カンボジア・タイ 国境の旅2016(4)村に工場が誘致されて

 2. タサエン村
いきなり現場見学

国境を出た車は田舎道を走っていく。と言ってもちゃんと舗装されており、問題はない。広々とした空間が広がっている。元ポルポト軍の司令官の住まいが立派に建っていた。そういわれて初めて、こののどかな空間が20年以上前は内戦の舞台だったと気付かされる。しかし本当にここで何かがあったのか、と思うほど、何もない静けさ。

 

車は大きな建屋に近づいた。そこはTさんの地元、四国から企業を誘致して建てられた工場だった。正直こんな田舎に日本企業の工場があることに驚く。そして日本人の駐在員も一人いた。工場を案内してもらうと、上等な和紙を使い、和服を包むための紙を作っていた。カンボジアの片田舎で和服を包む紙とは。この意外性に仰天する。工場は広々としており、その中でカンボジア人の若者が働いている。日本語の通訳をしている若者は先日バイクで事故に遭い、かなりのケガをしていた。『カンボジアではヘルメットは重要です』という。

 

次は地元のカンボジア人の家を訪問した。昼間からほろ酔い気分になっているところにちょうど行ってしまう。ここの主人は内戦で片足を失い、ここに移住。農地を広げるために危険を承知で開墾し、結果地雷でもう一つの足を失ってしまったという。だがそれにもめげずに、農地を広げ、キャッサバなどを植え、またその苗を育てて他者に分けていく、という方式で、成功を収めていったようだ。

 

義足をつけていながら、我々を快く迎え、さっさと歩いて畑を案内してくれる。Tさんの支援が如何に彼の助けになっていたかを知るに十分な笑顔で話してくれる。彼の人生を窺い知ることはできないが、内戦があり、兵士として戦い、戦後は地雷とも戦ったのだろう。突然闖入した者には計り知れない努力の結果、今があるはずだ。

 

Tさんの事務所へ行く。思ったより広い敷地、2階建ての建物と、反対側には平屋、正面には工場のようなものが建っていた。平屋は寄付により建てられた日本語学校、正面は焼酎工場だった。2階建ての2階がTさんの事務所兼住居。空いている一部屋は私が使わせてもらう。この部屋には曽野綾子さんなど、著名人も泊まったことがあるという。因みに人気俳優の向井理はハンモックに寝ていたとか。

 

既に昼近く、ご飯が用意されていた。ここには2人の若い女性が住み込みで勤務していた。ベテランが辞め、まだ来たばかりだという。20歳前だが、聞けば10歳ぐらいから畑の草むしりなどの仕事をして、その後タイに出稼ぎに出たり、戻ってきて色々な仕事をしたらしい。若いのに、かなり苦労している。でもこれがこの村では珍しくないという。

 

ご飯と、魚に甘いたれをかけて食べる。生野菜も付いている。これはかなりうまい。彼女らは小さい頃から簡単なご飯は自分で作れるようになっているらしい。ご飯も進む。カンボジアの料理は基本的に甘い。そしてアジア全体にそうだが、ご飯を食べるためにおかずがある。猫がご飯を狙っている。何だか微笑ましい光景だった。

 

ちょっと休息していると雨が降り出す。スコールというほど強くもなく、ほどなくして止む。するとTさん、ミーティングがあると言って下に降りたので、付いていく。そこには地雷除去の作業をする5人の隊員、デマイナーがちょうど作業現場から戻っていた。何と5人のうち3人が女性で驚いた。しかも皆家族を置いて、遠くの作業場まで出掛けるので、数日戻らないこともあるらしい。

 

さすがTさん、元自衛官。きちんと整列して、きちんと挨拶する。こういう光景を見ていると、『けじめ』という言葉が生きて来ると思う。特に地雷のような危険物を扱う仕事、当然慎重に行うはずなのだが、ちょっとでも気が緩むと、事故を招きかねない。作業終了報告を簡単に終えて、すぐに解散となったが、身が引き締まる中に、暖かい何かが走る。

 

雨も上がったので、外出。もう一つ誘致された工場を見る。こちらも紙関係。ご祝儀袋などを作っている。原料は全て日本から運び、形作る?作業だけ。若者が数十人、なんとも楽しそうにやっている。聞くところによれば、この作業、材料を家に持ち帰って、お母さんや妹と一緒にやってもよいらしい。いわゆる内職なのだ。日本では既に内職する人も減っており、また人件費から考えて採算も合わないのだろう。

だがこちらでは人が余っており、家族まで含めると、かなりの労働力がある。内職、実は意外と難しいようにも思うが、カンボジアなどでは有効な手段にも思える。ここでは昔Tさんのところで地雷処理に携わった人もおり、またこの工場が誘致されて仕事ができたことを感謝している人もいる。出稼ぎに行かなくてよい、家族と一緒にいられることはここでは何より重要かもしれない。

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