九州北部茶旅2020(4)大浦お慶と吉宗の茶わん蒸し

ちょっと疲れてしまったが、まだ午前も早いので、大浦お慶ゆかりの場所へも行こうと思い、三菱通りからバスに乗った。長崎はバス路線がかなりあり、簡単に橋を渡って大波止を超えて行く。昨日も歩いた油屋町付近でバスを降りる。大浦お慶はここで油問屋を継いだが、幕末に茶の海外輸出で儲けたという話になっている。

その屋敷跡は、今は広い駐車場になっているが、何となく往時の大きな商売の様子が見え、茶工場が目の前に出現しそうであった。お慶については、正直分からないことも多く、坂本龍馬など、志士たちを支援した話も、内容が機密事項だったからか、資料はあまり残っていないという。それでも最近直木賞作家、朝井まかての小説『グッドバイ』の主人公として取り上げられ、その知名度はかなり上がっていた(図書館で借りて読もうとしたが1か月以上待たされる人気)。同時にお慶は明治初期に詐欺事件に引っ掛かり、大損して失意の晩年を送ったとの定説も、最近の研究で覆されており、益々興味がわく。

折角なのでお慶の墓を探した。言われた方に歩いていくと、八坂神社があり、その横に清水寺もある。名前だけはまるで京都だ。その清水寺に墓があると思い、一生懸命階段を上っていたが、残念ながら墓は寺の横の急な階段をかなり上った上にあり、本当に疲れ果てた。港がよく見える、眺めがよい場所にお慶一族の墓が並んでいた。ここに来て何となくお慶の存在が確認できた気になる。

更にちょっと足を延ばして、西洋式砲術で幕末に活躍した高島秋帆旧宅を訪ねてみた。石垣があり、敷地の広い立派な屋敷があったと思われるが、今は蔵などを残して、建物はなかった。高島といえば、幕府に国防を説き、今の東京高島平で様式砲術の演習をした人物。そしてお台場を築いた江川太郎左衛門などの弟子を育てたが、その後妬まれて?逮捕され、お家も断絶したという。この屋敷もその時に荒れたのだろうか。

長崎の街は歩いていれば、歴史上の人物や出来事、その足跡などがゴロゴロしていて、何とも楽しい。ふらふら行くと、また花街丸山に出た。今でも老舗の料亭はあるが、幕末の志士たちはもういない。横町を入ると、梅園身代わり天満宮などがある。ここはなかにし礼(2020年12月逝去)が書いた『長崎ぶらぶら節』の舞台だったらしい。丸山公園には真新しい坂本龍馬像が立っているが、龍馬は長崎にどれほどいたのだろうか。司馬遼太郎の竜馬はどこまでが史実なのだろうか。

昼になったので、長崎ちゃんぽんで有名だと聞いた店を探したが、月曜日で休みだった。仕方なく少し歩くと、あの懐かしい吉宗があるではないか。ここには約30年前、茶わん蒸しを食べるだけのために、わざわざ香港から家族3人で来たことがあった。木造の建物があり、下足番がいるなど昔と変わらないが、店内はかなりきれいになっている。

一人で食べるにはよいというので茶碗蒸しと蒸し寿司のセットを頼んだ。大きなどんぶりに入った茶碗蒸しの味は昔のままだったが、お客は多くはなかった。そういえば昔馴染みの銀座の店は今閉まっているらしい。まずは長崎で吉宗の茶碗蒸しが食べられただけでも良しとしなければなるまい。

腹が膨れたので、ふらふら散歩する。川沿いに出た。中島川という。あの眼鏡橋もこの川に架かっていた。その先をずっと歩くと、長崎市立図書館を見つけたので入って資料を探した。リンガー家に関するものなど気になる本を数冊見つけて収穫あり。更に昨日通りかかった長崎歴史文化博物館にも立ち寄る。ここは規模が大きく、展示品も多いので参考になる。長崎の始まり、江戸時代、そして近代の歴史などがかなり詳しく説明されており長崎史のおさらいをするにはよい。

ただここにある資料を見せてもらいたいと事務室を訪ねると『コロナ禍で2日前までの事前申し込み(ネット予約)がないと受け付けられない』とあっさり断られてしまった。県外から長崎まで来て現地を見てから色々と知りたいことが出てくると思うのだが、コロナはそんな向学心?を阻んでいた。東京から来たことも歓迎されていないようだった。

今日はこの辺で終わりにして帰ろうと思ったが、比較的近いところに西坂公園があり、日本二十六聖人殉教地があったので寄ってみた。1597年キリシタン禁令により、京都などで捕らえられた宣教師以下26人がこの地で処刑されたという。現在は二十六聖人の等身大ブロンズ像嵌込(はめこみ)記念碑と記念館が建っている。26人の中には子供もおり、そのブロンズ像には何とも言葉が出ない。

何となくこの地を見てしまうと、原爆資料館の方に足が向く。坂を上り下り30分も歩いて浦上方面へ行く。長崎歴史民俗資料館まで何とか辿り着いたが、何と今日は休館日で見学できなかった。それまでの疲れがどっと出て、もう歩く気力もなく、路面電車で宿へ引き返した。

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