ある日の台北日記2018その3(2)入り難い居酒屋の今

11月1日(木)
入り難い酒屋へ

台北での生活は埔里とは違い、刺激に満ちている。その分、資料を読む勉強やそれを文章にまとめる執筆に集中できないという難点もある。それでも出来れば、会いたい人とは会い、食べたい物は食べる、というのが良いように思う。変化がある方が更にモティベーションが上がるというのは本当だろう。

 

昼はいつものBさんとランチの約束をしていた。指定された場所に向かうと小雨が降っており、U-bikeは使えないので、地下鉄に乗り、そして歩く。そのレストランはスマホ地図で見ていたにもかかわらず、なかなか見付からなかった。何とかたどり着くと、実は数年前に来たことがある場所だった。既に午後1時だが、席は埋まっていた。店主が『取り敢えずここに座って待って』という。

 

そこにBさんがやってくると、店主が笑顔になる。実は彼女は店主ではなく、ご主人の代わりに仕事の合間に店を手伝っていただけだった。そして出版社に勤めているらしい。このお店、ベジタリアンフードがウリだ。台湾にはベジタリアンが意外と多いので、このような店は重宝される。Bさん夫妻も常連だという。

 

何となく肌寒い台北、キノコの鍋を頼んでみる。味がしみ込んでいる。とても優しい味付けのご飯で、体も暖まった。Bさんとは取り留めのない話をいつもする。それが意外と思考には役に立つ。全く違う世界で生きている人と話すのはためになる。これから北投温泉でのイベントに行くというBさんについて行きたかった。

 

小雨が止まず、どこへも行けないので、一度宿泊先に戻り、休息する。台北は暖かいと思って、長そでのシャツすらあまり持ってこなかった。ズボンも薄いのしかなく、正直寒い。これから1か月、もしこんな天気が続いたら、相当に困ってしまうだろう。まさか天候不順、気候変動の波に襲われるとは思いもよらない。服を買いに行くべきかでかなり迷う。

 

夜はいつものTさんと会うことになっていた。台北のレストランに詳しいTさんに『どこか懐かしい感じのする場所』とリクエストすると、早速3つの場所が送られてきた。さすがだ。その中で、ちょっと変わった店があった。『入り難い居酒屋』と紹介されていたので、行ったことはなかったが、そこに行くことでお願いした。

 

バスで近くまで行き、その居酒屋を探した。指定された付近はなんとなく懐かしい。確か30年ほど前、この辺によく来た記憶がある。そうか、この交差点の近くに、あの鼎泰豊の老店があったはずだ。今や飛ぶ鳥を落とす勢い、すごくきれいでサービスも整っている鼎泰豊だが、あの頃は古びた、学生が行くような店だった。オープンキッチンとな名ばかりの、作っているところが丸見えの1階、狭い階段を上がる2階、欠けた皿、安いが旨い料理、そんな思い出は今の鼎泰豊には不要だろうな。探してみたが、その店はもうないようだった。

 

そしてようやく見付けた入り難い居酒屋。ところがどう見ても入り難くない。むしろきれい過ぎて入り難いレストラン、と言う感じだ。本当にここだろうか、と恐る恐る入っていくと、既に奥の方にTさんが陣取っていた。『この店はすぐに満員になるから』と言って早く来て待っていてくれたようだ。有り難い。

 

『実はこの店、場所が最近移転したんです』というので、ようやく理解した。NHKの番組で取り上げられた時は、まだ古い店だったらしい。この店は元々民進党の人々、支援者が集まる場所としても有名で、それが『入り難い場所』の一つの理由だったともいうが、今はどうなんだろうか。台湾の保守派になったと言われる今の民進党には新しい店舗が相応しいかもしれない。

 

取り敢えず名物を注文してもらったが、料理はかなりうまい。酒飲みにはたまらない食べ物がどんどん出てくる。酒を飲まない私は冷蔵庫からお茶を取り出して飲むが、それでもOKだから有り難い。日本の居酒屋で酒を飲まず、酒の肴だけ食べるのはかなり勇気がいり、もう長い間遠慮しているので、台北のこんな店は有り難い。

 

後からSさんも合流して3人で大いに食べる。店には日本人客も何人も訪れ、これまた名物の『愛想のないおかみさん』と記念撮影などしている。じっと見ていると、おかみさん、確かに愛想がある方ではないが、だからと言って特に怖い訳でもなく、問題もなさそうだ。隣の台湾人グループはかなり盛り上がっていたが、急に一人がこちらを向いて『うるさくして申し訳ない』と謝って来た。何だか日本の居酒屋にいる雰囲気で、なんとも好ましい。

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