先生と行く高知茶旅2017(2)山の茶

いの町に着いた時は、既に辺りは暗かったが、雰囲気のよさそうな田舎の集落だった。Kさんの実家が今は来客宿舎になっていると言い、そこに泊めて頂くことになる。2階に上がるとちょうど4部屋あり、一人一部屋となる。すぐに夕飯が供される。かつおのたたき、新鮮な野菜の煮物、太巻きなど、高知の名物が並ぶ。美味しいので、どんどん食べてしまい、腹一杯になる。苦しい!

 

先生は夜が早く、朝も早いので、私も早めに就寝。11月下旬の高知、暖かいかと思ってきたが、この山間は結構涼しい。夜は寒いくらいだったが、エアコンが機能して、また厚手の布団を掛けて、寝入る。畳の部屋、何だか田舎のおばあちゃんの家に来たような感覚に包まれ、かなり熟睡できてしまった。

 

11月25日(土)
茶樹のある山へ

翌朝7時前に目覚める。居間に行くと、先生が既に起きておられ、資料を見ていた。そしてチビリチビリと昨晩の残りの酒を飲んでいた。先生は朝からお酒を飲む習慣があるのかと驚いたが、部屋が寒かったので、仕方なく飲んでいたということが分かった。実はこの部屋にはエアコンがあったのだが、それには気づかれなかったらしい。しかも先生の起床時間は午前4時。それは寒いはずだが、環境対応力は抜群だ。

 

Hさんがやってくるまで、先生に色々と質問してしまった。私にとってはこの時間が一番貴重だった。何しろ先生の60年に渡る経験値は物凄い。こちらが何か聞けば即座に何かが返ってくる。しかもそれが普通の、本で読んだような答えではなく、『何それ?』と思うようなことが多々あり、そしてそれが後日、どこかで役に立つというのだから面白い。

 

8時過ぎに4人で近所に朝食を食べに行く。明るくなった外を見ると、やはり想像通り、雰囲気のある、秋の終わりの集落。5分ほど歩くと、ふれあいの里という共同販売所があり、Kさんがお願いしておいてくれ、そこで朝食となる。味噌汁がホッとする。近隣の農家で採れた野菜などに交じり、釜炒り茶が売られている。何とも懐かしい味がする。

 

そこへKさんがやって来た。ここの女性たちと地元の言葉で話しているが一部聞き取れない。車で山を登り始める。停まったところには特に何もなかったが、『ここからこの山系全体が見渡せる』というKさん。さすが林業会社の社長さんだ。確かに先ほど地図を見てはいたが、先ずここから全体を見ないと、後で山に入っても何もわからない。

 

それから山の反対側へ行く。車は全く走っていなかったが、途中道路工事をしている場所がある。その手前に茶畑が広がっていた。斜面に茶樹がかなりの密度で植えられている。勿論これは山茶ではなく、人が植えた物。民家もあり、軒下の柿が干されているのが晩秋の風情だった。

 

更に登り進むと林が濃くなる。先生はこの付近で車を降り、熱心に道路脇を眺め始めた。ちょっとしたところに茶樹が植わっている。今回の先生の調査、それは『人が住まないところに茶樹はない』を確認することだったらしい。茶樹のある場所ではKさんに、以前民家があったどうか聞いている。

 

そしてついにかなりの急斜面に、茶樹がぽつぽつ植わっている場所に出た。何だか福建省武夷山あたりの光景を想起させる岩が所々にある。ここでの茶摘みは大変だろうな。有機栽培茶畑との表示が見えるが、茶園管理も厳しそうだ。登っているが足元がおぼつかないほど急だった。こんな風景が日本にもあるとは意外だ。茶葉を見ると、様々な形をしており、いわゆる自然交配が繰り返された雑種だった。

 

かなり山道を歩き回り、写真を撮ったり、木を眺めたり。それからふれあいの里まで一旦戻り、お昼にうどんを頂く。このふれあいの里、夏はテラスでBBQなども出来るらしい。そこから外を見ると、畑がきれいだった。田んぼアートというのだろうか。何となく疲れが癒える。

 

午後も別の山に行く。標高700-800m、この辺まで来ると、茶樹は見られなくなっている。それを必死で確認する。この辺は過去も人の住んだ気配がない。無いことを確認することの重要性、きちんとした仮説を持ち、先入観を持たずに行動すること。結果は先生の言うとおりになっていた。なるほど、そうか。

 

今回は大きな車は途中までしか行けないというので、小さな車に乗り換え、2人ずつ運んでもらった。帰りは下りだったが、先生はあっという間に坂を自分の足で下っていく。そのスピードはとても87歳とは思えない。60年以上の経験は、茶だけはなく、山の中を歩くことにもいかんなく発揮されている。驚くばかりの元気さに、皆舌を巻く。

 

疲れて宿泊先に戻る。夜は美味しいお稲荷さんが待っていた。実に見事なキウイも出てくる。そしてこの街の役場で課長をしていた女性が来てくれ、色々と街の話をしてくれた。我々はあまり酒を飲まないので、先生にはよい相手が出来た。こういうところで周辺情報を集めるのも重要な仕事だ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です