埔里から茶旅する2016(4)鹿谷 お茶事情

 ちょうど出来上がった茶の試飲も出来るようになっていた。標高の高いところではまだ茶葉が伸びてきていないようで、この付近の茶葉を使って製茶している。香りももう少し欲しい感じだが、きちんと焙煎を掛けて茶は、既に私の好みに出来上がっていた。茶は勿論茶葉そのものの善し悪しが一番だが、その後の加工技術を発揮することにより、十分に素晴らしい茶を作ることができる。今の台湾では、茶農家が自ら加工までを行い、直接消費者に売る動きが広がっているが、良い茶葉を作る人と、良い茶を仕上げる人が同じであるとは限らないし、その専門性の発揮、という点では分業の方がさらに良い茶ができるようにも思う。

 

昼ご飯もここで頂く。偉信は常に、鹿谷で一番うまいものを食わせてくれる。今日は筍シーズンということで、炊き込みご飯と鶏のスープ。わざわざ奥さんが買ってきてくれた。申し訳ないとは思いながらも、これがお茶と並んで楽しみなのだから、仕方がない。高級なものが一番うまいとは限らない。地元で採れた食材を、美味く調理して、その場で食べるのが、一番うまいのではないだろうか、といつも思う。食事が終わるとペットボトルが渡される。午後の活動の際に持っていくようにと言われたが、そこに入っている茶がまた濃厚で美味い。ペット茶もこうであればよいのだが。何とも有り難い店である。

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凍頂烏龍茶事情

午後はUさんが車を借りて我々3人を案内してくれた。まずは普通の民家へ行く、そこには女性が待っており、摘まれた茶葉が置かれていた。Uさんも何やら茶葉を持ってきていた。ここでお茶を飲むのかと思っていたが、実はここには人が住んでおらず、お茶を淹れる用意がなかった。そこで今晩我々が泊まる予定の教会に場所を移した。この教会、5年前に私が初めて来た時に、泊めてもらったところだ。懐かしい。入ってみると何だかきれいになっていた。以前は鍵もかからない、管理されているとは思えないところだったのだが、どうしたのだろうか。

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そこのリビングルームで、Uさんがその女性の茶畑で摘まれた茶葉を製茶したものを淹れてくれた。何より製茶には原料が重要だが、その女性は茶畑を管理するほどの余力がなくなったようで、茶畑は放置されようとしているらしい。Uさんはその茶葉が使えると判断して、女性から茶葉を譲り受け、自らの好みの茶を作ろうとしている。女性も茶葉がお金になるのであれば、茶畑を守っていくかもしれない。今の鹿谷の現状、凍頂烏龍茶の現状とは、大体そんなところかもしれない。この周囲の茶畑は少しずつなくなっている。

 

教会の斜向かいには農会がある。1階で茶葉やお菓子、茶器などを販売するコーナーがあり、見に行ってみる。私はこれから旅が長いので何も買わなかったが、結構お土産に良いものがあるようだった。このビルの2階には確か、鹿谷の茶の歴史が展示されていた、との記憶があり、みんなで上がってみる。ところが展示の内容は大きく変わっており、凍頂烏龍茶の元祖と言われている『1855年に林さんが科挙合格のお祝いに36本の茶の木を持ち帰り・・・』などの記述は全くなくなっていた。代わりに中国の宋代の茶碗など、中国人観光客向けにアピールするようなものばかりになっていた。

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しかし中国人だって、わざわざここまで来て、中国の歴史を見せられても面白いとは思われない。これは一体どうしたことだろうか。やはり鹿谷の茶の歴史は伝説であり、歴史的には否定されてしまったのだろうか。なぜ展示内容が変わったか、その理由は分らなかったが、昨年この地域の役場の長が交代したというから、そういう地域的な問題なのかもしれない。私も伝説的な茶の歴史、商売ありきの茶の歴史はどうかとは思うが、その代替が中国の歴史であるのは台湾にとってもどうなのか、大いに疑問が残る。

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そして車で凍頂山に向かう。途中に景色の良いところがあり、車を停めて、写真を撮る。目の前に池があり、その向こうには山が見える。Uさんが『ここから見える山々で摘まれる茶葉で作られるお茶が凍頂烏龍茶です』と説明してくれる。凍頂烏龍茶という名称だから、当然凍頂山で採れる茶葉を使ったものだと思うのだが、今や凍頂烏龍茶とは『烏龍茶の作り方の1つの型だ』という話もあり、その茶葉も至る所にあるらしい。ただ昨今のベトナムなど海外の茶葉を使って作った茶を凍頂烏龍茶と称して売っているのは、地元としても困るのだろう。そこで範囲を特定しているらしい。

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実際凍頂山に登ってみると、登る度に茶畑は減っている。以前は面倒な茶樹からトマトやキャベツなど野菜畑に転換するところが多かったが、今回行くと耕作放棄の茶畑もいくつも見られた。何とも寂しい光景がそこにあった。農家の高齢化は日本も台湾も状況は似たようなものだ。これから先が思いやられるが、事態が好転しそうな感じはない。そんな中で、よい製茶を行う中年男性もいるというので訪ねてみたが、残念ながら不在だった。

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