茶旅 静岡を歩く2022(6)藤かおり、そして島田で

食後また急坂を降りていき、駅まで戻った。Tさんが車で迎えに来てくれた。牧之原の茶農家であるTさんとはほんの2週間前に、東京の朝市で知り合い、ご縁で今回の訪問となった。きっかけは『藤かおり』であり、『森薗市二氏』であった。私が台湾の関係で昨年雑誌に書いた森薗さんの話しを読んでいてくれた。そしてTさんのお父さんが藤かおりの育成者である森薗さんと親しく、藤かおりを直接分けてもらったというのが興味深かった。

Tさんの茶工場兼自宅は、県試験場のすぐ近くにあった。ご自宅でお父さんも交えてお話を聞く。お父さんは森薗さんにとても可愛がられており、茶作りを教えられ、毎朝晩試験場に出退勤する森薗さんに声を掛けられていたらしい。晩年はよく藤枝の自宅に遊びにも行ったという。

森薗さんがなぜ宮崎の試験場から静岡へ転勤となったのか。それが何となくわかる資料にも出くわした。やはり話を聞かないと真実は分からない。庭には森薗さんにもらったという木が植えられており、茶工場にはなぜか数年前、高林式釜炒り機がやってきたといい、茶畑には藤かおりが今も育っている。帰りに茶業研究センターに寄ってもらい、森薗さんを思いながら、入り口だけを見た。それから金谷駅に送ってもらった。

再び菊川駅で降りた。午前中報恩寺のお母さんから聞き、また先ほどTさん宅でも聞いたカフェが気になっていたからだ。駅からすぐのところにSan Gramsという名のカフェを見つけた。広い敷地にモダンな平屋。元々松下幸作が製茶機械を作った松下工場の跡地だという。1899年に生産が始まり高林式製茶機械が作られ、高林謙三自身もここに住み、終焉の地となった。あまりにおしゃれなカフェで入るのは遠慮した。

3月18日(金)島田で

今朝は天気が悪い。雨の予報も出ているため、雨のないうちに外での活動を終えることにした。3日間お世話になった掛川を離れ、島田へ向かう。駅のコインロッカーに荷物を入れて、大井川を目指して歩き出す。途中で予想より早く小雨が降り始める。

40分ぐらい歩いて川まで辿り着いたが、なんと木造の橋が架かっていた。『世界一長い木造歩道橋』でギネス認定されたという蓬莱橋を渡る!渡るのに100円取られる賃取橋!長さ約900m、それほど高さもなく、川に水も少ないのだが、風に煽られると傘が飛ばされそうで怖い。1879年牧之原台地の茶園開墾のため架けられた農業用橋というから、単なる観光橋ではない。

橋を渡ると神社などがあり、山に分け入る雰囲気となる。台地を登り切ると、茶畑が見えてくる!茶畑の間を更に上ると、高台に大きな像が見える。中条景昭、幕臣で牧之原開拓に尽力し、多大な貢献をしたとある。先日の丸尾文六より早く入植し、相当な困難を乗り越えて、今日の牧之原を築いた人物だった。像はその貢献の大きさに比例しているのだろうか。1896年彼がここに没した時、葬儀委員長は勝海舟だったという。

近くの法林寺に立ち寄る。ここには幕臣伊左新次郎岑満の墓と書碑がある。伊佐は晩年牧之原に移住して中條景昭を支えた人物。私塾を開き、後進の指導に当たった。実は幕末の三舟(高橋泥舟、勝海舟、山岡鉄舟)の書の師であり、下田奉行所組頭時代、アメリカ初代領事ハリスに「唐人お吉」を紹介したとも言われている。境内にはお吉の像が置かれていたが、この話は本当だろうか。

雨はこれから強く降るだろうと予想して、急いで島田駅へ戻る。木造橋を避け、トラックが通る頑丈な方にしたが、渡っている途中、強風と雨に襲われ、傘もさせず、ずぶ濡れとなる。昨日まで天気が良かっただけに最後に旅の洗礼を受けた。それでも駅まで戻る間にまた雨は止み、何とか図書館に辿り着く。

このきれいな図書館で牧之原関連の資料を探していると、予想以上に色々なものが出てきて、コピーを取り終わるまでに相当の時間が経過した。ここの係員は非常に丁寧で好感が持てた。今回の静岡でもいくつかの図書館のお世話になったが、これほどサービスに差がある県は珍しいのではないか。

図書館から駅まではすぐだった。おまけに雨も止んでいた。駅でコインロッカーから荷物を取り出し帰路に就いた。帰りもJR在来線でゆっくりと過ごした。熱海で乗り換える際、時間があったので、Suicaを一度切り替えようとしたが、改札から出られず、駅員に『小田原で精算してください』と言われる。小田原での精算はスムーズで嫌な感じはなかったので、今後は到着地精算に切り替えよう。

今回静岡の茶歴史関連の場所を多く訪ね、やはり静岡、歴史が多くて深いと感じた。だが思いの外、その歴史が大切にされておらず、意外と知られていないとも感じる。自分が静岡に住んでいればな、と思う一方で、県外の人間が余計なことをするべきではないとも感じる。日本一の茶処は難しい。

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