福建・広東 大茶旅2016(16)工夫茶の世界

工夫茶

老茶客、という名のその店は、きれいだった。中に入るとかなり奥行きもあり、思ったよりはるかに広かった。3つの場所でお茶が飲めるようになっており、茶館ではないのだが、友人たちが集って勝手に茶を飲んでいるようにも見えた。茶葉や茶器も豊富に並べられている。Tさんがスタッフに声を掛けたが、老板はまた戻っていないと言い、彼女がお茶を淹れてくれた。

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私は茶荘でお茶を買うことも殆どないので、何となく居てよいのかどうかと思う。まあTさんの知り合いの店だからいいか。見ると、白茶が出てきた。このお茶の味、どこかで飲んだようなと思い、入れ物を見てみると、何と4月に行った政和の楊さんのお茶だった。色々と繋がりはあるものだ。

 

老板の柯さんが帰ってきた。思っていたよりもずいぶん若い。彼は早々に店全部の客に挨拶して回る。とても礼儀正しい人だ。それから主人席に座り、小さな急須を取り出して、茶を淹れ始めた。その淹れ方が実に堂に入っている。聞けば、この世界に入って10年は経っていないらしい。台湾人の先生に見せられて、茶を淹れ始めた。そして今や、有名な茶淹れ人だとTさんは言う。

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そのTさんは子供の迎えがあるというので30分ほどで帰って行った。入れ替わりに昨日会ったKさんがやってくる。Kさんは今日の午後、自宅でお茶会があったのだが、実はこの店の常連だということが分かり、急きょやってきた。Tさんを紹介しようと思ったが、本日は叶わなかった。どうせ狭い茶の世界、遠からずどこかで会うだろう。

 

この店で何と言っても見せられたが、工夫茶。清代に作られたという茶杯と茶海。何ともシンプルで美しい。茶器に興味のない私でさえ、その素晴らしさを実感し、欲しいとさえ、思ってしまう。柯さんが自ら集めているコレクションのようだ。茶葉は香港で仕入れてきた老鉄観音茶。その焙煎の具合がまたよい。そして淹れ手も素晴らしい。このような空間を私は待っていたのだ。今回の安渓の旅では今一つ得られなかった満足感が、この旅の最終日に突然訪れたのだ。何とも言えない、不思議な感覚にとらわれた。ここに私を連れてきたのは一体だれなのだろうか。

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雨は降り続いている。今晩は予定があったのだが、その場所はここからそれほど遠くはないという。しかもKさんの家とも近い。結局柯さんが微信で車を呼んでくれ、我々2人はその車に乗った。この店に次回来るのはいつだろうか。そしてスワトウ出身の柯さん、しかも私が先日高速鉄道の窓から見た、あの古めかしい集落に実家があるという彼、次回は是非彼の実家に行って、彼が淹れた茶が飲みたかった。これで今回の旅は全て繋がった。

 

更にはKさんとも繋がりが深まった。今晩会うのは、私が30年前に上海に留学した時の同学、商社のTさんと生保のYさん。Tさんの勤務先は同じグループの企業だったのだが、何とKさんのご主人も同じグループの社員だと分かり、当然TさんとKさんは親しい間柄であった。こんなものはもう偶然でも何でもない。雨はものすごく強く降り注ぐが、車のお陰で濡れずにレストランに着いた。

 

かなり遅刻してしまった。TさんとYさんは既に食事を始めていた。2人とも会うのは十数年ぶりだった。この3人は企業から派遣生された留学生の中で最年少だったので、比較的気やすい関係だ。更にTさんが入った会社の同じ部署には私の大学の同級生がいた。しかも彼もTという姓だった。彼は数年前にすでにがんで亡くなっている。30年も経てば当然色々なことが起こる。Tさんは留学終了から現在まで中国やアメリカで駐在20年。Yさんも前回会ったのは上海だった。我々の世代で中国語をやった者の多くが、その後海外勤務になっている。

 

私は最近、余り昔話が好きではなかったが、このような夜は非常に楽しい。自慢話でもなく、何となく歴史を追っていく話、そして現在。更には仕事の話が殆どでないことも喜ばしい。何だか30年前にタイムスリップしたような、それでいて実に心地よい時間を過ごした。帰りも雨が降っていたが、Tさんの車で地下鉄駅まで送ってもらった。有り難い。部屋に帰るとすでにTさんは出発していた。ずっと一緒だったTさんがいなくなってちょっと寂しい夜だった。

 

1019日(水)
香港へ

翌朝も雨だったが、チェックアウト時はほとんど降っていなかったので、荷物を引いて、急いで地下鉄駅へ向かった。昨日と全く同じ路線を1時間、東駅に到着する。もう慣れているので、迷わず駅に入り、腹が減ったのでチェーン店で粥を食べた。この店の機械が壊れて注文が大混乱となった。

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それからゆっくりと待合室へ向かった。乗客の中には外国人が多く見られた。白人も見られたが、中東系、アフリカ系もいる。日本人ビジネスマンもいた。やはり直通列車は外国人向きだろう。面倒が少ないがちょっと料金は高い。イミグレを通り中国を出国。荷物検査は長蛇の列だが、乗り遅れる心配はない。列車は何となく昔を想起させ、懐かしい。この鉄道は中国側の運行なのだ。

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