ミャンマー激走列車の旅2015(11)ティボーから先 土砂崩れでまさかの

 それから1時間ぐらい、畑の中を走っていた。突然誰かが乗り込んできた。若い女性だった。そして英語でセールスを始めたのには驚いた。新しくできたホテルで安く泊まれるという。しかし凄い商売根性だ。この列車に乗ってくるとは。S氏が『こういうホテル、好きだな』と言ったので、今日は列車がティボー止まりだから、ここに泊まる可能性が出てきたなと内心ほくそ笑む。そして午後3時過ぎに列車はティボー駅に入った。

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ラショーへ

全員が列車を降りた。やはりここから先へは進めない。S氏はどうするのかと見ていると、『とにかくラショーに行く方法を考えよう』と言い、駅周辺の調査を始めた。もう慣れているとはいえ、今日はティボーに泊まり、明日の朝バスでラショーへ行けばよいのに、と心の中で思ったが、成り行きを見守っていた。駅は大きくはなく、バス停もないし、タクシーらしい車も一台もない。観光の外国人はホテルが用意した車ですでに姿を消していた。彼らの多くはここティボーが目的地だったのだ。トレッキングをすると聞いている。

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さて、どうなるのかと見ていると、何と我々が乗ってきた列車に乗り込んでいる人がいた。それを目ざとく見つけたS氏は駅員に確認している。そして叫んだ、この列車に乗るぞ、と。だってこの列車ティボー止まりだろう、と思ってみたが、駅舎内で切符を実際買っているのを見ると、『行けるかもしれない』と感じ、そしてこれは面白い、と思うようになっていた自分がいた。列車はオーディナリークラスのみ。我々が乗り込むとゆっくりと、車体が動き始めた。『やった』と小さな声を上げてしまう。でも乗客は多くない。

 

そしてわずか数百メートル行ったところで、列車は止まってしまった。何と皆が荷物を持って降り始めた。車掌が我々にも降りるように促す。その先には橋があった。この橋が洪水で壊れたというが、特に問題なさそうに見えた。ミャンマー人男性は橋の上の線路を歩いて向こう側へ行ってしまった。我々は一度線路から外れ、橋の下流にある、歩いて渡れる橋を目指した。荷物を引きずりながら歩く。まるで逃避行のようだった。

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橋を見ると僅かに亀裂が入っているようで、修理が行われていた。そして川向こうには別の列車が待っていた。ここでいわゆる折り返し運転が行われていることが分かる。何という幸運、そしてS氏のネタを引く力の強さには脱帽した。だが、車内に入ると超満員。これから3時間以上、こんな感じで行くのだろうか。そこへ車掌がやってきて、『こっちへ来い』という。付いていくと、何と我々のために3つ席を空けてくれていた。完全な外国人特権だった。こんな非常時に凄いとしか、言いようがない。

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列車は川沿いにゆっくりと走り出した。向こうにはラショーへ行く道路も見えていた。あそこをバスで走った方がよほど早いな、と思いながらも、座席に座る喜びを味わっていた。周囲には子供たちもおり、落ち着きがない。何とか1駅進んだが、その先はまたゆっくり。途中で修理工らしいおじさんたちが降りて行ったりして、なかなか進まなくなる。林の中に列車が釘付けになる。水が溜まっているところもある。小雨も降り出した。3つ目の駅に行っただろうか、その頃にはもう皆ぐったりしてしまった。諦めて降りる人も出てきた。しかし降りてどうするんだろうか。

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ついに車掌がやってきて『この先は土砂崩れで進めないので、列車はさっきのところへ戻る』と宣言されてしまった。車内にため息が漏れ、諦めの気分が蔓延した。だが戻ると言ってもどうするんだ、と思っていると、何と列車の頭は両サイドに着いており、いつでも引き返せることになっていた。だから基本的に外国人にはチケットを売らなかったんだ、と今頃わかる。この時Nさんが『この切符はどうなるんでしょう?払い戻してくれるのかな』とポツリ。こんな場面でそんな発想をするNさんの落ち着きには本当に驚いてしまった。百戦錬磨、という言葉が浮かんできた。列車は意外と速いスピードでもと来た線路を戻っていった。

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あたりが暗くなって来た頃、我々は列車を降りた。また川を歩いて渡り、ティボー駅に戻るのかと思うと、うんざりした。だがそこには駅員が待っていて、何とまずは切符の払い戻しを受けた。Nさんが車掌に聞いた結果らしい。勿論ミャンマー人には払い戻している様子はないから、我々だけの特例だった。そして『これからどうするのか』と聞かれ、S氏が『ラショー行のバスターミナルへ』というと、ちゃんとソンテウを手配してくれ、運転手にも行先を告げて、送ってくれた。勿論料金は自分で払ったが、この大混雑の中では破格の待遇だった。

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