シベリア鉄道で茶旅する2016(10)恐ろしいロシア国境を越える

 車はすぐに街を抜けてしまい、一本の舗装道路を快適に飛ばしていく。雪が残る大地を走る。途中馬が草を食べていた。万里茶路としては、ここは駱駝でしょう、と思ったが、今や駱駝を飼っているところなど殆どない状態らしい。この道、家なども殆どなく、朝ご飯など完全に忘れ去られている。そして、30分後、いきなりあのロシア正教会の建物が見えてきた。キャプタは思いのほか、近かった。

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そして国境ゲートのところで車を降りた。ここからは歩いてロシアに渡る、つもりだった。既に朝から車の渋滞が起きていた。モンゴル側も少し見ておこうと、周囲を歩いて見たが、何もない。遮るものがないため風がきつく、寒い。恐らくこの辺に茶葉貿易が実際に行われた、中国側の売買城があっただろうというところまで確認して、国境に引き返す。腹が減ったので朝飯を食べたかった。ようやく小さな家が一軒開いていたので入ってみる。

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そこはボーズが少しあるだけで基本的には茶を飲むところだった。我々はなぜかコーヒーを頼んだ。湯気が立ち込める中、インスタントコーヒーが淹れられた。女性が一人座って茶を飲んでいた。何と現金を取り出し、札を数え始める。まるで占い師のように見えたが、どうやら国境の両替屋らしい。私がモンゴル通貨を取り出すと、ルーブルに替えてくれた。そのレートがよいかどうか、全く分からなかったが、取り敢えずもらっておこう。

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国境を越える

そしていよいよ国境越えだ。ゲートを通ろうとしたが、警備兵に止められた。何とこの国境は歩いて通ることはできないらしい。どうするのかと見ていると、女性が近づいてきて、車に乗れ、300ルーブルだという。兵士も何となく乗れ、という雰囲気である。勿論シャトルバスなどない。これに乗るしかないことを悟り、乗り込む。この車は一番前にあったから、朝から並んでいたのだ。特別優遇車なのだろうか。

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車に乗り込んだが、なかなかゲートは開かなかった。時折特別車両が通り過ぎるだけ。20分ぐらいしてようやく前に進んだ。まずはモンゴル側イミグレで出境する。こちらはちゃんとした建物があり、室内で暖房が効いていた。イミグレの雰囲気も明るかった。なんだ簡単だな、と思ってしまったが、車の女性はなかなかやってこなかった。荷物検査が厳しいらしい。まあまだ午前中、焦る必要もない。

 

次にロシア側へ進んで驚いた。何しろ警備兵の顔が険しい。威嚇するような目で見ている。車はなかなか進まない。チェックが相当厳しいようだ。運転する女性は行動を開始した。積んでいた荷物を一部取り出す。マフラーを運転席にかけ、下着を腹にねじ込む。ストッキングは靴下の下に隠す。これでは完全に密輸だ。そうか彼女の本業は、運び屋だったのだ。そのついでに我々も運び、稼いでいるのだ。これは凄いことになってしまった。彼女が捕まれば、我々も同罪なのだろうか。さすがに我々に商品を隠せとは言わなかったが、車中が密輸一色になっている。何ということだ。

 

そしていよいよ入国審査の順番がやってきたが、何とそこは外だった。いや検査官は重装備の箱の中にいる。我々は一列に外に立っているのだ。少しでも動くと、警備兵がロシア語で威嚇する。シベリア送りになってしまった兵隊さんの心境になる。日は出ているが風は強く、寒さは相当なものだった。こんな中に一日立っていれば、兵士がイライラするのも無理はない。それにしても恐ろしかった。私の番がやってきた。検査官はかなり細かくビザを見ていた。このビザに間違いがあったら終わりだ。そしてすべてがロシア語のため、我々には何が書かれているのか読めないのだ。もうドキドキだった。

 

検査官が判を押し、パスポートを返してきた時には、嬉しくて涙が出そうだった。こんな国境は初めてだった。我々は念のため、2次ビザを取得していたが、もうモンゴルに戻ることはないだろう。3人とも無事にパスしたが、車は厳重にチェックされていた。もし車がダメだったら、どうなるのだろうか。最後まで油断がならなかった。何とか車もパスして、我々は車に乗り込んだが、ゲートを出るのに、また並んでいた。

 

これから一体どうなるのだろうか。幾多の国境を越えてきているS氏は泰然として、『何とかなるものです』というのだが、言葉も通じないこの北の大地に放り出されるのだろうか。その場合、本当に何とかなるのだろうか。そんなことを考えていると車は動き出し、勢いよくゲートを飛び出した。横を見ると、あの教会と、そしてロシア側の茶貿易の建物が見えてきた。あそこの写真を撮りたい、と思っていると、車はその思いをわかっているかのように、その前まで来て停まった。300㍔とは一人当たりであり、私は両替したばかりのルーブルを全て投げ出して支払った。車はゆっくり走りだし、我々は取り残された。

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