茶の源流を訪ねるベトナム茶旅2015(8)タリエンシスの花

もっと色々あるよ、とばかり副委員長は先頭を切って歩き出し、別のところにも案内してくれる。公安はいつの間にか姿を消していた。どう見ても怪しい行動ではない、と判断されたようだ。そして山の中で訳の分からい行動をしている我々には付いて行けない、ということで退散したのだろう。家が数軒見えるが、誰も人がいない。皆農作業に出てしまっている。

 

私は普段、道を歩いていて、周囲の草花に関心を持つことは殆どない。だがこの旅では、皆さんが『あれは何だろうか』と言いながら、熱心に道の脇の花や木を眺めており、土壌を確認し、その違いや類似性を克明に検討している姿を見て、驚くと同時に、『日頃の行い』の大切さも痛感する。急にやれ、と言われてできるものではない。これからは日本でも他のアジアでももう少し関心を持って歩こう。ただそれにはもう少し花の名前など覚えないといけないが、どうすればよいのだろうか。

 

そういう目で見ていると、1本の木なのに、葉っぱの色が上と下で違っているものもある。土壌から来る変化なのか、気候の問題なのか、変異しているのである。Y先生などは、すぐにそれらを見つけて写真に撮り。考察を加えている。プロだから当然、と言わばそれまでだが、やはり目の付け所が違う。植物学的には、変異というのはとても重要なものだろうか。

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そして別の林の中に分け入った時、突然Sさんが『花が咲いている』と声を上げた。これまでもキッシーの花は沢山咲いていたのだが、木と木の間に大ぶりの花弁が見えた。Y先生が『これは本当に珍しい。タリエンシスの花だ。自然界の中でこの花を見るは私も初めてだ』と興奮した様子で話す。確かにその花は堂々として風格すら感じさせるもので、単に歩いていてはとても見つけられないような位置に咲いていた。『この旅の最大の収穫』と位置付けられた。

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実はY先生に講義を受けながら歩いていたのだが、植物学的にはこうだ、という話が沢山出てきた。お茶の世界で言われていることは、植物学とは根本的に違っているのだが、何度聞いても頭に入らないのは、既に中国茶の世界の知識がこびり付いたせいだろうか。『5から3だよ』と何度も言われる。タリエンシスかシネンシスかは、実は花のめしべの数で分かるのだという。だから花を探している、そのめしべや花弁の数を確認しているというのだ。

 

その数が5ならタリエンシス、3ならシネンシス。そして植物学的には、その変化は大きな数字から小さな数字にしかなり得ないという。ということは、タリエンシスが何らか変化したものが、シネンシスだということ。雲南から東に向けて移動する過程で、5→3になったのではないか、だから雲南にはタリエンシスがあり、アッサミカもあり、それが福建などではシネンシスになっているでは。かなり本質的で奥の深い話だ。因みに植物学には大葉種とか小葉種などという概念もないそうだ。正直、この山の中で頭はどんどん混乱していった。

 

更に行くとタリエンシスの大木も目に入ってきた。副委員長は何とその木に登り始め、葉を採って降りてきた。その素早さは信じられないほどであり、『地元の人間はこうやって採るんだ』と示してくれていた。既に木の下の方の葉は人の手で採られており、男たちは必要があれば木に登るらしい。このタリエンシスの葉を使った茶がこの地区で常飲されていることが認識できた。これにより、M先生の今回の目的は一応達成されたといってよい。後はヤオ族だ。

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この地区にはプロジェクトにより植えられた山茶花栽培地があり、そこは金網で保護されている。当然ながら、何も囲わなければ、山の中のものは村人の共有物として、誰かが採ってしまうのだろう。こんなところにも、豚の親子が楽しそうに寝転がっている。実にのどかな風景が見られた。

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ランチタイムは茶作り

ランチの時間になり、一度ホテルに戻った。ちょっと酸っぱい魚のスープが出て来た。これには、漬物にした菜っ葉のようなものが入っているようだ。Uさんが、どこからか生葉を持ってきて、テーブルの上で簀子のようなものを取り出して、葉を揉みだした。さすが茶畑をやっているだけあって、慣れた手つきで揉んでいる。そしてその葉を蓋碗に入れて、飲んでみることに。当然ながらかなり青臭いが、これもまた一種のお茶であろう。こんな芸当ができるUさんに感心した。

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一方Sさんは朝干し始めた茶葉の笊を持ちあげて、揺らしている。揺青しているのだ。もう本格的な茶作りの現場のようになってきている。地元の人間も興味深そうに眺めている。朝みたように、彼らはここまでちゃんと茶を作らずに、Uさん方式で、葉を揉んでそのまま飲んでしまうが、このようにちゃんと天日で干して、茶作りをする知識は持っているようだ。

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午後は副委員長の家を訪問した。その付近にも茶樹があるということだった。家でちょっとお茶を頂き、そのまま集落の裏山へ向かう。確かにこの辺にも林の中に喬木が見られ、また後から植えたらしい木々が沢山見られた。茶を飲みたければ、この辺の葉っぱを採り、自ら加工している茶を作るという。

 

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