福州お茶の原点を訪ねる2012(2)金駿眉やらアメリカ人やら

正山小種堂

夕方紅茶屋に戻ると、お客が来ていた。紅茶屋にはお茶関係者も多く往来するので、ここに居るだけでも楽しい。特に今日来た女性は若いが元気がとても良い。聞けば武夷山から来たという。魏さんが言う、「彼女が正山堂の広報担当だよ」と。

正山堂、それは最近の中国紅茶ブームの火付け役とも言える、金駿眉、銀駿眉を生み出した所だ。何でも今から400年ほど前に紅茶の元祖とも言える正山小種を作り出した江さんの24代目が今の会長だとか。何だか不思議な感じはあるが、そうだとすれば、この会社、いやこの会長の家は中国紅茶のルーツであり、17世紀以降、イギリス人が好んだお茶、正山小種、俗に言うラプサンスーチョン、を生み出したことになる。これも歴史だ。

福建省の紅茶、それはラプサンスーチョンであり、このお茶が輸出され、そしてこのお茶が飲みたいがため、アヘン戦争が起こったのかもしれない。いや、そんな高級なお茶ばかりが輸出された訳ではない、と少々頭が混乱する。松ヤニで燻したお茶、スモーキーな味わい、かなり変わったお茶であり、一般受けする感じはなかった。それが金駿眉の異常なブーム。500g、2万元だ、3万元だと言われると疑ってしまう高値。現在でも正山堂の卸値は9,800元だそうだ。100g換算でおよそ日本円2.5万円。有り得ない数字だなあ、と思う。

その秘訣を聞きたいというと流石は広報担当、兎に角一度武夷山へ来てくれ、と言われる。こちらとしては願ってもないことだが、行ってもそう簡単に秘密が分かるような気がしない。取り敢えず今日は知り合えただけで良しとしよう。私が帰る日に魏さん達は行くようだ。今回のご縁はここまでだ。

老外の夏先生

夜、私の為にゲストを呼んだというので、紅茶屋で待つ。やって来たのは何とアメリカ人。流暢な普通話を話し、既に福州に6年いるという。現在は福州大学のTMBAに通っていると本人は言っていたが、本当にそんなものがあるのだろうか。因みにTMBAとはTeaのMBA。お茶の製法管理から販売経営までを学ぶのだという。

彼は欧米人向けにお茶のコーディネーターを仕事としており、茶博覧会などでも活躍する。また昨年茶に関する本も出版しており、この辺りのお茶関係者には有名人である。自らを夏年生と名乗り、中国服っぽい物を着ている。面白い人物である。

周囲が完全アウエー中で仕事が出来るのは素晴らしい。我々は二人で話すときは英語で、誰かが入ると普通話で話した。何となく、違和感があったが、まさにそれがアウエーということだろう。明日の夜、素晴らしいお茶屋に連れて行ってあげる、と言い残し、夏先生は帰っていった。明日がちょっと楽しみになった。

3.   福州3日目(16日)   飲茶を食べながら

翌日午前中はフリーということで、ホテルで休む。少し疲れが出ているかもしれない。そんな時は休むに限る。そして昼ごはんは皆で飲茶へ行く。主目的は正山堂の広報担当を接待することで、私もそのお零れに預かる。中国的には重要な来客があれば、何をおいても食事を共にする。魏さんと正山堂がどういう関係で、どんな取引を、いや駆け引きを行っているのかは知る由もないが、こういう場面も面白い。

 

皆でワイワイ言いながら、点心を食べているだけのように見えて、魏さんの親戚で会社を共に支えている魏小姐は、要所要所で色々と聞き出している。営業担当は営業の、業務開拓は商品の話を小出しに出す。皆役割があって参加している。飲茶は、台湾式ではなく、香港式。一つ一つ美味しく頂く。ただ福州の人は北の中国人と違い、それほど一度の量を食べない。この辺もまた面白いところ。お茶は持参したお茶を淹れて飲む。

福州の茶市場

午後はお茶の卸売市場へ案内してもらう。この市場、結構歴史があるようで、周辺も含めれば数百軒のお茶屋が並ぶ巨大市場。福建省のお茶を中心にお茶なら何でもありそうだが、人通りは少ない。

魏さんの店、元泰茶業もここに店を出している。だが、やはり客足が鈍く、今月末に閉鎖する予定だという。お茶の消費が増加していると言っても、個々のお店や市場が必ず儲かる訳ではない。中国で増えすぎた茶城などの実態を少し見た思いだ。

福州のお茶と言えば、実はジャスミン茶。その老舗、春倫名茶の出店があったので寄ってみた。高級ジャスミン茶は作るのに非常に手間が掛かり、今では生産量はかなり減っているという。昔はお茶と言えば、ジャスミン茶という時代もあったが、現代、これほど多種のお茶が出回ると、ジャスミン茶も厳しい。特に安いお茶が沢山で回るので、高級茶のイメージが作り難い。

お茶を試飲させてもらうと、非常に良い花の香りが鼻を突く。この香、女性などは好きなのだろうな、と思いながら、お店を後にする。後で貰ったパンフレットを見ると、この店、老舗と言っても1985年頃設立とある。そうか、中国の茶業は新中国建国後、殆どが国有化され、ここの農民は茶葉を国営工場に供出するスタイルだから、個人経営の会社は存在しなかった。だから、会社は最近、だが、お茶作りは数百年の歴史、と言わざるを得ない。何とも不可思議。

次に白茶の店へ飛び込みで入る。白茶も福州近郊の名産。白茶と言えば、香港の飲茶屋で香港人が良く飲んでいる寿眉茶を思い出す。日本人は香港人がプーアール茶やジャスミン茶を飲みながら点心を食べていると思っているが、比較的多くの人は白茶である寿眉を好む。一つには健康に良いとされ、もう一つは値段が安いからだろう。毎日のように飲むお茶に一般庶民は早々お金を掛けられない。

白茶で驚いたのは、プーアール茶のような茶餅が大量に売られていたこと。それも3年物だとか、2年物だとか、まるでプーアール扱い。何とか白茶ブームを起こそうとするのは商売上分かるが、それに意味があるのだろうか。正直それほど美味しいとは感じずに、立ち去る。

茶館巡り

夜は昨晩の夏先生がまたやって来て、我々を馴染みの茶芸館に連れて行ってくれた。非常にきれいな外装、節節清と書かれた看板。中に入ると更にきれいで優雅。かなり広いスペースには、ゆったりとした茶を飲める空間があり、別途個室も備えている。如何にもお金持ちが来そうな雰囲気。

夏先生の指示で女性がお茶を淹れてくれた。大紅袍は優しい香りがした。プーアール茶は緩い余韻があった。場所の静寂のせいであろうか。ただ店内の写真撮影は禁止、など、少し窮屈な面があり、うーんと思ってしまった。

そしてもう少し庶民的な所へ行こうということになり、案内されたのは元々魏さんのお店で茶芸を披露していた女性のお店。こちらはこじんまりしたスペースで、グッとくつろげる雰囲気。

女性が見事な手さばきでお茶を淹れてくれ、皆ワイワイ話しながら飲む。私としては、優雅で上品よりこちらの方が楽でいい。福州には様々なタイプの茶芸館が存在する、それ自体にお茶の厚みを感じる。



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