ミャンマー激走列車の旅2015(13)ムセ往復でついに倒れる

 更には何と車のタイヤがパンクした。前途多難だ。だが運ちゃんはタイヤ交換に慣れており、実に手際が良かった。ミャンマーの道路事情とタイヤの質を考えるとしょっちゅう起こっているのだろう。その横を大型のトラックがすり抜けていく。ムセ行きのバスも通っていく。あれは中国人観光客を乗せて中国側まで行くのだろうか。乗車してから4時間半、国境より手前に検問があった。運転手が我々のパスポートを持って手続きに行く。だがなかなか帰ってこなかった。不安が募る。20分ぐらいして、運転手は何事もなかったように戻ってきて、パスポートを返してきた。何かがあったのだろうか、それとも単に処理が遅いだけだったのか。ここでは緊張が走る。

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そしてついに5時間かけて、ムセに到着した。それほど大きな街ではないが、さすが国境の街、レストランにもホテルにも、店にも漢字が溢れていた。街の真ん中あたりにあるイミグレーション。何とも緊張感のない、ダラッとした雰囲気の中、ミャンマー人が国境を抜け、瑞麗に向かっていた。基本的に外国人(第三国人)はここを通り抜けて中国へ入ることはできない。我々の旅はここで一旦終了した。

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イミグレの横を歩いていくと、金網が見える。その向こうには高い建物がいくつも見える。あれが中国だ、と思うと、ちょっと興奮する。そしてやっとの思いでここまで来たのに、その向こうに行けない無念さがにじみ出る。トラックが列を作っているところもある。物流が動いていることは確かだが、残念ながらこれまで通ってきた道を見る限り、それがとても活発だ、とは言えない。かつての援蒋ルート、第二次大戦中、米英が重慶の蒋介石を援助するため、物資を通した道、今よりひどい山道を一体どれだけの物資が運ばれたのだろうか。そして日本軍がそれを阻止しようとして、我々が通ってきた道では爆撃などが行われている。ゴッティ橋も爆撃に遭っていたはずだ。

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昼ご飯を食べる。せっかくここまで来たのだからと、敢えて中華料理を選ぶ。だが店には客は殆どいない。この店のメニューは全て中国語、店員も中国人だった。雲南から出稼ぎにきたらしい若者は片言の英語を話したが、こちらが中国語で話すとホッとした様子で話し出した。『出来れば料理を学び、海外で働きたいんだ』と。この店はやはり中国人が使うところで、裏にはカラオケなどの施設も備わっている。料理も完全な中華であり、値段はそれなりに高い。Wi-Fiが繋がるとのことだったが、電波が弱く、パスワードを入れても繋がらなかった。

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ムセ滞在は僅か1時間、またラショーの街を目指して戻っていく。片道5時間かけてやってきて1時間しかない、通常私の旅では考えられないことだが、もう慣れた。こんな旅なのだ。しかもこの帰り道は、この旅自体にも入っていない。あくまでこの旅はシンガポールからロシアのムルマンスクまで行く旅だから、途中で引き返すとか、また旅を続ける所まで行く、と言った行程は、旅ではないのだ。そんなことを考えていると、急に腰が痛くなってきた。最初は我慢できると思っていたが、途中からは脂汗が出てきた。車が揺れる度に体をひねって対応していたのだが、その対応に限界が来ているようだった。

 

運転手が道端に車を停めて、トイレ休憩してくれたので助かったが、もう座っていられないほどだった。動きも相当に鈍くなる。車に乗り直しも状況は好転しなかった。もぞもぞと体を動かしてみても、改善しない。あんなに嫌だった列車の旅が懐かしかった。座っていなくても良いのだ。通路を歩いていた方が楽だった。しかしそんなことを夢想しても何もならなかった。兎に角耐えるだけだった。

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そしてついにラショーの街に戻り、ホテルの部屋に入った。その瞬間、私はベットに倒れ込み、布団をかぶって動かなくなってしまった。S氏とNさんに『もう私は一歩も動けません。夕飯もいりません』とまるで学校に期待がらない子供のように宣言した。しかし何とS氏から『今晩、NHKのラジオ深夜便に出演します。うるさくて迷惑を掛けるかもしれない』と言われてしまう。恐れ入りました、本当に。これだけの旅をやってきて、まだラジオに出るのか。しかも本来であれば、私が部屋を空けなければならないのに、ご本人がロビーの電話で仕事をしている。頭が下がる、というか、もう神のように見えた。『ロビーの方が電話の繋がり良かったよ』という言葉を遠くで聞きながら、深い眠りに落ちた。それは芯から欲していた眠り、もう乗り物に乗らなくてよい、という安堵の眠りだった。

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