた携帯を使ったことだった。ただYさんも『電話なんか鳴っていない』という。まあとにかく午後会おうと言うと、『お前が電話に出ないから、もう農場に戻るため山を登っている。遅すぎだ』と言われて唖然とした。

 

午後会おうと言ったじゃないか、と言ってみたが、『農場の温泉に入れてやろうと朝から待っていたのに』としか言わない。これはもうご縁がなかった、としか言いようがない。これ以上忙しい葉さんに迷惑を掛けないように、このことは黙って置き、美容室でお茶を飲み、そして良久の茶を分けてもらった。紹介者Mさんからは『必ず定価で買うように』との強い指示が出ていた。確かに茶葉が欲しいというと、彼は『記念に差し上げます』という。あんないいところまで案内してもらい、その上茶葉までもらっては申し訳ない。Mさんのメッセージを見せて、定価で購入した。葉さんとはそんな人だった。何とも有り難い。

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さて、電話の件だが、何とYさんの携帯はマナーモードになっており、確かに例のおじさん、通称松ちゃん、から百回は大げさにしても、10回は電話が掛かってきていた。これは何とも申し訳ないが、今さらどうしようもない。Yさんは空港でシムカードを買ったが、自分の機種に適合せず、代わりに携帯電話を貸してもらってきていた。ただその設定など何も見ていなかったのだ。そういえば、初日に台中駅で私が電話を掛けた時も出なかったわけだ。さすがYさん!

 

というわけで、午後が暇になる。Iさんが台北に帰るというので、バスターミナルまで見送る。ちょっと雨になる。その帰り道、Yさんはフラフラと歩き出す。私も埔里の街の位置関係の把握に努める。見ると、パパイアミルクを売っている。何だか懐かしくなり、飲んでみる。Yさんはメロンパンを見付けて、走り出す。香港あたりで流行っているという、中に冷たいバターが入っているものらしい。私は餡が入っているメロンパンを買った。

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宿に帰ろうと道を歩いていくと、向こうから凄い勢いで電動車いすに乗った人が私の脇を通り過ぎた。その直後、Yさんの悲鳴が聞こえた。車いすとぶつかったのかと、振り返ると、何と彼女の手からメロンパンが転げて、道路に落ちていた。袋にしっかり入ってはずのメロンパンがどうしてこうなるのかと聞くと、ちょうど食べようとしたところに車が突っ込んできた!と。まるで漫画の一場面のようで笑い転げてしまった。Yさんの楽しさは、こんなところに出ている。それにしても電動車いすには気を付けた方がよい。

 

夕方宿のオーナーWさんが、お客さんを連れて馴染みのお茶屋へ行くという。我々もついでに連れて行ってもらった。その店は雑然としており、小売りをやっているようには見えなかった。茶葉もばらばらに置かれており、おばさんもどれがどれやら、という感じ。私が気になったのは、このお店のオーナーも葉という姓だったこと。おばさんに聞いてみると、やはり『葉という姓は殆どが客家だよ』という、だが午前中に案内してくれた葉さんは客家には見えなかった。ただお兄さんは客家に見えるかな?

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夜はYさんがマッサージに行きたいというので、Wさんに教えてもらったマッサージ屋に向かう。近くに大きなホテルがあるせいか、店は満員で待たされる。テレビではちびまる子ちゃんをやっており、Yさんは『わー、まる子が中国語しゃべっている』と興味津々だった。アジアの色々なところへ行くが、多くの場所でちびまる子ちゃんは放映されている。お客がぞろぞろと帰り、我々が席を勧められる頃、店のオーナーはそっとテレビの番組を変えた。Yさんはちびまる子ちゃんが見たかったようだが、映像では蔡英文新総統の演説が映し出されていた。

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そうか、今日は総統就任式の日だったか。中国・台湾ウオッチャーと呼ばれる人々、台湾を愛する人々が日本から台北に集結しているのは知っていたが、私は完全にその外にいた。脚マッサージを頼み、目の見えない若い男子が揉み始めた。彼に何気なく『新総統をどう思うか?』と聞くと、彼は毅然として『彼女には何も期待していません。彼女はまだ何もしていません。私は台湾に貢献した人だけを支持する』と答えた。それは驚くほど、はっきりしており、かつ台湾人の心理を突いているように思えた。

 

大陸寄りだった国民党政権にノーを突き付けた台湾人。経済が低迷する中、中国大陸抜きの経済政策は考え難いと思われるが、それでも敢えて蔡新総統を選んだところに台湾人らしさを感じるものの、その前途は相当に多難である、と言わざるを得ない。その若者の横でベテランのマッサージ師が『前政権への失望が大きいんだ。だが我々が選んだのだから、責任は我々自身にある。そこが大陸とは違うんだ!』と静かに付け加えたのが印象的だった。

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