杭州日本茶の原点を見に行く2012(2)静岡茶の原点径山茶

6月1日  3.  径山寺   径山寺へ辿り着く

翌朝、いよいよ今回のメインイベントである径山寺へ向かう。実は以前より龍井茶の茶荘の人々が美味しそうに飲んでいたお茶が気になっていた。聞くと径山茶だという。ある人が「これは龍井茶と同じくらい美味しいが値段は10分の1。これが知れると値段が高騰する恐れがあるので黙って飲んでいる」と言い、とても興味を持った次第。

そして昨年杭州で会ったある女性が「径山寺によくお参りに行くので、お寺のお坊さんとも懇意だ」と言っていたので思い出して連絡を取る。ところが杭州まで来てみると何と彼女は出張に出てしまい、アレンジできなくなっていた。唯一の手がかりは一日一本しかないというバス。

実はその女性の伯父さんが昨晩会った汪さん。事情を聞いた汪さんは何と私に同行して径山寺へ行ってくれるという。有難いやら申し訳ないやら。ところがところが・・、当日朝8時前にバスの出発場所に行って見たが、そんなバスはないと言われる。仕方なく余杭行きのバスに乗る。2元。1時間ほどバスに揺られ、終点で下車。ところがはやり・・。ここから径山寺行きのバスは午前9時と午後3時しかなく、既に午前の便は行ってしまっていた。

仕方なく汪さんと道路へ出て方策を練る。そこへタクシーがやって来たので、乗り込む。100元、40分は掛かった。途中までは平地を行くが、そこから山登りが始まる。かなり奥深い場所へ来た感じだ。帰りは1時20分発のバスがあるというので、タクシーを断り、寺を目指す。

タクシーを降りると目の前に「日本茶道の源」と書かれた看板が。おー、何だか分からないが、いい感じだ。周囲の雰囲気も落ち着いていて、日本的に見えてくる。「径山萬寿禅寺」と書かれた山門を潜る。汪さんが線香を買ってくれ、拝殿に捧げる。

径山寺と茶

径山禅寺は天目山東部凌雲峰一帯、東北峰の径山(770m)にある。南宋の五山の一。唐代の742年に法欽禅師により創建され、宋代には僧侶3,000人という隆盛を極めた。茶を仏に捧げる修行があり、茶樹は開祖法欽禅師が植えたとの説がある。径山茶宴と呼ばれる僧侶により開かれる大茶会があり、日本の茶道の源流であるとも言われている。また天目茶碗の天目はこの山から来ている。

日本茶の祖といわれる栄西も、この余杭に一時期滞在したらしい。この寺が臨済宗の原点と言われる所以であろう。南浦紹明は宋から帰朝の際、ここから茶の臺子(茶道で用いられる棚)などの茶道具一式を持ち帰り、中国の茶の方式を大徳寺に伝えたという。

1235年、静岡出身の聖一国師が入宋し、径山寺などで修行。修行の中に茶栽培、製茶などが含まれており、1241年の帰国後、静岡に茶の種を撒いたのが静岡茶の始まりと言われている。寺から茶園に向かう涼やかな道に記念碑も建てられている。この付近は実に日本的な雰囲気が立ち込めている。

径山茶は銘茶と言われてきたが、清代には径山寺が廃れて顧みられなくなったことから、茶も忘れ去られた。文革で荒れ果てた寺はその後再興され、茶も復刻されたというが、その名声は龍井茶には遥かに及ばない。地元に人に寄れば、「龍井茶が有名になったのも国家指導者が推奨した、所謂国策だった」と。径山茶は国の政策から外れているのだろう。

茶園は山深い斜面にあり、幽玄な景色が見られる。この地の茶摘みは年1回、当然茶のシーズンは終わっており、茶の木も何となく薄ぼんやりとしている。それがまた良い。茶葉を摘み、茶を作り、そして修行とする。とてもいい。

径山茶

今回は案内してくれる人もなく、汪さんと二人でゆっくりと寺を見て歩く。径山禅茶と書かれた建物があったので中を覗く。すると製茶設備一式が置かれており、ここで茶が作られることが分かる。これは究極の手作りと言えるのだろう。きっと美味しいに違いない。

どうしてもお茶を飲んでみたかったが、昨年は開いていた茶店が今年は閉店しているという。何とも残念。代わりに?昼食を寺の食堂で取る。これは昨日の寺と全く同じで喜ばしい。今日のメニューは完全な精進料理。豆腐とわかめのスープ、肉もどきの野菜などが並び、代金はお布施として10元程度を入れる仕組み。

おかずを盛るおばちゃんが、もっと食べな、と大盛りにしてくれ、ご飯もお替り自由だと告げる。この山深い寺でゆっくりとした気分で食事を取る、それは一番の美味しさだろう。だがお茶にはあり付けない。

バスの時間には少し間があったが、バスが来ているか見に行くと、おばさんが声を掛けて来た。お茶が飲めるという。付いて行くと近くの簡易宿泊所と食堂を兼ねた店。そこで出た径山茶は実に美味しく、飲み易かった。水のせいかもしれない。料金は1杯20元。この店にある径山茶で一番高い物でも、1斤、800元程度。龍井茶に比べると格安だ。日本茶の源流、と言われればそうかなと思うほど、飲み易い。

この店には毎年日本人が一人で数日泊りに来るという。新茶の時期に何をするでもなく、日がな茶を飲みながら過ごしているらしい。そんな生活、いいな。しかし無情にも帰りのバスが出る。バスを乗り替え杭州市内へ戻る。全てバスだと僅か16元の旅だった。




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