カンボジア・タイ 国境の旅2016(5)人材育成の現場

村の教育

それから実際に過去に地雷処理が行われた場所へ向かう。雨でぬかるんだ道、そこに地雷処理の看板が建っていた。その先の道はTさんが寄付を募り、整備したのだという。確かに地雷を処理しても、それからどうするのか、どのように使うのか、も重要だ。車で数分行くと、小さな家が建っていた。だが農作業に行っているのか、誰もいない。なぜここへ来たのか。

『実はここの家の子が今愛媛に留学している。ものすごい勉強家で、中学生の時、どんなにひどい雨でも日本語学校まで通ってきていた。日本の高校に留学する時には、日本の高校生と同じ基準で受験して、見事合格した。120時間は勉強していた』というのだ。これには正直驚かざるを得ない。何しろこのぬかるみの道を歩くだけでも大変なのに、学校まで行くとは。そして毎日街灯もないこの道を歩いて帰ってきたのか。更には日本語がそれほどできないのに、頑張る、驚異の粘り。今は日本の大学に入るべく、猛勉強しているらしい。是非一度会ってみたい!その家の庭にはなんと不発弾が転がっていた。これが現実なんだ、その中で光を見出そうと努力する人々。

 

そして事務所に戻ると、学校を終わった子供たちがそこで遊んでいた。ちょうど日本語教室が始まる所だった。私もそこに混ぜてもらう。生徒は10-13歳ぐらいの子たち。自分の名前と年齢を大きな声で言ってくれる。先生は高校生。それでも日本語が相当にうまい。彼女の通訳で、一人ずつ、色々と聞いてみる。『ここから日本は相当に遠い』ということを実感する。日本語の先生になりたい、日本へ行って日本語を勉強したい、と言われるとその夢をかなえてあげたい気持ちになる。

 

この学校は日本人女性の寄付により、昨年完成したという。村を向上させていくには、『教育』が重要だとTさんは考えている。しかしただ日本語を教える、ということでない。教室に入る時に、履いてきたサンダルをきちんとそろえる、そんなところからやっている。恐らく子供たちも、煩いな、面倒だな、と思っているはずだが、このような基礎教育こそ、これからのカンボジアに必要なものだという。

 

今は小学校に通えない子供は殆どいなというが、勉強するモチベーションを上げる必要もある。一生懸命勉強した子にはご褒美が必要だ。日本側で受け入れてくれるところがあれば、留学にも送り出す。現在2人の村の子が日本に居る。先ほど家を訪ねた子の頑張りは、村でも有名なはずだ。生徒たちがきれいな日本語でアンジェラ・アキの『手紙』を歌ってくれた。先生役をしている高校生は本当の歌手のように『涙そうそう』を歌い上げた。次は誰の番だろうか。人材育成、その形を見る。

 

シャワーを浴びさせてもらう。と言ってもお湯は出ない。水シャワーを浴びるのだが、水をそのまま浴びると冷たいということで、Tさん自ら考案した、シャワーがそこにあった。確かにこれを使うと、管を通る間に少し温くなっている。とはいえ、水シャワー、私はインドやタイなどで何度も経験があるので、1-2日は問題ないが、出来ればお湯が欲しくなるはず。食事も日本食などは食べず、現地の食べ物で通しているらしい。Tさんは私より一回り以上上なのに、村人と同じ生活をしている。これは簡単なようなすごいと思う。そして泊まりに来た日本人に水シャワーを経験させることはかなり重要なことのように思えた。

 

夕飯を頂き、Tさんと話し込む。ここカンボジアで地雷処理をする意味、政府の関与、国際貢献やボランティアなどの在り方、など話は多岐に渡る。『議論ばかりしていても何も進まない。まずは実践すること』なのだろう。既に69歳という年齢のTさんがカンボジアと日本を何回も往復して、実務である地雷を処理し、村の将来を考え、そして日本にこれを伝え、寄付を募る。今回、クラウドファンディングという新しい手法を取り入れたのも、『やってみよう』という精神の表れだろう。この村の在り方とそこへの関わり方は、必ずや日本人にも参考になる。Tさんは相当に疲れているはずなのに、夜遅くまで話に付き合ってくれた。情熱が感じられる。

 

728日(木)

大きなベッドで安眠した。まだ薄暗いのに鳥のさえずりがうるさい。外に出て朝日を浴びる。犬が転がって遊んでいる脇で、デマイナーの女性が既に出勤してきて、庭の掃除をしていた。バイクで送られて出勤する人もいた。6時半過ぎには朝礼が始まる。今日やるべきことを確認。それから場所を移動して、昨日までに除去した地雷を11つ確認している。『これはソ連製』などと言いながら、カタログを見ている。地雷と言ってもその種類は予想よりはるかに多い。爆薬の有無などは勿論、その性能、処理に仕方、などの知識を共有している。

 

朝ご飯を頂くと、Tさんの部屋でコーヒーを飲む。するとPCが振動して、スカイプが始まる。日本との時差2時間、既に愛媛事務所の活動は始まっており、NPO理事長として、Tさんに色々と指示を仰いでいる。プレーイングマネージャーであるTさん、理事長が現場の第一線で活動しながら、色々な決済もするのは大変だ。

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