台湾南部ぶらり茶旅2015(6)阿里山の生き証人

84歳のおじいさん

宿まで戻ったが、まだ明るい。ふと見ると上にも茶畑があり、宿の横には道がある。フラフラと少し登ると、何とも感じの良い古民家が建っていた。そしてその家の前でお爺さんが一人、ゆっくりお茶を飲んでいるのが見える。思わず近づいていくと、手招きされ、更に近づくと『いらっしゃい』と流ちょうな日本語で声を掛けられ、こんな山の中でと、驚いた。

DSCN9567m

 

このお爺さん、宿のオーナーのお父さん。84歳になった今でも、奥さんと二人で、生まれ育ったこの上の家で暮らしている。『この家は建てられてから104年になる』と聞いて、これまた驚く。阿里山のこの付近で最初に建てられた家だとも言う。これは歴史的に保存すべき遺産ではないか。

DSCN9589m

 

お爺さんがお茶を淹れてくれた。私の大好きな濃い目の焙煎、10数年前、初めて阿里山に登った時に飲んだ伝統的な味がした。その後、このようなお茶を見掛けることは少なくなり、高山茶といえば軽香ということで、どんどん軽くなってきているが、やはり何といっても、このようなお茶が飲みたい!思わず注がれるままに、何杯も飲んでしまう。水もきっと良いに違いない。

 

阿里山のこの付近にはいつから茶畑があるのかと聞くと『民国70年(1981年)頃かな』と。政府の農業関係者がやって来て、『これを植えると儲かるよ』と言われて始めたそうだ。実際育てるのには時間がかかるが、一生懸命植えたところ、1980年、90年台の高山茶ブームで、相当に利益を上げることが出来たという。『まあ阿里山高山茶、などと言っても、高々35年ぐらいのもんだよ』とお爺さんはあっさり。

 

更には『その前に阿里山に公道が通ったのは大きかったな。付近の住民も駆り出されて、道路工事をやったよ。給料はバナナや野菜だったけどな』と。それは当たり前だが、相当の難工事だったようで、恐らくは辛い労働だっただろう。この家を守り、目の前の公道作りに自ら参加して、阿里山の茶園経営にも最初からかかわっている、こんなお爺さん、完全に歴史の生き証人である。いきなりすごい人に会ってしまったな、さすが茶旅と自画自賛。

 

しかし一つ気になることがあった。こんな静かな夕暮れ時、ゆっくりとお茶を飲んでいるお爺さんが、しきりに時計に目をやっていた。何故だろうか、誰かと待ち合わせでもしているのだろうか、と思っていると、『ちょっと待っていて』と言って、家の1つに入っていった。何となくついて行くと、何とそこではまさに焙煎が行われていたのだ。実はお爺さん、優雅にお茶を飲んでいたのではなく、自分で飲むためのお茶を自分で作っていた。これまたビックリ。

DSCN9571m

 

茶農家は引退しても自分で作ったお茶しか飲まない、ということはこれまで何度も見てきた。凍頂山の上に住んでいた85歳の老人の淹れてくれた茶も絶品だったが、分けてもらうことは出来なかった。このお爺さんのお茶、何とか少しでも分けてもらえないかな、どうやったら売ってもらえるかな、と考えあぐねていると、『土産にあげるよ』と言って、あっさり一袋くれるではないか。何という幸せ!お爺さん、ご近所や親戚など、お爺さんの茶の常連さんの為にも、作っているようだ。確かに昔からこの茶を飲んでいる人には今のお茶は合わないだろう。

 

薄暗くなったので、お爺さんに礼を言い、宿へ戻る。既に夕飯の準備が出来ており、奥へ招かれる。この家には息子や娘がいたが、今は嫁に行ったり、勉強のため台北へ行っており、夫婦二人の夕飯だという。そこへこちらが割り込んだ。今日は結構涼しいので、鍋のような、煮込みのような料理が出たが、新鮮な野菜に味が沁み込んでいて、実に体が温まる。卵焼き、豚角煮、勧められるままに食べていると、相当に腹が膨れ、苦しいほどになる。

DSCN9573m

 

夜は特にすることもなく、お茶を飲みながら、台湾で開催されていた野球のワールドベースボールクラシックを見て過ごした。台湾チームは奮闘していたが、厳しい試合が続いているようで、ため息が多かった。Wi-Fiはあるが、2階は電波が通りが悪いようだったので、これ幸いと、早寝する。昨晩よく眠れなかったこと、今日はかなり活動したこと、そしてここが涼しく快適であることから、予想以上の睡眠時間を確保でき、体がだいぶ楽になっていた。

DSCN9574m

 

11月12日(木)

翌朝も当然ながら早く起きる。そして宿のシャッターを開けて、散歩に出る。ちょうど茶畑に朝日が昇るところだった。いい光景だ。おじいさんの家にも行ってみたが、誰も外には出ていなかった。お爺さんの家に上がる道には、となりのトトロなど、可愛いアニメが描かれている。幼稚園によくあるような絵なのだが、なぜここに。これがまた何とも愛嬌があってよい。

DSCN9584m

DSCN9560m

 

公道を少し歩いてみた。お茶屋が何軒かある。上の茶畑に行くには、茶霧之道、というところを歩いていく。上からこの付近が一望で来た。陽の光を浴びて茶畑が光っている。何とも美しい。この傾斜地に茶畑を開くこと、それには相当の苦労があったことだろう。あのお爺さんたちは、その困難を乗り越えて生きてきたのだ。爽やかな風がスーッと吹き抜けた。

DSCN9594m

DSCN9602m

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です