スリランカ紅茶の買付茶旅2016(5)スリランカ紅茶の新たな発見

2月9日(火) スリランカ紅茶の新たな発見

翌朝は早くに目覚める。鳥のさえずりが少しうるさい。取り敢えず起き上がると、お約束のお散歩へ。かなり涼しいのでジャンパーを羽織っていく。昨晩は暗くてよく見えなかったが、このロッジ、建物の壁は最近塗り替えられているようだが、シックでかなり良い雰囲気。広い庭には花が咲き、木も植わっている。そこから出ていくと、茶畑が広がっている。若葉がせめぎ合うように葉を上へ、横へと突き出していく。この若々しい雰囲気がお茶のシーズンであることを実感させる。周囲はいくつか、建設中や改修中の家があり、乾季であることを思わせる。更には下には大きな病院があるが、そこはまだ開業していないという。だが人はそこそこいて、散歩途中なのか、休息していた。

午前7時には朝食が始まる。まずはフルーツが出る。なんだかラマダンの時の新疆の食事を思い出す。急に胃袋に食物を入れると体に悪いという配慮からだと聞いたが、ここにもそんな習わしがあるのだろうか。そしてオムレツとソーセージ、パンをふんだんに食べる。これまで食べられなかった分、今朝はいつにも増して軽快に食べていく。体が楽になったことで活力が大きく増してきていた。自分でも驚く。紅茶もディンブラのお茶だと思われたので、試飲ではできないミルクティを作って飲んでみる。少し濃い目の渋みにミルクが調和していた。

8時過ぎにロッジを出て、わずか10分後に今日最初の訪問地、ストックホルムに到着した。アップコートバレーという地名にあったが、なぜストックホルムというのだろうか。スエーデンと何かゆかりでもあるのかも?今日は昨日よりは日程がゆっくりしているので、テースティングの準備がまだ整っておらず、私にはちょうどよい茶工場見学の機会が与えられた。何しろ昨日は殆ど試飲の連続で、ゆっくり工場を見る機会もなかった。ただ現在スリランカでは原則として茶工場内の写真撮影は禁止されているとの話もあったので、何となく外から眺めたのだが、Yさんが『茶葉を繰るあの工程は手作業だね』などと解説を入れてくれる。基本的に自動化が進んでいる紅茶製造だが、一部作業が人間によるものになっている。

その間に着々と準備は進んでいったが、実際の試飲はあっという間に終わってしまう。本当に呆気ない。プロというものは一瞬で善し悪しの区別がついてしまうものなのだ。これには日頃の経験がものをいう。中国茶・台湾茶の世界ほど、茶の種類にバリエーションがないことも、関係しているかもしれない。しかもクマさんのようにスリランカ紅茶だけを扱っている、というのはある意味でとても強い。専門性は重要な要素になっている。ここではBOPが美味しく感じられた。そしてもう1つ、ダスト1に一票を投じてみた。ダストというと『カス』というイメージがあり、美味しくない茶葉、低級な茶葉だと思い込んでいたが、このダストにも分類があり、今回飲んだダスト1は、これまでにない、渋みと微かな甘み?を感じた。中国などでも例えば白茶では白牡丹は寿眉より高級だと言われているが、美味しい寿眉もたくさんあることを経験から知っていた。それに近い感覚があった。消費者も名前だけに騙されず、思い込みだけで買わずに、キチンと試飲して選ぶようにすれば、経験値が上がっていくように思う。

ストックホルムを出ると茶畑が広がっていた。今日も天気が良く絶好の茶摘み日和だった。基本的に茶作りは天気が勝負だった。明日以降は雨が降る可能性があると言われており、『今回の日程はベストのタイミングだった』とクマさんが胸をなで下ろしながら、言っていた。日本の紅茶関係者でもこの後買付に来る人々がいるようだったが、『一度雨が降ったら、良い茶ができるまで2-3週間待つべき』だそうで、実際に2月中旬の予定を3月はじめてに変更した茶商もいたようだ。本当にお茶のビジネスは難しい、とつくづく思う。工業製品なら機械の良さや自社の品質管理などで補える部分も多いが、お茶のように農業と工業の組み合わせでできる物は、自然の摂理と人間の柔軟性に、その品質が委ねられており、一筋縄ではいかないものだ。

次の訪問先、グランビラもすぐ近くにあった。今日はディンブラだけの訪問であり、何となく楽な感じで来た。買付は引き続き、緊張の中で行われていたが、私とYさんは少し開放感に包まれ始め、自由に外を歩きだす。そして必要な時はマネージャーなどに質問する形式になっていった。ここでは実際に工場長が親切にも工場内を案内してくれた。基本的に紅茶工場に特に変わったところはなく、どこでも皆、同じ機械で同じ工程なのだが、一つだけYさんが気になるところを発見した。

それは選別機で茶葉を選別している中、さらに脇から何かが出てきて、籠に入っていく。これは一体なんだろうか?と聞くと一瞬戸惑った工場長だったが『これはオフグレードです』という。そんなお茶あるのか?よく見ると、何というか、確かに屑のようなものが横から出てくる。オフグレードとは文字通り、グレードが付かない、という意味だろう。ではなぜここで籠に入れているのか。単なるゴミ集めなのか?その辺をYさんがどんどん突っ込んでいくと、ついに耐え切れなくなった工場長が『これはこれで売れるんです!』と。『どこに??』、え『ヨーロッパの有名な紅茶屋さんとか??』。実はこのお茶、ティバッグなどに混ぜる物らしい。単に量をかさ上げするのではなく、これを入れると風味が増す、というからお茶は本当にわからない。いわば隠し味をこんなところ見付けてしまった訳だ。紅茶関係者の方々はご存じなのだろうが、私にはちょっと刺激的だった。

一度気になるとどうも気になるのがダストというお茶。ここでもダスト1に注意力を特に払って飲んでみる。なんかふくよかな香りを感じてしまい、テースティングした茶葉の中で、これが一番うまい、と思わず叫んでしまった。ダストとかオフグレードとか、何だか分らない蔑称?が付いたものをもう一度見直そうと思う。それがそこで生き抜いてきた理由、事情はとても面白い話なのかもしれない。人間は最高のものを求める傾向があるが、それだけでつまらない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です