台湾南部ぶらり茶旅2015(3)高雄 茶業組合会長の店で

茶業組合会長の店で

一度宿に戻り、休む。それほど暑い訳ではないが、そうは言っても東京とは気温が違う。しかも高雄は台北よりもかなり暑い。それでも来た早々の今晩、何もしないのはどうかと思い、Mさんがくれた情報に基づき、お茶屋さんを訪問してみることにした。宿でその場所を聞くと、『歩くと30分ぐらい、地下鉄はない』というので、教えられた通り、歩いてみた。

 

高雄駅前の川を渡ると、なぜか31年前の記憶がふと蘇る。ここは昔も渡ったが、あのごみごみした猥雑感はきれいに消えていた。駅を右に折れると、なぜか電気屋街が。電気屋というよりITショップ。高尾駅前が東京の秋葉原みたいになっているとは、初めて知った。高雄は台北ほど地価が上がっていないということか。駐車場がないので、若者向けのショップになったのか。はたまた何か特別な理由があるのか。安そうな台湾製のスマホがあったので、買いたいと思ったが、機械に弱いので迂闊に手を出しても色々面倒だと、止めにした。

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インドネシア商店なる店もあった。最近はインドネシアからの出稼ぎ者が多く、お手伝いさんも大体ネシア人らしい。ここで母国の雑貨を買い、親に電話を掛けるのだろうか。駅から少し離れると段々寂しくなる。最近は車社会で駐車スペースの少ない駅前が寂れるというは日本の地方にもよくある現象とはいえ、高雄は台湾第二の都市。これでよいのだろうか。

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比較的大きな道路を渡った先に、目指す長信銘茶は存在した。予想したより遥かに大きく、そしてきれいな店で驚いた。店内に入ると、女性が『何か?』と聞いてきたので、オーナーはいるかと聞くと、その横にいた男性が『私です』という。高雄の茶業組合会長の店、と聞いていたので、長老が出てくるとばかり思いこんでいたのに、私と同年輩の人とは意外だった。

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彼、黄さんに私の茶旅を紹介すると、お茶を淹れてくれ、話が始まる。黄さんのお爺さんが30年ぐらい前、六合夜市辺りで観光客にお茶を売り始めたのが、茶販売の最初だという。黄さん自身は、阿里山あたりに持つ茶畑から茶を採り、製茶している。『私は茶農家です』という感じだった。商売が大きくなったのは、やはり大陸に茶葉を売り始めてかららしい。現在河南省鄭州に支店を持ち、息子を派遣している。2年前に建て替えたこの新店舗も、大陸からの収益で出来たのではないだろうか。

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高雄の茶業界、20-30年前は300軒ぐらいの店があったというが、彼が会長になった数年前は、80軒程度まで落ち込んでいた。現在は110軒程度まで盛り返してきているが、その理由は台湾人のお茶需要ではなく、やはり大陸観光客の急増、『お茶を土産物として観光客向けに小商いする人が増えた』ということだった。しかし今後もこの傾向は続くと言えるのか。

 

では来年の総統選挙で、民進党が勝ち、大陸との距離が離れたら、商売はどうなるのだろうか。『選挙では民進党が勝つだろう。それは仕方がないこと』とすでに割り切っている様子。それ以上話を聞こうとすると、どこかに電話を掛けて、『今娘が来ますから』という。何でわざわざ自分の娘さんを呼んだのか?

 

やってきた彼女は大学を卒業したばかりの22歳。父親はさっとどこかへ消え、彼女が応対してくれた。学校で日本語を勉強しており、日本人客は彼女の担当ということらしい。『日本と同様、台湾の若者のお茶離れがとても激しいんです』『ペット飲料のお茶をお茶だと思っている、それが美味しくないという友達が多くて残念です』と一生懸命日本語で語ってくれた。

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だからいい烏龍茶の茶葉をそのまま入れた特性ティバックを作り、販売を開始した。これなら若者でも面倒なく、お茶が淹れられ、美味しいお茶が飲めると笑顔で話す。現物を見ると、確かに丸まった茶葉がそのまま入っている、三角状のティバッグ。これを作る機械は、と聞くと、日本から取り寄せたという。この投資は決して小さくはない。父親は『娘や息子の時代になるんです。私は茶作り』とさらって言っていたが、簡単なことではないように思う。

 

更に高雄は暑いので、若者は冷たい飲料を好む。出来るだけ美味しい、そして冷たい飲料を目指して、例のティバッグをちょっと重厚なビンの容器に入れて、冷やし烏龍茶を作り、店内の冷蔵庫に入れて、販売している。これもこれまで見たことのないスタイルでとてもユニーク。ビンの容器はちょっとずっしりしていて、持ち歩くのにはどうかとも思うが、再利用可能で、若者らしいエコスタイルも演出している。友人たちの評判も悪くないと顔をほころばせる。実に素直な、そして、堂々とした応対が出来る、自分の主張も話せる彼女。素晴らしい!

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日本ではとかく『茶業の将来は厳しい』という話ばかりをするが、こんな前向きな、明るい、そして楽しい茶販売、いいなと思う。将来のことは若者に任せて見守る、それができれば、茶業の形も変わるかもしれない。そういう意味では日本の将来も若者たち、子供たちに託すべき、口だけ出して何もしない老人は退場すべき、というのが本当ではないだろうか。

 

お茶屋さんを後にして、また歩いて宿へ戻る。高尾駅前のメインストリートは、なぜかブライダルショップが目に付く。宣伝が派手だ、ということもあるかもしれないが、結婚産業は、経済が低調でも順調だ、ということだろうか。来年以降の先が見え難い台湾だが、誰も分からない未来に皆が賭けている。『いつの時代もそうさ、安定などないのが台湾』と言われているようだった。

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