先生と行く高知茶旅2017(3)山の古民家で飲むりぐり茶

11月26日(日)
いのの街へ

翌朝も早めに起きた。先生は当然起きておられ、またお話しを聞いた。今日はIさんも話に加わった。Iさんは恩施玉露について、現地にも行き、強い関心を持っていた。先生は20年以上前にそこを訪問していたが、その時は地元では恩施玉露はここが発祥だと言っていたという。だが最近先方の対応が変わってきたとか。

 

Iさんは中国北京の出身で、好奇心が非常に強い。ちょうど私が上海に留学した1986年に日本にやってきたというから改革開放後世代だ。この時期に日本に留学に来た中国人は総じて学力レベルも高く、また家柄の良い人が多い。Iさんはその後日本で結婚し、今は日本人となっている。

 

昨日同様ふれあいの里で朝ご飯を頂き、Kさんが迎えに来てくれた。先生は既に今回の調査目的を達し、午前中の列車で帰られることになっていた。JRいの駅まで先生を送り方々、我々も街に向かった。まずは清流として有名になっているという、仁淀川、その最下流にある沈下橋を見学した。この付近は台風などで大水が出ることがあり、橋に欄干があると流されるので、初めから設置しないと聞き、昨日見た山同様、自然災害の激しさを思う。

 

それからいの町の紙の博物館に送ってもらい、先生とはここでお別れした。先生とKさんは車でいの駅へ走っていった。雨が軽く降っている。博物館の中に入り、入場料を払うと、案内の人がついてくれ、ゆっくり見学を始めた。世界の紙の歴史から、紙漉きの実演まで、紙に関する様々な内容が詰め込まれており、興味深かった。特に紙を作る過程で原料を蒸す大きな木製の道具が、何となく阿波番茶の製造過程で出てくるものと似ており、ちょっと反応してしまった。

 

 

その後、車で古民家に行く。ギャラリーぼたにか、というギャラリー?があった。この倉は明治初期の建造物らしい。中に入ると、何となく骨董屋さんを思わせる古い物が置かれていた。古書もある。オーナーの女性は実に穏やかで、平家の落人です、と言われ、そうだなと思える人だった。商売をしているのか、展示を見せているのか、と思ってしまうような作りだったが、何とも楽しい空間だった。

 

昨日とは違う山の茶畑も見た。今日は天気が悪かったが、何とか雨は免れた。清流が流れる脇に、昨日同様の急斜面があり、茶樹がぽつぽつ植わっている感じだった。こうなると生産効率は良くなさそうだが、有機栽培というに相応しい雰囲気があった。茶はどのように作られるのだろうか。

 

昼ごはんは道の駅でうどんを食べた。お客さんが沢山いて、驚いた。周囲にあまり食べる所がないのかもしれない。そして、また山を登っていく。かなり上ったところに瀟洒な古民家があった。Kさんがお客さんにお茶を振る舞う場所らしい。中に入ると、何とも言えない古い台所があり、竈などもある。柱がしっかりしている。

 

Kさんは囲炉裏に薪をくべ、火を漉し始めた。人間はゆっくりと火を眺めるのがよい。インドでもそう教わった。一杯のお茶を飲むためには、様々な労力を惜しまない。そして丁寧に淹れられたKさんのお茶、りぐり茶を味わう。既に茶畑を見ているので、それを頭に浮かべながら飲む。

 

山茶を原料にして、それを釜入りで仕上げる。何となく中国の山の中の、勢いのある緑茶を思い出す。それでいて柔らかさもある。有機無農薬、あの畑ならそうだろう。『りぐり』とは土佐弁で『こだわる』という意味だと聞く。日本にもこんなお茶があるのかと、正直びっくりしてしまう。台湾のお茶好きに連絡したら、『ぜひ買ってきてくれ』と即答だった。その希少性に惹かれたのだろう。

 

それにしてもこの民家で、畳に座ってダラダラとお茶を飲むのは何とも嬉しい。ずーっとここでこうして居たいような気になってくる。ここに泊まれないのかな。もしお天気が良ければ、眼下の景色も素晴らしかったろう。Kさんには感謝しかない。山を下り、宿舎に戻り、今晩は先生がいないので、3人で夕飯を頂いた。部屋の寒さにも慣れ、ぐっすりと眠ることができるのはよい。

 

11月27日(月)
高知へ

翌朝はゆっくり起きる。お話し相手の先生はもういない。もっと話を聞けばよかったと後悔するが遅し。8時に高知の方に行くというKさんが迎えに来てくれ、宿舎ともお別れして、車に乗り込む。まずはKさんの茶工場による。ここも見晴らしの良い高台にある。創業者であるKさんのお父様がここに眠っている。20年前に亡くなり、その跡を関西にいたKさんが継いだ。とんでもない苦労があったことだろう。お父様の山にかける情熱が伝わるような石碑が建っている。

 

工場の中は比較的新しく、釜入り用の釜もあり、蒸し製を作る機械もあり、設備はきちっと揃っていた。年間にここを使用する機会はそれほど多くはないだろう。隅の方に手摘みに使う竹のかごが置かれていたのが、山茶の工場、という雰囲気を出していた。林業の傍ら、茶業も行う、そう簡単ではないように思う。思いが無ければできないことだろう。

 

それからKさんのオフィスに寄った。Kさんのお嬢さん2人が頑張って事業を進めている。後継者がいるのは頼もしい。お茶を購入した。普通の日本茶に比べれば決して安いとは言えないが、これまで茶畑から工場まで見せてもらい、お茶についても様々な話を聞いているので、特に高いとも思わない。時々思うのは、日本茶、特にいいお茶は他国に比べて安過ぎるのだ。

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