アンコールへの旅2014(5)タ・プロムのうめき

タ・プロム

一度ホテルに戻り、ランチは各自で取る。我々はホテルの前のタイ系レストランに入り、炒飯などを食べる。正直バイヨン以降の余韻、衝撃で疲れが出てきている。勿論朝4時半に起きた疲れでもある。でもベッドで昼寝をしようとしても寝ることはできなかった。かなり気持ちが動揺している。

 

午後はイオンが支援して建てたプリアノロドム・シアヌーク・アンコール博物館へ行く。ここには仏教寺院バンテアイ・クディから出土した多くの仏像が展示されている。その多くは建立者ジャヤバルマン7世没後、廃仏毀釈に遭い、首を落とされ、破壊された。それを憐れんだ民が、丁寧に埋葬したと推測されている。近年上智大学チームがこれを発掘、展示している。

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インドなど他のアジアでも見てきたが、首のない、それも夥しい数の仏像を眺めることは、ある種の苦痛である。既に信心が無くなっており、仏教徒とは言い難い私が、そう感じるのは、単なる表面的な痛々しさから来るのだろうか。宗教とは何だろう?と考える瞬間でもある。

 

中国で文化大革命があり、徹底的に宗教を破壊した頃、カンボジアでもポルポトの圧政があり、宗教を否定した。勿論この両国には連動があり、そして両国民は、宗教心を失っていった。現在カンボジアでも上座部仏教が主流だというが、その実は無宗教者が多いという現状があり、それは他の東南アジアとちょっと異なる点である。

 

タ・プロムへ行く。ここはアクションアドベンチャーゲーム、『トゥームレイダー』のモデルとなり、アンジェリーナ・ジョリー主演の映画ではここで撮影も行われたということで、欧米人を中心に観光客が大挙して、訪れている場所。元々は仏教寺院で僧侶も多く住んでいたらしいが、その後荒廃し、現在では寺院とガジュマルの木が寄り添うように、支え合っている。その光景が、アドベンチャーゲームにぴったりだったのだろう。

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ここはインドの支援で修復が行われているようだが、ガジュマルの木が遺跡を浸食しているのか、どのように保護すべきなのかで議論があるとも聞く。確かにこの何とも言えない独特の樹木と建造物の融合を、切り離すことはできないし、かといってこれに全く手を付けずに、修復作業を行うことも難しいだろう。

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それにしても観光客でごった返している。満員電車に乗りながら、記念撮影しているような気分でもある。その中でも声高に叫び、遺跡によじ登る中国人観光客、中国政府も海外旅行の注意事項などの通達を出しているというが、このあたりで彼らは明らかに評判を落としている。もし自覚がないのなら、来ないほうが良いと思うのだが。勿論静かに鑑賞している中国人の若者達は、その光景を苦々しく思っていることだろう。

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裏へ抜けていくと人がいなくなる。メインの観光ルートさえ外れれば静寂が戻る。日も西に傾いてきている。誰もいない廃墟に立つ。言葉では表現できない、何かが迫ってくる。勿論我々に語りかけて来るのではなく、自ら呻いているように思える。それが何なのか、感性に乏しい私には理解できなかった。うちの息子なら、何か言い出すかもしれない。

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帰りに夕陽を眺めた。私は昔から夕陽好きであり、どこへ行っても夕陽を眺めていた。マレーシアのマラッカでは夕陽を見るためだけに3泊したことさえある。だが最近は皆が夕陽を見ようとするので(観光用になってしまったので)、その興味はかなり薄れている。夕陽は一人でボーっと見たいものだ。

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夜はカンボジアの伝統舞踊を鑑賞しに行った。大きな会場には大勢の観光客が詰めかけ、ビュッフェのディナーが提供される。料理は盛りだくさん、各国から来たお客がどんどん料理を取って行く。この方式は完全に中国式。ここの経営も華人か中国人がやっているのだろう。とにかく質は別として、たくさんの料理を出し、お客の感覚を満足させる。料金は12ドルとそれほど高くはない。そして伝統舞踊を見せる。完全に顧客ニーズにマッチしている。

 

踊りは男女が登場し、コミカルな場面もあり、意外と楽しめた。彼らの顔立ちも完全なクメール顔から、ハーフかなと思うような洋風まで様々。アプサラダンス、アンコールの遺跡でもよく見かけるポーズ。特に手や指を反り返らせるところに特徴がある。その動きには意味があり、生命の儚さを表現していると言われている。ポルポト時代に一度消滅したこの踊りを復活させたカンボジア。そこに儚さを感じてしまう私。

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まあ、団体でやって来て、大量の食事を取り、生命の儚さを感じるのは無理かもしれない。踊りが終わると、踊り子たちと写真を撮ろうとする人々が殺到している。ダンスへの興味より、写真を撮ることが大事。どうなんだろうか。だが踊り子たちもそれで食べている。観光はビジネスだな、とつくづく思う。

 

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