雲南から江蘇、湖北の茶旅2017(7)なぜ宜興で紅茶が飲まれるのか

4月7日(金)
お母さんの案内で

 

今回の宜興の旅は、福州の魏さんの会社が企画した茶旅ツアーに便乗することになっている。ただ本隊は今日の午後、福州からやってくるので、それまで時間があった。私の『中国紅茶の旅』は、今ある雑誌に連載されている。実はその関係者の中に宜興出身がいて、『宜興にも紅茶があるよ』と言われていた。そして彼女はわざわざお母さんを紹介してくれ、私は微信で連絡を取っていた。

 

朝8時過ぎにお母さんがホテルまで車で迎えに来てくれた。そして真っすぐに彼女の生まれ故郷の村へ向かった。そこは車で20分ほどの宜興郊外、宜興の街自体がそれほどの発展を見せていないこともあり、その郊外は昔のまま、のように見えた。かなり懐かしい、という感じが出ている。小雨が降る中、村の茶工場に入る。

 

そこでは雨にもかかわらず茶葉が摘まれ、茶作りが行われていた。村の小さな工場は、皆お母さんの知り合いだ。驚いたことに、萎凋槽が2つあり、緑茶と紅茶を同時に作っていた。今の時期は緑茶だろうと勝手に考えていたが、それは違っていた。宜興は江蘇省の他の街とは違い、紅茶の街なのである。

 

茶畑に向かう。工場のすぐ近くにあった。結構古い茶樹もある。『子供の頃、この辺は一面茶畑だったよ。家ではいつもお茶を飲んでいたが、それは紅茶だった』とお母さんは言う。最近は新しい龍井などの品種も植わっている。紅茶ばかりではなく、緑茶も作っているからだろうか。それにしてもなぜ紅茶なのか。江蘇、浙江と言えば、龍井や碧螺駿など、有名な緑茶の産地なのに。

 

お母さんは『その秘密を見に行こう』と言って、雨の村を後にした。宜興の街、ホテル周辺よりは多くの建物が並んでいる一角に車を停めて、店に入っていく。朝10時前に茶荘に行くのだろうか。中に入ると、そこには茶壺がたくさん並んでいた。宜興と言えば、お茶より急須、紫砂壺で有名な街。その工房と茶荘を兼ねた店だった。

 

お母さんの仲良しの女性、茶壺を作る職人さんが自ら作った茶壺を使って紅茶を淹れてくれた。その道数十年のベテランだ。大き目の茶壺にたっぷり紅茶を淹れて、ゆっくりと湯を注いていく。『紅茶はたっぷり入れるのがよい』という。ここにある茶壺も殆どがかなり大きいのはそんなわけだろうか。そこへ知り合いの女性が三人入ってきて、大きな茶壺は大活躍を始める。

 

『宜興人がなぜ昔から紅茶を飲んでいるかだって?そりゃ、茶壺を育てるのに地元の紅茶が合っているからさ』とさりげなく『養壺』に良いからと教えてくれる。ここの土壌は茶壺作りに適しており、また紅茶作りにも合っているようだ。この街があまり発展していないように見えるのも、地元意識が強いからだろうか。知り合いの女性三人も外地から観光できており、あっという間にタクシーを呼んでどこかへ行ってしまう。

 

お昼は職人さんにご馳走になった。地元の白エビや老鴨湯など、美味しく頂く。この付近は茶壺市場や茶壺の店が並んでおり、普段は賑やかなのだろうが、今日は雨のせいか人通りも殆どない。周囲を見てもやはりそれほどの発展は見られない。高鉄が開通した今、いよいよ発展するのだろうか。いや、むしろこのままでいる方がよいような気もするが。

 

魏さんたちと夜中まで
お母さんにお世話になったが、車でホテルまで送ってもらい別れた。午後は魏さんの到着を待つ。3時過ぎに一行が到着、すぐに活動が始まった。まずは閉まる前にということで、魏さんの知り合いの茶壺職人の案内で、宜興陶器博物館へ向かう。この博物館、実に立派な建物だ。中には歴史的な紫砂茶壺が並んでおり、素人で茶壺にはあまり興味のない私でさえ、思わず見とれてしまうようなものがいくつもあった。今回の参加者も同じようで、閉館の5時まで皆でずっと見ていた。

 

今回の参加者は福州から来た魏さんとその会社の人々、杭州付近で茶業をしている人々だった。お茶を売るのが難しい状況下、皆色々と勉強しなければならない。杭州から近い宜興は穴場なのかもしれない。この機会に色々とみて回りたいという。紅茶に関しては、中国国内でもまだまだ認知度が低いと感じる。

 

夕飯で地元料理を頂き、茶壺職人の工房へ向かう。その付近は工房がいくつも連なっており、同時に販売所にもなっていた。博物館で素晴らしい茶器を見てしまうと、茶壺が欲しくなるのが人情。一生懸命気に入る茶壺を探している。30年前は安かっただろうが、今や値段は決して安くはない。これだけの店が並んでいるというのは、それだけ売れるということを意味しているのか、ちょっと不思議な感じだった。

 

魏さんは夜更かしだ。相当遅い時間まで、茶壺を眺めた後、帰るのかと思っていると、また別の店に向かう。ある意味でこれは仕事なのだ。一軒でも多くの店を回り、状況を確かめ、仲良くなり、商売につなげていく。これは相当しんどい作業だと思う。同時に今や夜が苦手な私にとっても相当にしんどい。酒の席よりはましだが、夜の12時までお茶を飲み続け、話し続けるのは、正直堪える。小雨も降り続いている。

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