豊原・台中・鹿谷散歩2016(3)新しい茶の形

そして草悟広場という、ビルの間の広場へ行く。地下に入るとMUJIが店を出していた。そこへ入っていくと、何ともきれいなお茶スタンド?があった。ここはジョニーが最近作った『吉時好茶』というお店だった。完全なオープンスペースに、若者が二人、お客の好みを聞き、試飲させている。気に入った客は、それをオーダーして、テイクアウトしていく。

 

茶のラインナップも、梨山をはじめ各地の烏龍茶、紅茶が10種類以上ある。お客はホットかアイスを選ぶこともできる。店で飲みたければカウンターに座ることもできる。料金は130元程度と、普通のテイクアウトスタンドよりはかなり高い。だが私がずっと見ていると、殆どお客にいない平日の午後、MUJIに入ってきた僅かの客、20-40代の女性の多くが、ここに目を止め、足を止め、試飲していた。試飲した客の多くが実際に味を確かめて購入し、テイクアウトして、広場でお茶を楽しんでいた。この気楽さと、お茶の味が分かるところが、台湾の希望だと感じた。この世代、美味しければお金は出てくるのだ。

 

ここで働く若者は、ジョニーの大学の教え子だ。彼は忙しい中、大学で茶、特に評茶の講義を行っており、その内容に憧れて茶業を目指す若者を積極的に登用していた。この店を出した意味、それは台湾の茶業の将来を考える上で重要だったと思われる。お茶の知識を備えた人がちゃんと淹れてくれる茶を気楽に飲める場が必要なのだろう。若者も世界の茶については興味津々、お茶の輪が広がっていく。

 

何故ペットボトルの茶飲料が流行るのか。それは便利だからだろう。価格もそれほど高くはないが、もし家で普通のお茶を淹れたら、その方が安い。リプトンのティバッグを見れば歴然だろう。この手軽なお茶を求める層に合うお茶が提供されていないと、と感じることが日本でもある。スターバックスのコーヒーをテイクアウトする層に合わせたお茶があってもよいと思うのだが、どうだろうか。

 

林さんが買ってきたプリンを頂く。このプリンに合うお茶はどれだろうか、などと考えながら食べるのだからすごい。ある意味で遊びながら真剣に考える、現代スタイルでよいと思った。店長は今頃昼飯の弁当を食べている。みんなすごく真面目なんだな、と感心する。チーズケーキまで食べ終わって外へ出る。因みにこの店で外からの持ち込みが可能かどうかは知らない。

 

台中の歴史的建造物、ということで、旧台中刑務所演武場へ行く。この建物は1937年に創建され、柔道や剣道が行われていたという。裏手には完全和式の建物があり、縁側でお茶が飲めるスペースになっていた。庭を見ることも出来、なんか日本に居るような気分にさせられる。戦後は官舎として使われた様だが、90年代に監獄は移転し、一部を除いて撤去された。更には1999年の大地震で損傷を受け、その修理をしようとした矢先に火事にもあったという。それでも我々の前にその姿を見せてくれていることは、何か歴史の因果だろうか。

 

そろそろ豊原へ帰るのかな、と思っていたが、もう1つ行きましょう、と言われ、ついていく。そこは巨大な建造物。『実はこの設計は日本人がしたんですよ』というではないか。伊東豊雄と名前を言われても恥ずかしながら、全く知らなかった。台中国家歌劇院、伊東氏が6年もの歳月をかけて作り出したものだという。その外観がやはりインパクトがある。杯の形だろうか。

 

中に入ると、広い空間、高い天井、全てが曲線に包まれている感じだ。しかもその曲線がすべて違ったものに見えている。実に柔らかく、包み込まれる。5階に上がると、特別の空間があり、15分間、その中でクッションに座り、ただぽっかりしていた。何もしていないのに、癒される感覚を得ている。伊東氏は既に75歳だというが、どこからこんな感性が出てくるのだろうか。既に頭の固くなった私には想像もつかない。屋上も庭園になっており、心地よい。日が暮れるとライトアップが美しい。林さんも『日本の設計は素晴らしい』と喜んでいた。

 

暗くなって豊原の店に戻った。夏休みに一日外で遊んでいた子が家に帰ってきたような心境だった。店では、1970年代の梨山の写真などを見せてもらい、ジョニーのお父さんたちが梨山の高山茶の基礎を作ったことを勉強する。既にあの高山で4日も過した経験があったから、それが如何にすごいことかをひしひしとかみしめた。茶業というのはある意味で本当に恐ろしい産業だ。

 

出張からジョニーが帰って来た。車ではなく高速鉄道で行ってきたようだ。豊原には高鐵は通っていないが、やはりこれが一番早いらしい。疲れているだろうに、ジョニーはまたも夜市に連れて行ってくれた。悪いとは思いながらも、夜市には行きたい。えびのたっぷり入った肉圓を頬張り、懲りずにさらに肉丸へ突撃する。肉丸を食べ終わると、そこにスープを入れて飲むのが美味しい。

 

一気に腹が一杯になり、すぐに降参となってしまった。だがジョニーはそれならデザートを、と更に勧めてくれる。パイナップル氷+杏仁露、これまた何とも言えない味だった。いくらでも出てきそうなので退散したが、他にも大勢が並んでいて食べられないものがいくつもあったから、次回またリベンジするべし。車で宿まで送ってもらい、腹が苦しくてしばし眠れず。

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