中国鉄道縦断の旅2015(5)長沙の茶葉市場で

茶葉市場で

取り敢えず開いている1軒の店に入った。S氏が心配そうに『中国茶って、意外と高いよね。店に入ったら何か買わなければいけないでしょう』という。私は茶葉市場には慣れているので、そんな言葉を聞き流して、安化黒茶について、あれこれ質問を始める。それが今回のサブテーマである万里茶路に繋がるからである。

 

安化黒茶といってもその種類は多い。黒、花、茯、千両茶など多彩だ。ただ往年の安化、茶畑は多かったが、あくまでも原料の供給基地としての位置づけが強い。完成品を作り始めたのは100年にも満たない。更には長い間、辺境茶を作る場と位置付けられ、漢族が飲む高級茶はなかった。安化紅茶は100年以上前から作られていたが、今は殆ど作られていない。ロシアへ運ぶものが無くなったからだろうか。

 

先方もわざわざ日本から来たのかと言って歓待してくれた。我々の質問にも丁寧に答えてくれ、様々な茶を飲ませてくれた。これは実に有り難い。以前は安い辺境茶のイメージだった黒茶だが、今では湖南省政府の支援もあり、かなり知名度があがり、長沙でも黒茶の店が相当に増えた。そんな試飲を3軒ほど繰り返した。するともう昼になる。

 

昼飯は湖南料理を食べようということになり、店の人が推薦してくれたレストランを目指す。湖南料理は中国で一番辛い。辛くないのを注文したが、それでも十分に辛い。写真をとっても黒っぽくなり、見栄えはイマイチだが、なぜか美味い。満腹になるまで食べてしまう。そしてすぐにトイレに行きたくなる。刺激が強すぎるのだ。

 

午後はもう一つの茶葉市場を目指して歩いたが、何だか高橋服飾市場へ紛れ込んでしまう。すごく大きな市場で驚いてしまう。地方都市だと思っていた長沙だが、規模はかなりデカい。ひたすら歩いて行くと、ついに高橋茶葉市場があった。この市場でも300軒ぐらいはあるだろうか。そんな中でどこの店へ入ればよいのだろうか。

 

午前中は黒茶を攻めたので、午後は紅茶を探してみた。だが意外とない。ようやく1軒の店に雲台大葉と書かれていたので、何気なく入ってみた。紅茶はあるかと聞くと、待っていましたとばかりに喜んで、紅茶を飲ませてくれた。写真も見せてくれたのだが、その中にロシア人が写っていた。これからロシアへ向かう我々にはとても参考になる。そして何とモスクワに住む中国人茶商がいるので紹介するとまで言ってくれた。

 

更には私が3年前に安化を訪ねたことを告げる。女社長に親切にされたと話すと、何と彼女はここのおじさんの親戚だった。確かに苗字は同じ鄧だった。これには双方とも非常に驚いて、茶のご縁を感じてしまう。S氏は何が起こったんだという顔をしていたが、成り行きがよい方向なので笑顔になる。100年前に万博で金賞をとった安化紅茶を商標登録したともいう。安化紅茶と言えば、前回の訪問で持ち帰ったものが日本で大変好評だった。何ともよいご縁が感じられる。

 

赤壁へ

雨が降っている。本当は安化まで行って、茶畑を見たかったのだが、そろそろ列車の時間が迫っているのでタクシーで駅に引き返す。駅は相変わらず、人でごった返している。長沙15:46始発の列車に滑り込んだ。今回は初めての硬座。ここで硬座に乗らないと、もう乗る機会がないというので敢えて選択した。

 

硬座に乗るは15年ぶりぐらいだろうか。さすがに車両はきれいになっているように見えるが、その雰囲気は昔と変わらない。あっという間に席は埋まり、無座切符の人は立っている。我々の席もバラバラ。そんな中、向かいの若い女性は何と荷物が多過ぎてそれを座席に置き、自分は立っている。周囲を気にする様子もない。おじさんが『邪魔だから荷物を上に上げて座れ』と言ってみたが、『すぐに降りるから面倒だ』と言い放ち、友達とおしゃべりしている。

 

そうかと思うと、出発間際に乗って来た老人が、何と3人掛けの席に僅かな隙間を見付けて、割り込んで座ってしまった。割り込まれたおじさんは老人に強くは言えずに席を譲ってしまった。こんな光景、昔もあったなと懐かしい。車内の風景が違うのは、皆がスマホを持って眺めていること。まあとにかく車内は暗い。これは雨のせいばかりではあるまい。

 

1時間後に汨羅に着いた。汨羅といえば、古代屈原が身を投げた場所。粽の故郷とも言えるかもしれない。2時間後には岳陽に着く。ここではかなりの乗客が下車して、席が空く。割り込んだじいさんも、ホッとした様子でスマホを眺めている。岳陽と言えば、数年前に江南三大名楼の1つ、岳陽楼に行ったのを思い出す。

 

この普通列車、狙った訳ではないが、歴史好きが乗っていれば大喜びの地を通っていく。その30分後に臨湘着。何だか茶畑が近づいているように感じる。この先からは湖北省に入る。18:29ついに赤壁の駅に着いた。外はかなりの雨。赤壁と言えば、三国志の名場面、赤壁の戦いを思い出すが、ここはその古戦場なのだろうか。それすら知らずに下車した。

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