京都・名古屋茶旅2016(2)おぶぶ茶苑で

 突然イギリス人と遭遇

8時半過ぎにやってきたバスに乗り込んだのは私ともう一人だけ。ベンチに座っていたおばあちゃんは散歩の途中の休憩だったのだろうか。バスは平地を走り、お寺などを通り過ぎていく。その後は川沿いに少しずつ登っていく感じ。茶畑が見えてくる。和束の中心に近づき、そこを越えた。きれいな田んぼが見え、いい田舎の風景が目に入る。

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30分はかからずに目的地の東和束で降りた。他に2人の人が降りたが、どこへ行くのだろうか。指示された通り、道を歩んでいくと、和束天満宮があった。その道には何とも言えないいい風が吹いていた。そこを下るとすぐにおぶぶ茶苑の事務所があるはずだった。だがそこは普通の家、取り敢えずピンポンを押してみたが、返事はない。

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仕方なくドアに手を掛けると開いていたので、『こんにちは』と声を掛けてみた。階段から誰か降りてきた。何と異国の少女がそこに立ち、『こんにちは』と答えた。しかしそれ以上会話は進まなかった。なぜなら彼女が知っている日本語は殆どなかったから。こちらが英語に切り替えると、パッと明るくなり、『こちらにどうぞ』と言ってくれた。

 

彼女はわずか数日前にロンドンからここへ来たばかりだという。茶園のインターン、おぶぶ茶苑の話題の一つは世界中からお茶好きをインターンとして数か月、滞在させていることだった。しかしまさか本当に日本語も出来ない若い女性がここにいるとは思いもよらなかった。私が訪ねるMさんは10時にならないと来ないよ、というので、一度外へ出て、付近を散策する。

 

まずは先ほどのいい風の吹く天満宮へ行ってみた。バスの通る道路に天橋が架かり、その向こうにはご神体が見える。この付近の守り神だろうか。茶畑と何か関連があるのだろうか。誰も答えてくれない。反対側へ行くと、先ほどバスを一緒に降りた女性が熱心に祈っていた。この本殿は重要文化財に指定されており、由緒正しいところのようだ。

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きれいな、輝くばかりの水田を眺めながら歩く。お茶屋さんからほうじ茶の強い香りが流れてきた。製茶工場もあった。さすが和束。その向こうの斜面にはきれいに茶樹が植えられていた。この水田と茶畑のコントラスト、なんとも美しい。うっとりした。これが日本の茶畑の美だ、ということだろうか。お天気も最高によく、じわじわ暑さが迫ってきた。

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おぶぶ茶苑で

戻ってみるとMさんは車の掃除をしていた。『今日もお客さんが沢山来るので』と言い、準備に余念がない。その内に若者が数人やってきた。関西の大学の学生、国際交流などを勉強しているという。引率の先生かと思った女性は、何と関東の大学の教授で、インバウンドの専門家だという。あと聞くとこのT先生、著書もあり、かなり有名な方だった。彼女もおぶぶのインバウンドを取材に来たという。ここに来る人々は決してお茶関係者だけではないと知り、驚く。

 

茶園ツアーにでも行くのかと思っている私を尻目に、『ではこれから交流会を始めましょう』と言い、何と日本の大学生とインターンの外国人が畳の上のテーブルを挟んで交流が始まった。迎え撃つインターンは先ほどのイギリス人のほか、フランス人、ドイツ人など4人。会話は基本的に英語で行われる。これは面白いことになった。一方我と教授2人はMさんを囲み、おぶぶ方式についてヒアリングをする。

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おぶぶとは京都でお茶のこと。この茶苑は茶農家でもない人が、20年前和束のお茶を飲んで感動し、茶業の修行を積み、開業したという。当然茶畑もなく、販路もない。放棄地を借り受け、斬新な方法として、ネット販売を行い、結果としてそれが世界に向けて発信することになる。当時英語でお茶販売をネットするところなどなかったらしい。更には茶畑オーナー制度で支援者を増やし、同時に外国人のニーズに応えてインターン制度を実施している。

 

『世界を動かすたった一つのもの。それは情熱である』とい理念をもとに、資金もコネもない状態から進んできた事業。日本茶の需要が落ちていく中、彼らの取り組みは注目されてきた。ただ彼らのやっていることは日本政府が言うようなクールジャパンでもなく、インバウンド推進でもない。美味しいお茶を作り、それを飲んでもらう、それだけかもしれない。しかしそれを行うことは容易ではなかったはずだ。

 

横では若者同士が英語で様々な議論をしている。これこそがいまのおぶぶの姿かもしれない。ただ国際交流の場を将来の目標にするつもりもなさそうだ。全国におぶぶモデルを広げる、ということもないらしい。『この和束の環境だからこそ、このモデルは出来ている』ともいう。あっという間に3時間近くが経ち、忙しい若者たちは帰って行った。

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一息つく間もなく、次の準備が始まった。ランチを食べる暇もなく、関西の外国人向け英語観光ガイドの皆さんがやってきた。フランス人のインターンが英語で説明を始める。ガイドさんも観光客が急増、その中でも特に富裕層は、日本の特徴ある場所を訪ねたいという要求が強く、連れて行く場所を探しているらしい。日本の農村、京都の茶畑、日本茶は抹茶だけではない、そしておぶぶの取り組み、それは十分に観光資源になるとのことだった。

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ガイドさんたちはおぶぶの茶を飲むため、Mさんから淹れ方を教わっていたが、煎茶の淹れ方を初めて知った、などとの声が聞こえた。外国人に日本茶を紹介する前に、まずは日本人が日本茶を知る必要があることを痛感した。話の後、ついに車で茶畑へ連れて行ってもらった。かなり急な斜面、10にも分れた畑。横にはかぶせのネットがおかれ、茶畑オーナー制度の参加者の名前が掲げられたボードも見えた。

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