丸子清水茶旅2015(4)清水 驚くべき蘭字

4.清水

フェルケール博物館

Y先生が『今日はフェルケール博物館で蘭字のシンポジウムがあり、それに出席する』というではないか。私も蘭字には少なからず興味があったので、それはちょうどよい。是非、ということでご一緒して、夫人の車で送られていった。静岡を越えて清水までは小1時間はかかった。港の近くにとても立派な博物館があり、海が見えた。夫人に礼を言い、別れる。

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博物館に入ると、奥の会議室でシンポジウムの準備が進んでいた。聞いてみると本日は満員で既に参加申し込みは締め切られていた。それはそれで仕方がない、流れに任せよう。ということで、2階の蘭字の展示を見学した。蘭字というのは中国から伝わった業界用語で、輸出茶に貼られたラベルの総称だという。確かに茶箱の外側に張られているラベルは、文字が西洋風で、絵は浮世絵だったりする。独特の文字で日本から来たお茶を表わしており、美術的にも価値がありそうに見える。

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茶箱に張られるラベル以外にも、茶箱内に入れられたサンプル茶を入れる茶袋に張られた小型ラベルもあった。茶箱の内側に描かれているものもある。『Pure』と書かれているものは、着香していませんという表示か。『Panfired』は釜炒り茶か。何だか見ているだけでワクワクしてくる。広重が書いた浮世絵も使われている。実にいいデザインに見え、今でも十分使えると思う。

 

実はこの博物館は大手物流会社、鈴与の社会貢献事業の一環として作られた。清水港の歴史を語る場所であり、本当は清水港湾博物館というらしい。ただ愛称としてドイツ語で『交通』を表わす「フェルケール」という名称を使っているとあった。ここに蘭字を常設してもらいたい。

 

そしてその裏にはひっそりと缶詰記念館が建っている。日本で初めてまぐろ油漬缶詰を製造し、アメリカに輸出した清水食品の創立当時の本社社屋を市内築地町から移転したものだという。ここから缶詰事業はスタートし、日本の輸出産業に大いなる貢献をしたことだろう。缶詰のラベルにも、蘭字が使われている。とてもお洒落な缶だ。子供の頃見た、ミカンの缶詰が急に思い出される。

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蘭字シンポジウム

展示を見学していると、以前お会いした茶史研究家のYさんが着物姿でやってきた。何とシンポジウムにキャンセルが出て、急に席が出来たので、参加してもよいという知らせを持ってきてくれたのだ。何とも嬉しい。既にこの展示品を見て、おおいに興味を持った私はお言葉に甘えて、Y先生の後ろを付いていくことにした。

 

シンポジウムは、江戸文化研究者の司会で、浮世絵研究者、蘭字研究者、そして印刷会社の方の3名よりは話を聞くというものだったが、大いに刺激があった。江戸末期から明治にかけての日本茶輸出に合わせて、作られたラベル。例えば2代目安藤広重(広重の養女お辰の婿)がお辰と離別、1865年以後横浜に移り住んで喜斎立祥と号し(広重は名乗れず)、蘭字を描き、「茶箱広重」と呼ばれ、特に外国人からは重宝がられた話など、実に面白い。実際に2階にも2代広重の作品が展示されている。

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また『蘭字は日本デザイン史の常識を揺るがす物』『蘭字は近代グラフィックデザインのはしり』『デザイン性の高い蘭字はパッケージに魅力的な付加価値をつけた』などという説明を聞くと、単に茶業のアイテムというだけでなく、江戸期から蓄積された日本の技術が表現されている、貴重な作品であることが分かった。実際に浮世絵の版画を見せてもらうと、その薄さに驚く。因みに浮世絵には原画というものはなく、版木が擦り切れるまで摺っておしまいだとか。ある意味、オリジナルは版木である。

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シンポジウムは白熱し、時間はあっと言う間に過ぎて行った。参加者からは『とても有意義な情報を得た』とか『海外に日本茶を売っていくには、宣伝、デザインの重要性が良く分かった』といった感想が聞かれた。100年以上前の先人達の努力をヒシヒシと感じる会であった。

 

清水散策

会の終了後、清水駅へ向かう。博物館からは普通はバスに乗っていくようだが、折角なのでゆっくり散歩しながら行く。何とも天気の良い清水港が目の前にあった。隣には大きなドリプラと呼ばれる建物がある。この中には色々なお土産物屋やグルメ店が入っており、観光客には便利なようだが、実際に来ているのは地元の家族連れかな。クルーズ船も出ている。

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ここから15分ぐらい真っ直ぐ歩いていくと、静岡鉄道の新清水駅に出た。ここから静岡駅に戻り、バスに乗る方法もあったが、敢えてJRを選択した。そして清水駅近くの商店街に出た。土曜日の午後ではあったが、人影はまばらで寂しい。駅前でお土産に安倍川餅を買う。今日は安倍川駅からスタートしたから、ちょうどよい。

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清水といえば、清水の次郎長。『旅行けば、駿河国に茶の香り・・』で始まる浪曲を思い出す。広沢虎造、この名人の声を何度聞いたことか。ただ今の清水には、この雰囲気はまるでない。今回は東海道五十三次の宿場町をいくつか見たが、これからは、少しその辺を歩いてみたいと思いながら、在来線に揺られながら、帰途に着く。

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