そこから喫茶店へ行った。ここも9年前に来た記憶がある。龍神茶の歴史が分かる方にお引き合わせいただき、聞いてみたが、やはり龍神茶については分からないことばかりらしい。我々は中国の晒青緑茶との関連を調べているのだが、どうやらこの茶はその昔から伝統的に作られているようで、渡来の茶かどうかは判別しがたい。和歌山には徐福伝説などもあり、何となく渡来だといいな、と思っていた自分がいた。
Mさんの家を通り掛かると天誅倉という文字が見えた。幕末の天誅組との関連が想起される。ここでMさん作成の龍神茶を頂いた。実は9年前はお金を出せばどこかで買えた龍神茶、今では自家用以外殆どないらしく、道の駅でも売っていないそうだ。そういえば9年前に訪ねた茶農家さんもお父さんが亡くなり、今では高齢の奥さんが細々続けていると聞く。
最後にOさんのお店へ行く。すでに閉鎖されている中、豆腐作りの機械などを見せてもらう。話を聞いていると龍神の豆腐の歴史と茶の歴史、重なることが実に多く、その深い意味が少しずつ解けていく。こちらで作られた豆腐を食べさせてもらったが、何とも言えない深みがある。これはOさんの努力の結晶だろうか。
バスを降りた宿まで送ってもらう。部屋に入ると昨日とは別世界。広い部屋に快適な空間。勿論防音もある。すぐに夕飯会場へ行くと、そこには料理がふんだんに盛られており、ビュッフェ形式でいくらでも食べられる。如何にも修行が足りないな、と思いながらも、鮎やローストビーフなどを美味しく頂く。昨日は外国人だらけの中、今日は外国人が一人もいない中、ご飯を食べる不思議な感覚。
その後ゆったりと休んでから大浴場で湯を浴びる。ずっと居たいような感覚に捕らわれるほどいい湯だった。『日本三大美人の湯』は私には関係ないが、なめらかないい湯は何とも有難い。宿坊は修行の場であり、修行のためにお金を払ったが、今日は自分の楽しみのために払った感じ。9年前は龍神温泉別館に素泊まりしたのだが、こちらの宿の方が良い。今晩は昨日眠れなかった分を取り戻すほど熟睡した。
6月15日(土)熊野本宮へ
翌朝も快適に目覚めた。まずは温泉に入る。誰もいな朝風呂は実に心地よい。朝ご飯もビュッフェ。何と茶粥があったので食べてみたが、これは龍神茶ではなく、ほうじ茶を使っていた。この宿でも以前は地元民が持ち込んだ龍神茶を売っていたが、今は持ち込みが殆どなく、龍神茶で茶粥を焚くことも出来ないという。
Oさんが迎えに来てくれ、龍神村とお別れ。今日は熊野本宮を目指す。Oさんが知り合いの茶農家に連れて行ってくれた。実は彼は引っ越し間際でとても忙しい上に、何と隣人が亡くなり、その葬儀の手配などもしていたようで、大変申し訳なかった。1時間ほどで茶畑に到着。
実はここの茶畑には3年前も来ている。当時88歳だったUさんを訪ね、釜炒り番茶を見せて頂いていた。その際『最近若者が隣の茶畑を継いだ』という話が出ていたのだが、それが今日紹介されたなっちゃんだった。まだ20歳代、きゃしゃな雰囲気だが、芯は強そうだ。おじいさんとおばあさんの茶業を引き継ぎ、天日干し釜炒り茶や煎茶、紅茶作りにもチャレンジしている。好奇心が旺盛で、勉強に励んでいるともいう。Oさんなど支援したいと思っている人々が多い。外国人のアシスタントもいる。
茶畑の中でお茶を入れて貰い、ゴクンと飲んだ。決して豪華ではないが、何やら風景が絵になり、お茶も美味しい。もう顧みられなくって久しい天日干し釜炒り茶。龍神村では消えていくしかないが、なっちゃんに継承して残して欲しいとは思う。ただ実収が伴うかどうかだろうな。