中国地方西部茶旅2020(4)鹿野茶、そして小野茶へ

最後に津和野にある太皷谷稲成神社(稲荷を稲成と書くのはここだけ?)に参拝した。日本五大稲荷の一つで、朱色の千本鳥居を潜ると、津和野の町並みがいい感じで眺められる。ここでお揚げ包(お揚げ、ろうそく、マッチ)をもらい受け、拝みたい稲荷の前に行き、それを供えるとご利益があると聞き、やってみる。ご利益のほどは定かでないが、気持ちはよい。ここは北白川宮家ともご縁があるようだ。

そして夕暮れが近づく中、ついにUさんの住む、島根県吉賀町にやってきた。ここは昨年3月に一度お邪魔しており、その際外から見た立派な旧家に泊めてもらえることになっていた。ここは某お笑い芸人ゆかりの家であるが、庄屋さん格、2階建ての豪邸で部屋数も多かった。夕飯は途中で仕入れてきた魚などを材料に、Uさんが用意してくれ、ここに住むAさんと3人で、美味しく頂いた。この家は古いためこれから徐々に改修されるようだが、一応シャワーもあり、蚊の出現なども心配されたが、私には問題ない住環境でぐっすりと眠れた。

7月21日(火)鹿野茶、小野茶へ

さわやかな朝を迎えた。朝ご飯を食べさせてもらい、今日もUさんの車で出発するが、一体どこへ行くのだろう。Aさんと3人で山道を50分ほど行くと、川が流れ、自然豊かな山間集落が出現する。その道沿いに茶樹がちらほら見え隠れしているとテンションが上がる。如何にもUさんが好む光景だ。

近所で聞き込みをすると、80歳になるSさんが親切にも、この付近の茶の歴史を説明してくれた。茶はその昔(少なくとも明治初期)から作っているが、最盛期はかなりの量を出荷していたという。だが近年は人口減少(23軒あった家が今は6軒のみ)と高齢化が進み、自分たちの飲むお茶を生産しているだけだ。毎年5月に若葉を使って釜炒り茶、ほうじ茶を作る。番茶という名称は使わない。Sさんに案内されて、茶畑も見た。緩斜面の狭いところに茶樹が植えられている。

そこからまた山道を30分ほど行くと、集落があった。こちらは以前Uさんが訪ねたことがあるという。Nさんというお宅へ寄ったが、ご主人は介護ベッドの上におり、奥さんは『こんな状態だから、もうお茶は作れない』と残念そうに話してくれた。これが山間部の現実かもしれない。もうすぐ山のお茶は消えてくことになりそうだ。

鹿野という街へ向かっていると、山の中に突然看板を見つけた。降りてみると『井上豊後守墓所』と書かれている。何と戦国時代に毛利家に仕えた武将だったらしい。墓も非常に古く、家臣の分も含めて沢山ある。そしてあの長州ファイブの一人、鉄道の父井上勝がその子孫だと言い、また井上薫も一族内の人間であるらしい。こんな山奥に戦国を見るとは思いもよらない驚き。

そこから1時間以上走って鹿野に着いた。腹が減っていたが、食堂なども見つからず、もちろんコンビニもない。昼飯抜きか、と思っていたところ、偶然食事処が目に入る。何という幸せ。すぐ飛び込んで美味しいとんかつにありついた。そしてそこの奥さんが実に愛想がいい。聞けば大阪から嫁いできたといい、『田舎町ではいつまで経っても、余所者なのよ』と笑いながら、余所者の我々に色々と話してくれた。その中で鹿野茶について聞くと、関係者と連絡を取ってくれた、感謝だ。

鹿野ファームという直売店で鹿野茶を買ってみた。更に町外れの『たぬき』というお店へ行くとご主人は鹿野茶の製造もしており、話を聞きながら、手作りの製茶道具なども見せてもらった。5月の田植えが終わると茶作りをするらしい。鹿野茶の起源は1374年漢陽寺を開いた用道禅師が中国から茶の実を持ち帰りこの地に植えたことに始まるという(この時代に、こういうことは普通だったのだろうか?)。江戸時代、鹿野茶は有名ブランドだったとか。昭和初期でもかなりの産量があったというが、現在は細々と作られているだけ。漢陽寺は先ほど横を通り過ぎただけだったが、中に入って見るべきだったと後悔したが後の祭り。

そこからさらに1時間ほど車に乗り、小野茶の産地へやってきた。山口茶業は、観光茶園でも売り出しているのか、リゾートのような素晴らしい空間の中にあった。H社長は2代目で、初代の父親が八女から移住して、高度成長期に小野茶開発に努めたという。役所と連携して、広大な茶畑を造成している。今日回ってきた中で、企業型の茶業は初めてだった。釜炒り茶も作っているとのことだったが、『大量には売れないよ』と残念そうにこぼす。

その造成された茶畑も見に行った。確かに広い台地に茶畑が向こうの方まであった。防霜ファンも見え、伝統産業とは全く違う光景だった。だがその一部には耕作放棄茶園も見られた。ここもご多分に漏れず、後継者不足、そして茶価の低迷の煽りを受けているようだ。夕暮れの台地が少し悲しい気分にさせた。

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